第4話 退職者から話を聞こう(その3)
文字数 1,639文字
(4)退職者から話を聞こう <続き>
「すいません。くだらないことを聞いてもいいですか?」とポールは言った。
「なんでしょう?」
「2つのチームは仲が悪いんですか?」
「良くも悪くもないですね。2つのチームは全く異質ですから」
「異質?」
「アクティビストファンドのチームは上場株式のアクティブ運用なので、それぞれのトレーダーが自分の裁量権でポジションを保有します。一方、買収ファンドのチームは完全にチームプレーです。買収対象企業の調査、会社との交渉、銀行への融資依頼、買収後のリストラクチャリングなど、全ての業務をチームで行います」
「個人プレーとチームプレーですか・・・」
「仕事のやり方が全く違います。だから、アクティビストファンドのチームと買収ファンドのチームが一緒に案件をすることはありません。そういう意識も希薄です」
「なるほど。でも、考え方が全く違えば、業務上の連携は上手くいかないのではないですか?」とポールは聞いた。
「うーん、特にそういうわけではありませんね。お互いの利害は合致していますから、業務連携はスムーズだったと思います」
「へー」
「例えば、アクティビストのチームは会社への提案に失敗した場合、買収ファンドのチームに株式を売却します。アクティビストのチームは売却によってポジションがゼロになるので、次の対象会社に投資できます。一方、買収ファンドのチームからすれば、ある程度の株式がTOBの実施前に取得できるので、平均取得価格を下げることができます(図表6-9参照)」
【図表6-9:各チームの連携】
「じゃあ、アクティビスト・チームと買収チームの接点は、お互いが運用しているファンド間の株式売買のタイミングだけですか?」
「ええ、そうです。株式売買の際に売買価格について議論はしますが、お互いの業務には一切関与しません。一緒に仕事をしないから、仲が良くも悪くもありません。大企業の隣の部署みたいな感じです。それでも、お互いの利害は一致していたから業務連携は上手く行っていました」
「へー、面白い組織ですね」
「まあ、他人の仕事に興味がないのは、ファンド業界では珍しくはないですね。自分の運用するファンドに関する損益責任はありますが、他の担当者の運用成績がどうだろうと気になりません。運用するファンドの業績しかファンドマネージャーの報酬には関係ありませんから」
「ダウラアセットマネジメントが運用しているファンドは、大きく分けてアクティビストファンドと買収ファンドの2種類ですよね。その2種類のファンドの投資家(ファンドへの出資者)は全く別だったのでしょうか?」とポールは質問した。
ポールの予想が正しければ、海外投資家が技術移転のために出資しているはずだ。
「具体名は言えませんが、出資している投資家は少し違いました。でも、半分以上は同じだったと記憶しています」とルーカスは答えた。
「買収ファンドの出資者には海外投資家が多かったとか、そういう違いでしょうか?」
「いえ。ほとんどはジャービス国内の機関投資家です。記憶が曖昧ですが、海外投資家はなかったような気が・・・。」
ルーカスの回答は、ポールが予想していたのとは逆だった。
『海外投資家が技術移転のために買収ファンドに出資している』という当初の見込みは外れだ。
「え? 買収ファンドの投資家は海外投資家だと思っていたんです。違うのですか?」とポールはルーカスに聞いた。
「質問の意図が分かりませんが、海外投資家は買収ファンドに出資するメリットがあまりないと思うんです」
「じゃあ、誰が買収ファンドに投資しているのですか?」とポールは質問した。
守秘義務があるからルーカスが回答してくれるかどうかは微妙なところだ。
ルーカスは少し答えるか迷ってから、ポールに言った。
「アクティビストファンドに出資していないけど、買収ファンドに出資している投資家は・・・、例えば、国内銀行です」
ポールが予想していない答えだった。
国内銀行・・・
<続く>
「すいません。くだらないことを聞いてもいいですか?」とポールは言った。
「なんでしょう?」
「2つのチームは仲が悪いんですか?」
「良くも悪くもないですね。2つのチームは全く異質ですから」
「異質?」
「アクティビストファンドのチームは上場株式のアクティブ運用なので、それぞれのトレーダーが自分の裁量権でポジションを保有します。一方、買収ファンドのチームは完全にチームプレーです。買収対象企業の調査、会社との交渉、銀行への融資依頼、買収後のリストラクチャリングなど、全ての業務をチームで行います」
「個人プレーとチームプレーですか・・・」
「仕事のやり方が全く違います。だから、アクティビストファンドのチームと買収ファンドのチームが一緒に案件をすることはありません。そういう意識も希薄です」
「なるほど。でも、考え方が全く違えば、業務上の連携は上手くいかないのではないですか?」とポールは聞いた。
「うーん、特にそういうわけではありませんね。お互いの利害は合致していますから、業務連携はスムーズだったと思います」
「へー」
「例えば、アクティビストのチームは会社への提案に失敗した場合、買収ファンドのチームに株式を売却します。アクティビストのチームは売却によってポジションがゼロになるので、次の対象会社に投資できます。一方、買収ファンドのチームからすれば、ある程度の株式がTOBの実施前に取得できるので、平均取得価格を下げることができます(図表6-9参照)」
【図表6-9:各チームの連携】
「じゃあ、アクティビスト・チームと買収チームの接点は、お互いが運用しているファンド間の株式売買のタイミングだけですか?」
「ええ、そうです。株式売買の際に売買価格について議論はしますが、お互いの業務には一切関与しません。一緒に仕事をしないから、仲が良くも悪くもありません。大企業の隣の部署みたいな感じです。それでも、お互いの利害は一致していたから業務連携は上手く行っていました」
「へー、面白い組織ですね」
「まあ、他人の仕事に興味がないのは、ファンド業界では珍しくはないですね。自分の運用するファンドに関する損益責任はありますが、他の担当者の運用成績がどうだろうと気になりません。運用するファンドの業績しかファンドマネージャーの報酬には関係ありませんから」
「ダウラアセットマネジメントが運用しているファンドは、大きく分けてアクティビストファンドと買収ファンドの2種類ですよね。その2種類のファンドの投資家(ファンドへの出資者)は全く別だったのでしょうか?」とポールは質問した。
ポールの予想が正しければ、海外投資家が技術移転のために出資しているはずだ。
「具体名は言えませんが、出資している投資家は少し違いました。でも、半分以上は同じだったと記憶しています」とルーカスは答えた。
「買収ファンドの出資者には海外投資家が多かったとか、そういう違いでしょうか?」
「いえ。ほとんどはジャービス国内の機関投資家です。記憶が曖昧ですが、海外投資家はなかったような気が・・・。」
ルーカスの回答は、ポールが予想していたのとは逆だった。
『海外投資家が技術移転のために買収ファンドに出資している』という当初の見込みは外れだ。
「え? 買収ファンドの投資家は海外投資家だと思っていたんです。違うのですか?」とポールはルーカスに聞いた。
「質問の意図が分かりませんが、海外投資家は買収ファンドに出資するメリットがあまりないと思うんです」
「じゃあ、誰が買収ファンドに投資しているのですか?」とポールは質問した。
守秘義務があるからルーカスが回答してくれるかどうかは微妙なところだ。
ルーカスは少し答えるか迷ってから、ポールに言った。
「アクティビストファンドに出資していないけど、買収ファンドに出資している投資家は・・・、例えば、国内銀行です」
ポールが予想していない答えだった。
国内銀行・・・
<続く>