第6話 根回しをしよう(その3)
文字数 1,703文字
(6)根回しをしよう <続き>
次に、俺たちは銅の仕入ルートを紹介してもらうために、外務省に訪問した。
外務省は第3王子のアンドリューの管轄なので、事前に根回ししておかないと、後で面倒なことになる。
王宮から外務省に向かう途中、スミスが「アンドリュー王子はどういう人ですか?」と俺に聞いてきた。
急に会議に参加するように言われたスミスの気持ちは分からなくもない。
「アンドリューか。あいつは自分のことをジェームズ・ボンドだと思っている」と俺はスミスの質問に答えた。
※ジェームズ・ボンドは、架空の英国秘密情報部のエージェントである。
「007ですか?」とスミスは
「そうだよ。世界をまたにかけてスパイ活動を行う、あれだ」
俺も自分のことを探偵だと思っているから、スパイ設定のアンドリューに偉そうなことは言えないが。
「ジェームズ・ボンドはスーツ着てますよね?」
スミスはまた服装のことを気にしているようだ。
「スーツを着ている時もあれば、着ていない時もある」
「どういうことですか?」
「ジェームズ・ボンドは舞踏会ではスーツを着るけど、ビーチでスーツ着ないよね。だって、周りに誰もスーツ着ている人がいないところで、スーツ着てると目立つだろ。田舎にスーツ姿の人が歩いていると、詐欺の受け子だと思われてしまう。目立つのはスパイ失格だ」
「周りに同化する服装をしている、ということですね」
「それと、アンドリューは、映画のジェームズ・ボンドを分析して、登場シーン以外のジェームズ・ボンドを予想するんだ。そして、自分のジェームズ・ボンド像を作っている」
「自分のジェームズ・ボンド像ですか?」
「例えば、アンドリューが女性とバーでお酒を飲むときは、格好つける必要があるからウィスキーやブランデーをロックで飲む。でも、一人だと焼酎のお湯割りとか飲んでる。格好つける必要がないからね」
「はあ」
「そういえば、いろんなジェームズ・ボンドのグッズを集めてる」
「ひょっとして、ボンドカーに乗ってるんですか?」
「アストンマーティンは持っていたよ。歴代のボンドカーは種類が多いから、全部揃えるのは無理だけど」
「へー」
「でもね、海外出張が多いから、ボンドカーを持っていても、運転するのは年数回しかないと思う。お金の無駄だよね」
「それで、私の服装はどうなんでしょうか?」スミスの質問は最初のところに戻った。
「夏の外務省はクール・ビズだから、スーツは着ていないと思う。ポロシャツで大丈夫だよ」と俺は答えた。
スミスは少し安心したようだ。
***
俺たちが外務省のアンドリューの部屋に付くと、アンドリューはちょうど部屋に戻ってきたところのようだ。
さっそく俺は、アンドリューに『カルテル潰し作戦』の概要を説明することにした。
「・・・というわけで、国内商社は需要量よりも供給量を低い水準に抑えることによって、銅価格を維持しています。
現在の銅の国際価格は800JD/kgです。一方、ジャービス王国では銅は1,500JD/kgで流通しています。これを半年で国際価格の800JD/kgまで下げたいのです。
銅の国内価格を引き下げるためには、ジャービス国内の販売会社を競争させて、供給量を増やす必要があります。このため、新会社を設立して銅を外国から輸入して、銅の国内流通量を増やそうと考えています。新会社が輸入した銅を国内販売すれば、銅の価格が下がります。そうすると、国内販売会社も危機感を感じて供給量を増やすでしょう」
と俺が言うと、アンドリューは「そうかもしれないね」と反応する。
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円と考えて下さい。
今のところ、アンドリューは『カルテル潰し作戦』に興味がなさそうだ。
アンドリューは興味がなさそうだが、俺はとりあえず話を続ける。
「銅価格の適正化のための一連の取引については国王の許可を得ています。
アンドリュー兄さんには、銅の仕入を内密に行える外国の会社を紹介してもらえないかと思って、相談しに来ました」と俺は切り出した。
「銅の輸入か・・」とアンドリューは少し考えてから話を続けた。
<続く>
次に、俺たちは銅の仕入ルートを紹介してもらうために、外務省に訪問した。
外務省は第3王子のアンドリューの管轄なので、事前に根回ししておかないと、後で面倒なことになる。
王宮から外務省に向かう途中、スミスが「アンドリュー王子はどういう人ですか?」と俺に聞いてきた。
急に会議に参加するように言われたスミスの気持ちは分からなくもない。
「アンドリューか。あいつは自分のことをジェームズ・ボンドだと思っている」と俺はスミスの質問に答えた。
※ジェームズ・ボンドは、架空の英国秘密情報部のエージェントである。
「007ですか?」とスミスは
「そうだよ。世界をまたにかけてスパイ活動を行う、あれだ」
俺も自分のことを探偵だと思っているから、スパイ設定のアンドリューに偉そうなことは言えないが。
「ジェームズ・ボンドはスーツ着てますよね?」
スミスはまた服装のことを気にしているようだ。
「スーツを着ている時もあれば、着ていない時もある」
「どういうことですか?」
「ジェームズ・ボンドは舞踏会ではスーツを着るけど、ビーチでスーツ着ないよね。だって、周りに誰もスーツ着ている人がいないところで、スーツ着てると目立つだろ。田舎にスーツ姿の人が歩いていると、詐欺の受け子だと思われてしまう。目立つのはスパイ失格だ」
「周りに同化する服装をしている、ということですね」
「それと、アンドリューは、映画のジェームズ・ボンドを分析して、登場シーン以外のジェームズ・ボンドを予想するんだ。そして、自分のジェームズ・ボンド像を作っている」
「自分のジェームズ・ボンド像ですか?」
「例えば、アンドリューが女性とバーでお酒を飲むときは、格好つける必要があるからウィスキーやブランデーをロックで飲む。でも、一人だと焼酎のお湯割りとか飲んでる。格好つける必要がないからね」
「はあ」
「そういえば、いろんなジェームズ・ボンドのグッズを集めてる」
「ひょっとして、ボンドカーに乗ってるんですか?」
「アストンマーティンは持っていたよ。歴代のボンドカーは種類が多いから、全部揃えるのは無理だけど」
「へー」
「でもね、海外出張が多いから、ボンドカーを持っていても、運転するのは年数回しかないと思う。お金の無駄だよね」
「それで、私の服装はどうなんでしょうか?」スミスの質問は最初のところに戻った。
「夏の外務省はクール・ビズだから、スーツは着ていないと思う。ポロシャツで大丈夫だよ」と俺は答えた。
スミスは少し安心したようだ。
***
俺たちが外務省のアンドリューの部屋に付くと、アンドリューはちょうど部屋に戻ってきたところのようだ。
さっそく俺は、アンドリューに『カルテル潰し作戦』の概要を説明することにした。
「・・・というわけで、国内商社は需要量よりも供給量を低い水準に抑えることによって、銅価格を維持しています。
現在の銅の国際価格は800JD/kgです。一方、ジャービス王国では銅は1,500JD/kgで流通しています。これを半年で国際価格の800JD/kgまで下げたいのです。
銅の国内価格を引き下げるためには、ジャービス国内の販売会社を競争させて、供給量を増やす必要があります。このため、新会社を設立して銅を外国から輸入して、銅の国内流通量を増やそうと考えています。新会社が輸入した銅を国内販売すれば、銅の価格が下がります。そうすると、国内販売会社も危機感を感じて供給量を増やすでしょう」
と俺が言うと、アンドリューは「そうかもしれないね」と反応する。
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円と考えて下さい。
今のところ、アンドリューは『カルテル潰し作戦』に興味がなさそうだ。
アンドリューは興味がなさそうだが、俺はとりあえず話を続ける。
「銅価格の適正化のための一連の取引については国王の許可を得ています。
アンドリュー兄さんには、銅の仕入を内密に行える外国の会社を紹介してもらえないかと思って、相談しに来ました」と俺は切り出した。
「銅の輸入か・・」とアンドリューは少し考えてから話を続けた。
<続く>