第7話 債券貸借取引(その2)
文字数 1,888文字
(7)債券貸借取引 <続き>
俺は機嫌が悪くなっていくルイーズに諭すように言った。
「そう、当たり前だ。でも、ジャービス・ドル金利が1%に下がったら、額面100億JDの利率3%の10年国債の時価は118.9億JDになる。割引率が1%になるからね。そのタイミングで10年国債を売却したら18.9億JD儲かる」
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円としています。
俺はそう言うと、額面100億JDの利率3%の10年国債の時価評価結果(図表7-13)をメンバーに見せた。
【図表7-13:国債の評価(割引率1%の場合)】
※DFは割引現在価値係数のことです。ここでは『1÷(1+金利)^年数』で計算しています。
「そうね・・・」ルイーズ。
ルイーズは『俺(ダニエル)がくだらないことを考えている』と思っているようだ。
俺は気にせずに話を続ける。
「そして、最終的にジャービス・ドルの金利を4%に上げるよね。そうすると、額面100億JDの利率3%の10年国債の時価は91.9億JDに下がる。つまり、事前に空売りしておけば8.1億JD儲かる」
俺はそう言って、額面100億JDの利率3%の10年国債の時価評価結果(図表7-14)をメンバーに見せた。
【図表7-14:国債の評価(割引率4%の場合)】
※DFは割引現在価値係数のことです。ここでは『1÷(1+金利)^年数』で計算しています。
「割引率が上がるから、国債の評価額は下がるよね」
ルイーズは汚いものでも見るような視線を俺に送った。
俺の考えていることが分かったようだ。
―― ルイーズは俺のことを軽蔑している・・・・
「だからさ、外為証拠金にする国債を借りてきて、ジャービス・ドル金利が1%に下がった時点で売って、ジャービス・ドル金利が4%に上がった時点で買い戻して、国債を返却する。国債の額面100億JDの場合は、118.9億JDで売却して、91.9億JDで買い戻すから、27億JD(=118.9億JD-91.9億JD)利益が出る」
俺は債券貸借取引と国債売買の流れ(図表7-15)をホワイトボードに書いた。
【図表7-15:債券貸借取引と国債売買の流れ】
「債券貸借取引で借りた国債を使うの?」とルイーズが俺に聞いた。
「そう。チャールズに頼んで、ジャービス中央銀行が保有している3,000億JD分の10年国債を無担保で借りてこようと思う。無担保債券貸借取引だね。そうすると、額面3,000億JDの国債の取引で発生する利益は810億JD(=27億JD÷100億JD×3,000億JD)だ」
「すごく儲かりますねー」とミゲルが呑気に言った。
「そう思うよね? 1年間の国家予算をこの取引でほぼ賄える」俺は自慢げに言った。
話を聞いていたポールが言った。
「国債を借りてくる場合、普通はレポ取引(現金担保付債券貸借取引)を利用すると思います。今回はレポ取引じゃないんですか?」
※債券貸借取引には無担保債券貸借取引と有担保債券貸借取引があります。
有担保債券貸借取引は、現金担保付債券貸借取引と代用有価証券担保付債券貸借取引があり、現金担保付債券貸借取引をレポ取引(Repurchase Agreementの俗称)と言います。
レポ取引においては、債券の貸し手は債券を貸し出す代わりに借り手から現金を受け取り、一定の期間が経過した後、債券の貸し手は債券を返してもらう代わりに借り手に現金を返します。
「レポ取引だと担保にする資金が余計に必要になるから、無担の債券貸借取引にしたい。それくらい融通利かせてくれてもいいと思うんだ。本来はチャールズがやらないといけない対応を俺たちがするんだから・・・」と俺は言った。
「じゃあ、それでいいんじゃない?」ルイーズはボソッと言った。
他のメンバーからも反対が出ないようだから、今回の取引はこれで行こうと俺は決心した。
取引の概要が固まったから、俺は内部調査部で準備する事項をメンバーに指示する。
まずは取引に利用するダミー会社(i6)を設立して、外為証拠金取引ができるように取引口座を開設する必要がある。さらに、債券貸借取引もあるから口座に国債を受入れて、外為取引の証拠金としてもらわないといけない。
証券取引と外為証拠金取引はポールがホラント証券会社出身だから、ホラント証券会社が対応できるかを確認してもらうことにした。
その他のメンバーには、会社の設立、取引口座の開設、債券貸借取引の根回し、外為証拠金取引の準備を割振った。
こうして、今回も内部調査部と関係ない仕事が始まった。
<続く>
俺は機嫌が悪くなっていくルイーズに諭すように言った。
「そう、当たり前だ。でも、ジャービス・ドル金利が1%に下がったら、額面100億JDの利率3%の10年国債の時価は118.9億JDになる。割引率が1%になるからね。そのタイミングで10年国債を売却したら18.9億JD儲かる」
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円としています。
俺はそう言うと、額面100億JDの利率3%の10年国債の時価評価結果(図表7-13)をメンバーに見せた。
【図表7-13:国債の評価(割引率1%の場合)】
※DFは割引現在価値係数のことです。ここでは『1÷(1+金利)^年数』で計算しています。
「そうね・・・」ルイーズ。
ルイーズは『俺(ダニエル)がくだらないことを考えている』と思っているようだ。
俺は気にせずに話を続ける。
「そして、最終的にジャービス・ドルの金利を4%に上げるよね。そうすると、額面100億JDの利率3%の10年国債の時価は91.9億JDに下がる。つまり、事前に空売りしておけば8.1億JD儲かる」
俺はそう言って、額面100億JDの利率3%の10年国債の時価評価結果(図表7-14)をメンバーに見せた。
【図表7-14:国債の評価(割引率4%の場合)】
※DFは割引現在価値係数のことです。ここでは『1÷(1+金利)^年数』で計算しています。
「割引率が上がるから、国債の評価額は下がるよね」
ルイーズは汚いものでも見るような視線を俺に送った。
俺の考えていることが分かったようだ。
―― ルイーズは俺のことを軽蔑している・・・・
「だからさ、外為証拠金にする国債を借りてきて、ジャービス・ドル金利が1%に下がった時点で売って、ジャービス・ドル金利が4%に上がった時点で買い戻して、国債を返却する。国債の額面100億JDの場合は、118.9億JDで売却して、91.9億JDで買い戻すから、27億JD(=118.9億JD-91.9億JD)利益が出る」
俺は債券貸借取引と国債売買の流れ(図表7-15)をホワイトボードに書いた。
【図表7-15:債券貸借取引と国債売買の流れ】
「債券貸借取引で借りた国債を使うの?」とルイーズが俺に聞いた。
「そう。チャールズに頼んで、ジャービス中央銀行が保有している3,000億JD分の10年国債を無担保で借りてこようと思う。無担保債券貸借取引だね。そうすると、額面3,000億JDの国債の取引で発生する利益は810億JD(=27億JD÷100億JD×3,000億JD)だ」
「すごく儲かりますねー」とミゲルが呑気に言った。
「そう思うよね? 1年間の国家予算をこの取引でほぼ賄える」俺は自慢げに言った。
話を聞いていたポールが言った。
「国債を借りてくる場合、普通はレポ取引(現金担保付債券貸借取引)を利用すると思います。今回はレポ取引じゃないんですか?」
※債券貸借取引には無担保債券貸借取引と有担保債券貸借取引があります。
有担保債券貸借取引は、現金担保付債券貸借取引と代用有価証券担保付債券貸借取引があり、現金担保付債券貸借取引をレポ取引(Repurchase Agreementの俗称)と言います。
レポ取引においては、債券の貸し手は債券を貸し出す代わりに借り手から現金を受け取り、一定の期間が経過した後、債券の貸し手は債券を返してもらう代わりに借り手に現金を返します。
「レポ取引だと担保にする資金が余計に必要になるから、無担の債券貸借取引にしたい。それくらい融通利かせてくれてもいいと思うんだ。本来はチャールズがやらないといけない対応を俺たちがするんだから・・・」と俺は言った。
「じゃあ、それでいいんじゃない?」ルイーズはボソッと言った。
他のメンバーからも反対が出ないようだから、今回の取引はこれで行こうと俺は決心した。
取引の概要が固まったから、俺は内部調査部で準備する事項をメンバーに指示する。
まずは取引に利用するダミー会社(i6)を設立して、外為証拠金取引ができるように取引口座を開設する必要がある。さらに、債券貸借取引もあるから口座に国債を受入れて、外為取引の証拠金としてもらわないといけない。
証券取引と外為証拠金取引はポールがホラント証券会社出身だから、ホラント証券会社が対応できるかを確認してもらうことにした。
その他のメンバーには、会社の設立、取引口座の開設、債券貸借取引の根回し、外為証拠金取引の準備を割振った。
こうして、今回も内部調査部と関係ない仕事が始まった。
<続く>