回顧録第2話 情けは人の為ならず(その2)
文字数 1,861文字
(2)情けは人の為ならず <続き>
銅価格の下落は直ぐに対応策を決める必要があったので、その日の夜にカルテルに関係している国内商社の担当者を、会食の場に集合させた。
急な招集だったため、クラブのママを連れてきている商社の役員もいた。同伴出勤の約束をしていたのを断り切れなかったようで「申し訳ない」と言っていた。
さすがに、同伴では内密に話ができないので、クラブのママには打合せする隣の部屋で待機してもらった。アホとしか言いようがない。
※同伴出勤とは、キャバクラやクラブのホステスが男性客を連れて出勤することです。ちなみに、「同伴」は出勤前に店外で会うこと、「アフター」は、退勤後に店外で会うことです。
ベルグレービア商事では考えられない話だが、古い会社にはこういう役員がいる。
こういう人たちとも上手くやっていかないといけないのが、商社マンの仕事だ。
最近の若い社員は、こういう対応が苦手だ。私が若手の時は、こういう古いタイプの人たちしかいなかった。ジェネレーションギャップを感じるが、仕方ない。
私もかつては若手社員だったが。気付いたらオッサンだ。
びっくりするくらい、オッサンになるのは早かった。
今の若者には、『気付いたらオッサンだぞ!』と言ってやりたい気分だ。
***
話が脱線したので、戻そう。
私は、国内商社の担当者に対して、銅先物に大量の売りが出ていること、ジャービス鉱業が現物の販売量を増やしていること、その結果、銅の現物価格が下落しつつあることを説明した。参加者の中には、状況を把握していた者もいれば、初耳の者もいた。
それから私は、国内商社の担当者にカルテルを維持することの重要性を説いた。
本当の敵が誰なのかは、正直分からない。でも、敵は銅価格を下落させるために、動いているから、下手に各社が動くと、敵の思うつぼだ。
私が今月中に対応策を考えるから、勝手に動かないようにしてほしいと伝えた。
参加者からは特に異論はでなかったので、その日の会食はそれからしばらくして終わった。
ベルグレービア商事は銅取引から多額の利益を得ている。私の出世のためにも、カルテルを維持することが必要だ。何が何でも、解決してみせる。
***
この問題を解決するためには、まず、ジャービス鉱業にコンタクトして、情報を聞き出す必要があると私は考えた。
幸いにもジャービス鉱業には、懇意にしている役員がいる。
特に口が軽いのが、ケビンという管理担当役員だ。ケビンは内務省からの出向で、今はジャービス鉱業の経理・財務全般を把握している。
ケビンとは内務省の時からの付き合いだが、初めて会ったのは、ある商社の役員の紹介だったと思う。その後、何でもないやり取りをしていたが、付き合いが長くなると、徐々に人間性が分かってきた。簡単に言うと、女性にだらしないのだ。
最初は、ケビンの行きつけのクラブの支払いを、ベルグレービア商事で立替えるくらいだった。当時の上司は、ケビンが今後と使えそうだと考えたから、何でも承認してくれた。
ある時、ケビンが愛人を囲いたいと言い出して、ベルグレービア商事でマンションを用意した。その愛人には、給料としてベルグレービア商事から毎月お金を支払った。愛人との手切れ金も、ベルグレービア商事で用意した。
ケビンとはそういう関係だ。
普通の官僚と商社マンの関係よりも、少し深い関係と言えるだろう。
そういうわけで、ケビンは口が軽い。何でも教えてくれる。
私が、ジャービス鉱業の銅の販売量が増加した理由を聞くと、ケビンはすぐに「あれは、サンマーティン国から輸入している銅だ。内務省からの指示で売っている」と教えてくれた。
サンマーティン国から輸入した銅?
ベルグレービア商事は、港湾関係者に広いネットワークを有している。外国からあれだけの銅を輸入しているのであれば、ベルグレービア商事に分からないわけがない。
どういうことだろう?
私がどこの港を使っているか聞いたら、「詳しくは知らないが、輸入に使っているのは、国軍が管理している軍港らしい。運送は、国軍がしている」とケビンは言った。
国軍?
軍港?
そこまでして、銅を輸入する必要があるのか?
私は、サンマーティン国のどこから、何のために銅を輸入しているのか聞いてみたが、ケビンもさすがに知らないようだった。でも、ケビンに会って、有益な情報が得られた。
サンマーティン国に行けば、何か分かるかもしれない。
そうして翌日、私はサンマーティン国を訪問した。
<続く>
銅価格の下落は直ぐに対応策を決める必要があったので、その日の夜にカルテルに関係している国内商社の担当者を、会食の場に集合させた。
急な招集だったため、クラブのママを連れてきている商社の役員もいた。同伴出勤の約束をしていたのを断り切れなかったようで「申し訳ない」と言っていた。
さすがに、同伴では内密に話ができないので、クラブのママには打合せする隣の部屋で待機してもらった。アホとしか言いようがない。
※同伴出勤とは、キャバクラやクラブのホステスが男性客を連れて出勤することです。ちなみに、「同伴」は出勤前に店外で会うこと、「アフター」は、退勤後に店外で会うことです。
ベルグレービア商事では考えられない話だが、古い会社にはこういう役員がいる。
こういう人たちとも上手くやっていかないといけないのが、商社マンの仕事だ。
最近の若い社員は、こういう対応が苦手だ。私が若手の時は、こういう古いタイプの人たちしかいなかった。ジェネレーションギャップを感じるが、仕方ない。
私もかつては若手社員だったが。気付いたらオッサンだ。
びっくりするくらい、オッサンになるのは早かった。
今の若者には、『気付いたらオッサンだぞ!』と言ってやりたい気分だ。
***
話が脱線したので、戻そう。
私は、国内商社の担当者に対して、銅先物に大量の売りが出ていること、ジャービス鉱業が現物の販売量を増やしていること、その結果、銅の現物価格が下落しつつあることを説明した。参加者の中には、状況を把握していた者もいれば、初耳の者もいた。
それから私は、国内商社の担当者にカルテルを維持することの重要性を説いた。
本当の敵が誰なのかは、正直分からない。でも、敵は銅価格を下落させるために、動いているから、下手に各社が動くと、敵の思うつぼだ。
私が今月中に対応策を考えるから、勝手に動かないようにしてほしいと伝えた。
参加者からは特に異論はでなかったので、その日の会食はそれからしばらくして終わった。
ベルグレービア商事は銅取引から多額の利益を得ている。私の出世のためにも、カルテルを維持することが必要だ。何が何でも、解決してみせる。
***
この問題を解決するためには、まず、ジャービス鉱業にコンタクトして、情報を聞き出す必要があると私は考えた。
幸いにもジャービス鉱業には、懇意にしている役員がいる。
特に口が軽いのが、ケビンという管理担当役員だ。ケビンは内務省からの出向で、今はジャービス鉱業の経理・財務全般を把握している。
ケビンとは内務省の時からの付き合いだが、初めて会ったのは、ある商社の役員の紹介だったと思う。その後、何でもないやり取りをしていたが、付き合いが長くなると、徐々に人間性が分かってきた。簡単に言うと、女性にだらしないのだ。
最初は、ケビンの行きつけのクラブの支払いを、ベルグレービア商事で立替えるくらいだった。当時の上司は、ケビンが今後と使えそうだと考えたから、何でも承認してくれた。
ある時、ケビンが愛人を囲いたいと言い出して、ベルグレービア商事でマンションを用意した。その愛人には、給料としてベルグレービア商事から毎月お金を支払った。愛人との手切れ金も、ベルグレービア商事で用意した。
ケビンとはそういう関係だ。
普通の官僚と商社マンの関係よりも、少し深い関係と言えるだろう。
そういうわけで、ケビンは口が軽い。何でも教えてくれる。
私が、ジャービス鉱業の銅の販売量が増加した理由を聞くと、ケビンはすぐに「あれは、サンマーティン国から輸入している銅だ。内務省からの指示で売っている」と教えてくれた。
サンマーティン国から輸入した銅?
ベルグレービア商事は、港湾関係者に広いネットワークを有している。外国からあれだけの銅を輸入しているのであれば、ベルグレービア商事に分からないわけがない。
どういうことだろう?
私がどこの港を使っているか聞いたら、「詳しくは知らないが、輸入に使っているのは、国軍が管理している軍港らしい。運送は、国軍がしている」とケビンは言った。
国軍?
軍港?
そこまでして、銅を輸入する必要があるのか?
私は、サンマーティン国のどこから、何のために銅を輸入しているのか聞いてみたが、ケビンもさすがに知らないようだった。でも、ケビンに会って、有益な情報が得られた。
サンマーティン国に行けば、何か分かるかもしれない。
そうして翌日、私はサンマーティン国を訪問した。
<続く>