第6話 根回しをしよう(その1)
文字数 1,972文字
(6)根回しをしよう
今回の『カルテル潰し作戦』を実行するためには、外務省、国軍、内務省の協力が必要だ。外務省には銅の仕入先を紹介してもらわないといけないし、国軍には銅の輸送をお願いしないといけない。内務省の管轄しているジャービス鉱業には、銅の販売を依頼しないといけない。
円滑に『カルテル潰し作戦』を進めるためには、関係者に根回しをする必要があるのだ。
まず、俺、ルイーズ、スミスの3人は国王の了解を取り付けるために、王宮を訪問することにした。
王宮に向かう途中、スミスが深刻な顔をしている。
「どうしたの?深刻な顔をして」と俺がスミスに聞いた。
「それは、国王に会うんですから、緊張しますよね」とスミスはさも当然のように答えた。
一般的な感覚としては、そんなものだろうか?ただの偏屈な爺(じじい)なんだが。
「別に緊張しなくてもいいよ。例えるなら、『カールじいさん』かな。カールじいさんって、知ってる?」と俺はスミスに聞いた。
「家に風船を付けて飛ばそうとする、老人ですよね?」
「そう。妻に先立たれ、家に一人で暮らす偏屈な爺さんだ。まさにそんな感じだよ」と俺はスミスに言った。
※カールじいさんは、その後、少年ラッセルと出会い冒険を繰り広げます。
「はあ。ところで、急に呼ばれたので、正装に着替える時間がありませんでした。こんな格好で国王に会うのは、失礼に当たらないでしょうか?」実に真面目なスミスらしい質問だ。
「そんなの気にしなくていいよ。だって、俺、Tシャツだし。スミスはポロシャツだから襟あるじゃない。俺よりも正装に近いよ」
「はあ」スミスはまだ不安なようだ。
俺が横を見るとルイーズが履いていたのは、スリッパだった。サンダルでもミュールでもない。室内用のスリッパだ。スミスを勇気付けようと言った。
「ルイーズなんか、スリッパのままだ。靴さえ履いていない」
「私のことは、いいじゃない。私はシャツ着てるから、ダニエルよりも正装に近いと思うよ」とルイーズが言い返してきた。そもそも、女性は正装でもシャツを着る必要はないのだが。
「俺はTシャツだけど、靴は履いてる。高級レストランにも入れるよ。高級レストランは足元を見るからね。でも、ルイーズはスリッパだから、高級レストランに入れないよ」
「私も高級レストランに行くときは、靴履くわよ」とルイーズが言い返してきた。
「じゃあ、王宮は高級レストランよりも下ですか?」とスミスがルイーズに聞いた。
「TPO(時と場所、場合に応じた方法・態度・服装等の使い分け)という意味では、高級レストランの方が上でしょう。役所の敷地外にあるから。
今から行くのは、役所の隅っこにある『王宮』という名前が付いている建物。公務員にとっては、食堂に行くのと変わらない」とルイーズはスミスの質問に答えた。
「そういう認識なんですね」スミスは納得したようだ。
「まあ、服装は気にしなくていいんだよ。それに、スミスは襟付きで靴を履いてるから、もう正装と言っても差し障りないだろう」と俺はスミスに言った。
スミスが本当に納得したか分からないが、TPOを気にする必要が無いことは、実際に国王に会えば分かるだろう。
今日は暑いから、短パンにサンダルで出てくるはずだ。
俺たちが王宮に向かう途中に売店がある。役所の職員が買い物する場所だ。
売店からアイスを銜(くわ)えた短パンにサンダルの初老の男性が出てきた。
俺に気付いた初老の男性は、俺に話しかけてきた。
「やあ、ダニー。今日も暑いね」
「今日も暑いですね。今日のアイスはガリガリ君ですか?」
国王はガリガリ君が大好きだ。夏場は毎日食べている。
だから本当は、『今日のアイスはガリガリ君ですか?』ではなく『今日もガリガリ君ですか?』と言った方が正確だろう。
「どなたですか?」とスミスが俺に小声で聞いてきた。
「さっきまで話してたじゃない。俺の父親。国王だよ」と俺はスミスに言った。
「わしの話か?どんな内容だ?」ガリガリ君を食べながらジャービス国王は聞いてきた。人一倍、自分の噂話に敏感だ。エゴサーチは毎日欠かさない。
「大した話じゃないんです。一緒に来たスミスが、国王に会うのにこの格好で大丈夫かと心配していまして。国王は気にしないから大丈夫、と話していたのです」と俺は国王に説明した。
「そうか。わしも短パン・サンダルだしな。気にしなくていい。ジャービス王国の夏は暑いから。クール・ビズ(Cool Biz)は勤務環境の改善のためにも重要だ」と国王はスミスに言った。
国王の恰好は、ビジネス・カジュアルというよりも完全にカジュアルだが、本人の認識ではスーツ以外はどれも同じに見えるようだ。
「恐れ入ります」とスミスは国王に言った。何に恐れ入ったのか分からないが、きっと国王を見て緊張しているのだろう。
<続く>
今回の『カルテル潰し作戦』を実行するためには、外務省、国軍、内務省の協力が必要だ。外務省には銅の仕入先を紹介してもらわないといけないし、国軍には銅の輸送をお願いしないといけない。内務省の管轄しているジャービス鉱業には、銅の販売を依頼しないといけない。
円滑に『カルテル潰し作戦』を進めるためには、関係者に根回しをする必要があるのだ。
まず、俺、ルイーズ、スミスの3人は国王の了解を取り付けるために、王宮を訪問することにした。
王宮に向かう途中、スミスが深刻な顔をしている。
「どうしたの?深刻な顔をして」と俺がスミスに聞いた。
「それは、国王に会うんですから、緊張しますよね」とスミスはさも当然のように答えた。
一般的な感覚としては、そんなものだろうか?ただの偏屈な爺(じじい)なんだが。
「別に緊張しなくてもいいよ。例えるなら、『カールじいさん』かな。カールじいさんって、知ってる?」と俺はスミスに聞いた。
「家に風船を付けて飛ばそうとする、老人ですよね?」
「そう。妻に先立たれ、家に一人で暮らす偏屈な爺さんだ。まさにそんな感じだよ」と俺はスミスに言った。
※カールじいさんは、その後、少年ラッセルと出会い冒険を繰り広げます。
「はあ。ところで、急に呼ばれたので、正装に着替える時間がありませんでした。こんな格好で国王に会うのは、失礼に当たらないでしょうか?」実に真面目なスミスらしい質問だ。
「そんなの気にしなくていいよ。だって、俺、Tシャツだし。スミスはポロシャツだから襟あるじゃない。俺よりも正装に近いよ」
「はあ」スミスはまだ不安なようだ。
俺が横を見るとルイーズが履いていたのは、スリッパだった。サンダルでもミュールでもない。室内用のスリッパだ。スミスを勇気付けようと言った。
「ルイーズなんか、スリッパのままだ。靴さえ履いていない」
「私のことは、いいじゃない。私はシャツ着てるから、ダニエルよりも正装に近いと思うよ」とルイーズが言い返してきた。そもそも、女性は正装でもシャツを着る必要はないのだが。
「俺はTシャツだけど、靴は履いてる。高級レストランにも入れるよ。高級レストランは足元を見るからね。でも、ルイーズはスリッパだから、高級レストランに入れないよ」
「私も高級レストランに行くときは、靴履くわよ」とルイーズが言い返してきた。
「じゃあ、王宮は高級レストランよりも下ですか?」とスミスがルイーズに聞いた。
「TPO(時と場所、場合に応じた方法・態度・服装等の使い分け)という意味では、高級レストランの方が上でしょう。役所の敷地外にあるから。
今から行くのは、役所の隅っこにある『王宮』という名前が付いている建物。公務員にとっては、食堂に行くのと変わらない」とルイーズはスミスの質問に答えた。
「そういう認識なんですね」スミスは納得したようだ。
「まあ、服装は気にしなくていいんだよ。それに、スミスは襟付きで靴を履いてるから、もう正装と言っても差し障りないだろう」と俺はスミスに言った。
スミスが本当に納得したか分からないが、TPOを気にする必要が無いことは、実際に国王に会えば分かるだろう。
今日は暑いから、短パンにサンダルで出てくるはずだ。
俺たちが王宮に向かう途中に売店がある。役所の職員が買い物する場所だ。
売店からアイスを銜(くわ)えた短パンにサンダルの初老の男性が出てきた。
俺に気付いた初老の男性は、俺に話しかけてきた。
「やあ、ダニー。今日も暑いね」
「今日も暑いですね。今日のアイスはガリガリ君ですか?」
国王はガリガリ君が大好きだ。夏場は毎日食べている。
だから本当は、『今日のアイスはガリガリ君ですか?』ではなく『今日もガリガリ君ですか?』と言った方が正確だろう。
「どなたですか?」とスミスが俺に小声で聞いてきた。
「さっきまで話してたじゃない。俺の父親。国王だよ」と俺はスミスに言った。
「わしの話か?どんな内容だ?」ガリガリ君を食べながらジャービス国王は聞いてきた。人一倍、自分の噂話に敏感だ。エゴサーチは毎日欠かさない。
「大した話じゃないんです。一緒に来たスミスが、国王に会うのにこの格好で大丈夫かと心配していまして。国王は気にしないから大丈夫、と話していたのです」と俺は国王に説明した。
「そうか。わしも短パン・サンダルだしな。気にしなくていい。ジャービス王国の夏は暑いから。クール・ビズ(Cool Biz)は勤務環境の改善のためにも重要だ」と国王はスミスに言った。
国王の恰好は、ビジネス・カジュアルというよりも完全にカジュアルだが、本人の認識ではスーツ以外はどれも同じに見えるようだ。
「恐れ入ります」とスミスは国王に言った。何に恐れ入ったのか分からないが、きっと国王を見て緊張しているのだろう。
<続く>