第7話 銀行はシロかクロか(その5)
文字数 1,527文字
(7) 銀行はシロかクロか <続き>
俺が思いついた内容はこうだ。
Lシリーズの平均販売単価は2,000万JD。キャップレート(物件利回り)は5%と言っていたので、年間の純収益は100万JD(=2,000万JD×5%)だ。
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円としています。
周辺の不動産相場を調べたところ、Lシリーズのキャップレートは6%が相場水準のようだから、市場での売買価格は1,666万JD(=100万JD÷6%。表示単位未満を切捨て)。
レンソイス不動産は不動産売買相場よりも高く、Lシリーズを2,000万JDで販売している。
まあ、不動産会社が素人に高く売ることはよくあることだ。それほど珍しいことではない。
ディーンの話では、Lファイナンスが譲渡担保を実行して、競売に入札したレンソイス不動産が担保物件を取得したと言っていた。これは、低廉譲渡と言われないために、競売にしているのだと俺は考えた。
レンソイス不動産は、競売においてLシリーズの販売価格2,000万JDの50%(1,000万JD)で入札して個人投資家の不動産を取得している。キャップレートに換算すれば10%(=100万JD÷1,000万JD)となる。
すなわち、レンソイス不動産は、Lシリーズを相場よりも高く個人投資家に販売して、相場よりもはるかに安く競落(けいらく:競売で落とすこと)して利益を上げている。ジャービス王国では、競売が盛んではないからできる技だ。
【図表4-1-5:不動産販売、競売の流れ】
※上記は不動産販売から競落までの一連の流れを①~⑥で記載しています。なお、競売直前のLファイナンスの融資残高は900万JDとしています。
レンソイス不動産を邪魔しながら、個人投資家を少しでも助けるためには、競売に俺たちも参加するのがいいと俺は考えた。
具体的には、競売でLシリーズをキャップレート約7%、1,400万JDで入札する。競落した不動産をキャップレート約6%、1,600万JDで市場売却する。という内容だ。
俺たちが競売に参加すれば、レンソイス不動産にキャップレート10%で不動産を売却せずに済む。借入金残高に充当した後の個人投資家への返金額も増えるだろう。
俺たちの入札に併せて、レンソイス不動産も入札額を増やすのであれば、個人投資家にとって悪い話ではないだろう、と俺は考えた。
俺が説明を終えると、ガブリエルが発言した。
「個人投資家は、救われるわけではないのですね・・・」
「もちろん、一連の不動産取引を100%無かったことにはできないし、個人投資家に100%損失を出さないようにもできない。書類偽造以外は合法だし、総論すると個人投資家は不動産投資に失敗しただけだからね」
「レンソイス不動産に安く買い叩かれるよりはマシ、ということですね?」
「そうだね。一般的な不動産取引には、多かれ少なかれこのような要素は含まれている。だって、不動産会社は安く仕入れた物件を、投資家に高く売るのが仕事だから」
「私は、競売に参加するだけで充分だと思います。個人投資家の損失を、少しでも小さくしてあげられるのですから」とスミスが言った。
他のメンバーも頷いているから、本件ではこれくらいが限界だと理解したのだろう。
「じゃあ、競売に参加するために準備しよう。その代わり、並行して、あと10人ヒアリングする。結果を内務省に報告して、警察に調べてもらわないといけないからね」
こうして俺たちは、競売の準備に取り掛かった。
内部調査部の業務とは全く関係ないのだが、もう何も言うまい。
― 本来の目的を見失ってはダメだぞ!
俺はそう自分に言い聞かせた。
俺が思いついた内容はこうだ。
Lシリーズの平均販売単価は2,000万JD。キャップレート(物件利回り)は5%と言っていたので、年間の純収益は100万JD(=2,000万JD×5%)だ。
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円としています。
周辺の不動産相場を調べたところ、Lシリーズのキャップレートは6%が相場水準のようだから、市場での売買価格は1,666万JD(=100万JD÷6%。表示単位未満を切捨て)。
レンソイス不動産は不動産売買相場よりも高く、Lシリーズを2,000万JDで販売している。
まあ、不動産会社が素人に高く売ることはよくあることだ。それほど珍しいことではない。
ディーンの話では、Lファイナンスが譲渡担保を実行して、競売に入札したレンソイス不動産が担保物件を取得したと言っていた。これは、低廉譲渡と言われないために、競売にしているのだと俺は考えた。
レンソイス不動産は、競売においてLシリーズの販売価格2,000万JDの50%(1,000万JD)で入札して個人投資家の不動産を取得している。キャップレートに換算すれば10%(=100万JD÷1,000万JD)となる。
すなわち、レンソイス不動産は、Lシリーズを相場よりも高く個人投資家に販売して、相場よりもはるかに安く競落(けいらく:競売で落とすこと)して利益を上げている。ジャービス王国では、競売が盛んではないからできる技だ。
【図表4-1-5:不動産販売、競売の流れ】
※上記は不動産販売から競落までの一連の流れを①~⑥で記載しています。なお、競売直前のLファイナンスの融資残高は900万JDとしています。
レンソイス不動産を邪魔しながら、個人投資家を少しでも助けるためには、競売に俺たちも参加するのがいいと俺は考えた。
具体的には、競売でLシリーズをキャップレート約7%、1,400万JDで入札する。競落した不動産をキャップレート約6%、1,600万JDで市場売却する。という内容だ。
俺たちが競売に参加すれば、レンソイス不動産にキャップレート10%で不動産を売却せずに済む。借入金残高に充当した後の個人投資家への返金額も増えるだろう。
俺たちの入札に併せて、レンソイス不動産も入札額を増やすのであれば、個人投資家にとって悪い話ではないだろう、と俺は考えた。
俺が説明を終えると、ガブリエルが発言した。
「個人投資家は、救われるわけではないのですね・・・」
「もちろん、一連の不動産取引を100%無かったことにはできないし、個人投資家に100%損失を出さないようにもできない。書類偽造以外は合法だし、総論すると個人投資家は不動産投資に失敗しただけだからね」
「レンソイス不動産に安く買い叩かれるよりはマシ、ということですね?」
「そうだね。一般的な不動産取引には、多かれ少なかれこのような要素は含まれている。だって、不動産会社は安く仕入れた物件を、投資家に高く売るのが仕事だから」
「私は、競売に参加するだけで充分だと思います。個人投資家の損失を、少しでも小さくしてあげられるのですから」とスミスが言った。
他のメンバーも頷いているから、本件ではこれくらいが限界だと理解したのだろう。
「じゃあ、競売に参加するために準備しよう。その代わり、並行して、あと10人ヒアリングする。結果を内務省に報告して、警察に調べてもらわないといけないからね」
こうして俺たちは、競売の準備に取り掛かった。
内部調査部の業務とは全く関係ないのだが、もう何も言うまい。
― 本来の目的を見失ってはダメだぞ!
俺はそう自分に言い聞かせた。