第7話 財務コンサルタント(その2)
文字数 1,950文字
(7)財務コンサルタント <続き>
ダブリン証券はジャービス国内の銀行に損失隠しのスキームを提案して回っていたようだ。ジャービス国内に同様のスキームを利用している銀行があるかもしれない。だから、銀行救済の話からは脱線するが、俺はダブリン証券の飛ばしスキームの普及状況を聞くことにした。
「ダブリン証券の話を少し伺いたいのですが。我々がセレナ銀行の投資しているファンドを調べたところ、ファンドが3つ絡んだ複雑なスキームでした。皆さんの銀行に提案があったのも、同様のスキームでしょうか?」
俺はそう言って、セレナ銀行が投資していたファンドのスキーム図(図表8-18)を参加者に見せた。
【図表8-18:LP出資の全容(再掲)】
俺が示したスキーム図を見て、ブルックス銀行とラングフォード銀行の参加者は「同じスキームです」言った。
ということは、同じスキームでダブリン証券はジャービス国内の銀行に営業して回っている。ダブリン証券がこのスキームを売り込むときに『〇〇銀行では採用しています!』と言った可能性はある。ダブリン証券との会話の中で損失隠しをしている銀行の名前が出てきたかもしれないから、俺は参加者に質問した。
「ちなみに、セレナ銀行とロサリオ銀行以外にこのスキームを利用している銀行を知っていますか?」と俺は参加者に聞いた。
参加者はざわざわと話し合っている。
「ハリソン銀行が採用していると聞いたことがあります」と一人が言った。
「私も、ボスコ銀行が採用していると聞きました」ともう一人が言った。
ハリソン銀行とボスコ銀行を合わせると、ジャービス国内で少なくとも4つの銀行がダブリン証券の飛ばしスキームを採用している。
普通に考えれば4つだけではすまない。他にも飛ばしスキームを採用している銀行がありそうだ。
「内務大臣(チャールズ)、ジャービス国内で少なくとも4つの銀行がダブリン証券のスキームを採用しています。更に数が増えると考えた方がいいので、ダブリン証券を一度調査してみてはいかがでしょうか?」と俺はチャールズに提案した。
チャールズは少し考えてから「分かった。この会議が終わったらダブリン証券の調査を開始しよう」と言った。
ダブリン証券の件は内務省で調査することになり、会議は本題に進んでいく。
民間銀行がセレナ銀行とロサリオ銀行を支援するかだ。
ひょっとすると、ハリソン銀行とボスコ銀行も支援対象になるかもしれないのだが、まずはセレナ銀行とロサリオ銀行だ。
「セレナ銀行とロサリオ銀行の財務状況は見てもらった通りだ。2行が実質債務超過であることが分かれば、預金者の預金引き出しが始まって、取り付け騒ぎに発展するかもしれない」
チャールズはそう言って参加者を見渡したが、誰も積極的に関与したくないから発言しない。チャールズは参加者の反応を気にせずに話を続ける。
「ジャービス国内の混乱を避けるために、ジャービス政府はこの2行について『預金は全額保護する』ことを公表しようと思っている。預金が保護されるのであれば、取り付け騒ぎも少しは緩和されるだろう。しかし、セレナ銀行とロサリオ銀行の実質債務超過は解消していないから、本質的な問題解決にはならない。だから、ジャービス政府では対処方針として2つ考えている」
「どのような方法ですか?」とアドルフが発言した。
ジャービス中央銀行は中立的な立場だ。だから、他の参加者に比べると発言しやすい。
「まず、一つ目は不良債権の買取りのための国営サービサーを設立しようと考えている。ジャービス国債と米国債に関しては、保有し続ければ含み損が解消されるチャンスがあるから売却は要請しない。しかし、不良債権は別だ。不良債権を抱えたままでは経営再建ができないから、セレナ銀行とロサリオ銀行が保有する不良債権を国営サービサーに売却してもらう」
チャールズはそう言うとセレナ銀行の頭取ラリーとロサリオ銀行の頭取ハンターを見た。
ラリーとハンターは既に諦めているのか、2人から特に反対意見は出ない。
チャールズはセレナ銀行とロサリオ銀行が不良債権の売却を同意したと見做して、話を進める。
「不良債権を売却することによって売却損が発生するから、セレナ銀行とロサリオ銀行は債務超過になるだろう。二つ目は、債務超過に陥った2行に対する資本増強だ。ブルックス銀行とラングフォード銀行に聞きたいのだが、セレナ銀行とロサリオ銀行にスポンサーとして出資する意向があるか?」
チャールズはそう言ってブルックス銀行の頭取ニックとラングフォード銀行の頭取アーサーを見た。
ニックとアーサーは下を見ている。関わりたくなさそうだ。
―― そうだよな。嫌だよな・・・
俺はニックとアーサーの心境を理解した。
<続く>
ダブリン証券はジャービス国内の銀行に損失隠しのスキームを提案して回っていたようだ。ジャービス国内に同様のスキームを利用している銀行があるかもしれない。だから、銀行救済の話からは脱線するが、俺はダブリン証券の飛ばしスキームの普及状況を聞くことにした。
「ダブリン証券の話を少し伺いたいのですが。我々がセレナ銀行の投資しているファンドを調べたところ、ファンドが3つ絡んだ複雑なスキームでした。皆さんの銀行に提案があったのも、同様のスキームでしょうか?」
俺はそう言って、セレナ銀行が投資していたファンドのスキーム図(図表8-18)を参加者に見せた。
【図表8-18:LP出資の全容(再掲)】
俺が示したスキーム図を見て、ブルックス銀行とラングフォード銀行の参加者は「同じスキームです」言った。
ということは、同じスキームでダブリン証券はジャービス国内の銀行に営業して回っている。ダブリン証券がこのスキームを売り込むときに『〇〇銀行では採用しています!』と言った可能性はある。ダブリン証券との会話の中で損失隠しをしている銀行の名前が出てきたかもしれないから、俺は参加者に質問した。
「ちなみに、セレナ銀行とロサリオ銀行以外にこのスキームを利用している銀行を知っていますか?」と俺は参加者に聞いた。
参加者はざわざわと話し合っている。
「ハリソン銀行が採用していると聞いたことがあります」と一人が言った。
「私も、ボスコ銀行が採用していると聞きました」ともう一人が言った。
ハリソン銀行とボスコ銀行を合わせると、ジャービス国内で少なくとも4つの銀行がダブリン証券の飛ばしスキームを採用している。
普通に考えれば4つだけではすまない。他にも飛ばしスキームを採用している銀行がありそうだ。
「内務大臣(チャールズ)、ジャービス国内で少なくとも4つの銀行がダブリン証券のスキームを採用しています。更に数が増えると考えた方がいいので、ダブリン証券を一度調査してみてはいかがでしょうか?」と俺はチャールズに提案した。
チャールズは少し考えてから「分かった。この会議が終わったらダブリン証券の調査を開始しよう」と言った。
ダブリン証券の件は内務省で調査することになり、会議は本題に進んでいく。
民間銀行がセレナ銀行とロサリオ銀行を支援するかだ。
ひょっとすると、ハリソン銀行とボスコ銀行も支援対象になるかもしれないのだが、まずはセレナ銀行とロサリオ銀行だ。
「セレナ銀行とロサリオ銀行の財務状況は見てもらった通りだ。2行が実質債務超過であることが分かれば、預金者の預金引き出しが始まって、取り付け騒ぎに発展するかもしれない」
チャールズはそう言って参加者を見渡したが、誰も積極的に関与したくないから発言しない。チャールズは参加者の反応を気にせずに話を続ける。
「ジャービス国内の混乱を避けるために、ジャービス政府はこの2行について『預金は全額保護する』ことを公表しようと思っている。預金が保護されるのであれば、取り付け騒ぎも少しは緩和されるだろう。しかし、セレナ銀行とロサリオ銀行の実質債務超過は解消していないから、本質的な問題解決にはならない。だから、ジャービス政府では対処方針として2つ考えている」
「どのような方法ですか?」とアドルフが発言した。
ジャービス中央銀行は中立的な立場だ。だから、他の参加者に比べると発言しやすい。
「まず、一つ目は不良債権の買取りのための国営サービサーを設立しようと考えている。ジャービス国債と米国債に関しては、保有し続ければ含み損が解消されるチャンスがあるから売却は要請しない。しかし、不良債権は別だ。不良債権を抱えたままでは経営再建ができないから、セレナ銀行とロサリオ銀行が保有する不良債権を国営サービサーに売却してもらう」
チャールズはそう言うとセレナ銀行の頭取ラリーとロサリオ銀行の頭取ハンターを見た。
ラリーとハンターは既に諦めているのか、2人から特に反対意見は出ない。
チャールズはセレナ銀行とロサリオ銀行が不良債権の売却を同意したと見做して、話を進める。
「不良債権を売却することによって売却損が発生するから、セレナ銀行とロサリオ銀行は債務超過になるだろう。二つ目は、債務超過に陥った2行に対する資本増強だ。ブルックス銀行とラングフォード銀行に聞きたいのだが、セレナ銀行とロサリオ銀行にスポンサーとして出資する意向があるか?」
チャールズはそう言ってブルックス銀行の頭取ニックとラングフォード銀行の頭取アーサーを見た。
ニックとアーサーは下を見ている。関わりたくなさそうだ。
―― そうだよな。嫌だよな・・・
俺はニックとアーサーの心境を理解した。
<続く>