第9話 デューデリジェンス(その1)
文字数 1,906文字
(9) デューデリジェンス
私の名前はルイーズ。
総務省の市場調査部と内部調査部を兼務している課長代理。
ここからは私(ルイーズ)が主人公(一人称)で物語が進んでいくはず・・・。
男性主人公で100話以上書いてきたから、作者がたまには女性主人公を書きたかっただけらしい。
ストーリーはダニエルの時と同じように進んでいくんじゃないかな。
作者が飽きるまで、しばらくの間お付き合い下さい。
***
私はジャービット・エクスチェンジのスポンサーとして立候補するために代理人弁護士に電話した。
すると、代理人弁護士からはCA(Confidential Agreement: 守秘義務契約書)を締結のうえ、直ぐに検討を開始して欲しいと言われた。
口頭で私のメールアドレスを伝えると、弁護士からCAのドラフトが私のアカウントに送付されてきた。
総務省の法務部がCAをチェックすると特に問題がなかったので、ダニエルに内容を確認してからCAにサインした。
こういう時、電子契約書は便利だ。
私が電子契約書にサインしたら、直ぐに弁護士からCA締結完了の連絡があった。
弁護士が直ぐに面談したいと言ってきたから、私、ロイ、ポールの3人はその日のうちにジャービット・エクスチェンジを訪問した。
殺風景な会議室に案内されると、そこの初老の男性がいた。
どうやらこの初老の男性がジャービット・エクスチェンジの民事再生法の申請代理人らしい。その弁護士はビルと名乗った。
私たちとビルが名刺交換と簡単な挨拶をすませた後、ビルはジャービット・エクスチェンジの現状を説明し始めた。
「XFTの件で暗号資産が全体的に値下がりしていることはご存じだと思います」
「もちろんです」
「ジャービット・コインも値下がりしていますから、当社の顧客もパニック状態です。ここ1週間くらいジャービット・コインの売り注文が続いています」
「収まりそうですか?」
「難しいでしょうね・・・。それに、現状では顧客が売ってくるジャービット・コインを全て買取るだけの流動性資金が、ジャービット・エクスチェンジにはありません」
「それはそうでしょうね・・・」
「ジャービット・エクスチェンジは民事再生法の適用を裁判所に申請しました。でも、裁判所はスポンサーを確保できないと申請を受理しない可能性が高いでしょう。裁判所は、XFTの破産によって、今後も暗号資産交換業の連鎖倒産が出てくると思っているようです」とビルは言った。
話しぶりから推測するに、状況はなかなか厳しそうだ。
ビルの話では、裁判所はスポンサーなしの自社再生は認めてくれなさそうだ。
ジャービット・エクスチェンジが民事再生法の適用を受けるためには、何とかしてスポンサーを確保する必要がある。
私たちもスポンサーになることを決定しているわけではない。
ジャービット・エクスチェンジに過剰な期待を持ってもらっても困るから、私は懸念事項を伝えておくことにした。
「我々は財務内容を精査して、その結果支援可能と判断すればスポンサーとしてお役に立ちたいと思っています。ただ、XFTの件もあって、ジャービット・エクスチェンジの状況がどこまで悪化しているか不安です」
「仰っていることは理解しています。まずはデューデリを実施して、ジャービット・エクスチェンジの現状を確認して下さい。直近の決算書と、前月時点の月次試算表はこちらです」
そう言うと、ビルは幾つかの書類を私たちに渡した。
書類を確認する時間はなさそうだから、私は先にスケジュールを確認することにした。
「デューデリはいつ開始できますか?」
「明日にはデータルームを開設します。なので、明日以降であればいつでもデューデリの対応は可能です」とビルは答えた。
「分かりました。会社に戻ったら直ぐにデューデリの調整をしてスケジュールをご連絡します」
続いて、私は肝心な点を確認することにした。
内務大臣のチャールズが買収したいのは暗号資産を発行している会社だ。
ジャービス王国の暗号資産を発行しないといけないのだから、ジャービット・コインを発行している親会社を買収対象に含めないと意味がない。
暗号資産交換業者は直接の買収対象ではない。
今回のケースで言えば、ジャービット・エクスチェンジではなく親会社のジャービットが買収対象だ。
私はジャービットを買収できるかをビルに確認しなければいけない。
「ところで、ジャービット・エクスチェンジは暗号資産交換業者です。取り扱っているジャービット・コインを発行しているのは親会社のジャービットです。デューデリの開示情報に親会社も入れていただけますか?」
<続く>
私の名前はルイーズ。
総務省の市場調査部と内部調査部を兼務している課長代理。
ここからは私(ルイーズ)が主人公(一人称)で物語が進んでいくはず・・・。
男性主人公で100話以上書いてきたから、作者がたまには女性主人公を書きたかっただけらしい。
ストーリーはダニエルの時と同じように進んでいくんじゃないかな。
作者が飽きるまで、しばらくの間お付き合い下さい。
***
私はジャービット・エクスチェンジのスポンサーとして立候補するために代理人弁護士に電話した。
すると、代理人弁護士からはCA(Confidential Agreement: 守秘義務契約書)を締結のうえ、直ぐに検討を開始して欲しいと言われた。
口頭で私のメールアドレスを伝えると、弁護士からCAのドラフトが私のアカウントに送付されてきた。
総務省の法務部がCAをチェックすると特に問題がなかったので、ダニエルに内容を確認してからCAにサインした。
こういう時、電子契約書は便利だ。
私が電子契約書にサインしたら、直ぐに弁護士からCA締結完了の連絡があった。
弁護士が直ぐに面談したいと言ってきたから、私、ロイ、ポールの3人はその日のうちにジャービット・エクスチェンジを訪問した。
殺風景な会議室に案内されると、そこの初老の男性がいた。
どうやらこの初老の男性がジャービット・エクスチェンジの民事再生法の申請代理人らしい。その弁護士はビルと名乗った。
私たちとビルが名刺交換と簡単な挨拶をすませた後、ビルはジャービット・エクスチェンジの現状を説明し始めた。
「XFTの件で暗号資産が全体的に値下がりしていることはご存じだと思います」
「もちろんです」
「ジャービット・コインも値下がりしていますから、当社の顧客もパニック状態です。ここ1週間くらいジャービット・コインの売り注文が続いています」
「収まりそうですか?」
「難しいでしょうね・・・。それに、現状では顧客が売ってくるジャービット・コインを全て買取るだけの流動性資金が、ジャービット・エクスチェンジにはありません」
「それはそうでしょうね・・・」
「ジャービット・エクスチェンジは民事再生法の適用を裁判所に申請しました。でも、裁判所はスポンサーを確保できないと申請を受理しない可能性が高いでしょう。裁判所は、XFTの破産によって、今後も暗号資産交換業の連鎖倒産が出てくると思っているようです」とビルは言った。
話しぶりから推測するに、状況はなかなか厳しそうだ。
ビルの話では、裁判所はスポンサーなしの自社再生は認めてくれなさそうだ。
ジャービット・エクスチェンジが民事再生法の適用を受けるためには、何とかしてスポンサーを確保する必要がある。
私たちもスポンサーになることを決定しているわけではない。
ジャービット・エクスチェンジに過剰な期待を持ってもらっても困るから、私は懸念事項を伝えておくことにした。
「我々は財務内容を精査して、その結果支援可能と判断すればスポンサーとしてお役に立ちたいと思っています。ただ、XFTの件もあって、ジャービット・エクスチェンジの状況がどこまで悪化しているか不安です」
「仰っていることは理解しています。まずはデューデリを実施して、ジャービット・エクスチェンジの現状を確認して下さい。直近の決算書と、前月時点の月次試算表はこちらです」
そう言うと、ビルは幾つかの書類を私たちに渡した。
書類を確認する時間はなさそうだから、私は先にスケジュールを確認することにした。
「デューデリはいつ開始できますか?」
「明日にはデータルームを開設します。なので、明日以降であればいつでもデューデリの対応は可能です」とビルは答えた。
「分かりました。会社に戻ったら直ぐにデューデリの調整をしてスケジュールをご連絡します」
続いて、私は肝心な点を確認することにした。
内務大臣のチャールズが買収したいのは暗号資産を発行している会社だ。
ジャービス王国の暗号資産を発行しないといけないのだから、ジャービット・コインを発行している親会社を買収対象に含めないと意味がない。
暗号資産交換業者は直接の買収対象ではない。
今回のケースで言えば、ジャービット・エクスチェンジではなく親会社のジャービットが買収対象だ。
私はジャービットを買収できるかをビルに確認しなければいけない。
「ところで、ジャービット・エクスチェンジは暗号資産交換業者です。取り扱っているジャービット・コインを発行しているのは親会社のジャービットです。デューデリの開示情報に親会社も入れていただけますか?」
<続く>