第3話 MJを調べろ(その1)

文字数 1,807文字

(3)MJを調べろ


 俺たち内部調査部は、MJに底地を売却したロバートの他の元地主にもヒアリングを行った。

 すると、元地主は全員資産家で相続税対策としてラヴァル不動産から土地(更地)を購入し、ラヴァル不動産は土地の上にコンドミニアムを建設して個人に販売していた。
 元地主は相続税評価額を下げることができたものの、底地は売れないから処分に困った。だから、元地主は口をそろえて「ラヴァル不動産の詐欺に引っかかった」と俺たちに言った。
 ラヴァル不動産は元地主から嫌われていて、自社で底地を購入することができなかった。だからラヴァル不動産はこれ以上の揉め事を避けるためにMJを紹介した、と俺は予想している。

 ラヴァル不動産が提案した相続税対策スキームは中途半端な内容だった。もう少しいいやり方があったのでは?と思うのだが、俺が口出すことではない。


 俺たちはMJについて本格的に調査することにした。前回の太陽光発電設備の件では、MJはSPC(特別目的会社)を利用して上場企業とオペレーティング・リース契約を締結していた。リース資産である太陽光発電設備の取得代金は、SPCが社債を発行して調達した(図表9-11)。ただ、気になるのは、今回底地を保有しているのはSPCではなくMJだということだ。俺たちはMJに底地を売却したロバートから貰った土地売買契約書のコピーに記載されているMJを調べることにした。


【図表9-11:ジョーダンの投資スキーム(再掲)】



※『第9回活動報告:SDGs詐欺師を捕まえろ』のスキーム図を再掲しています。


 ジャービス王国では総務省の3階で登記情報を管理している。俺はスミスに頼んで登記簿謄本(履歴事項全部証明書)を取得してMJを調べてもらった。3階から内部調査部に戻ってきたスミスは少し混乱しているように見える。

「どうしたの?」と俺はスミスに聞いた。

「MJの登記簿謄本を取ろうとしたのですが、今回の件は思っていたよりも厄介ですね・・・」

「どういうこと?」

「ジャービス国内にMJが100社以上あるんです。ロバートから底地を購入したMJはその一つでした」

「え? MJが100社以上ある?」

「そうです。ジャービス王国の法律では、同一所在地の同一商号は登記できませんが、住所が違えば同一商号を登記できます」

※日本においても同一住所・同一商号は登記できません(商業登記法第27条)。住所が異なれば同一商号でも登記できます。

「そうだね。じゃあ、ジョーダンとマイケルはジャービス国内のレンタルオフィスを借りまくって、そこにMJを設立しているのかな?」

「全部の住所を調べたわけではありませんが、いくつかはレンタルオフィスでした。多分、そういうことだと思います」とスミスは言った。

 俺はロバート以外の元地主から貰った土地売買契約書のコピーに記載されているMJの住所を確認してみたが、全て住所が異なるMJだった。

「底地を取得したのは全部、別法人・・・」

「そうですね。全て違う法人で底地を買っています」


―― 詐欺目的としか思えない・・・

 俺は前回のMJの手口を思い出してみた。
 太陽光発電施設を保有していたSPC(MJ001、MJ002、MJ 003)の代表者は弁護士だった。そのSPCの株主のケイマン籍のファンドの代表者も弁護士だった。そのケイマン籍のファンドに投資しているファンドの代表者も弁護士だった。
 そうすると、今回のMJもダミー会社のはずだ。

「底地を買取ったMJの役員はジョーダンやマイケルじゃないよね?」と俺はスミスに聞いた。

「違いますね。太陽光発電施設を取得したSPCの代表者と同じ名前です。名義貸しをしている弁護士でしょう」

「そうか・・・。登記簿謄本にはジョーダンやマイケルは出てこないの?」

「一つだけありました。ジャービス王国でジョーダンとマイケルが取締役として登記されているMJは1社だけです。その法人の取締役は3人で、ジョーダンとマイケルの他にジャクソンが取締役として登記されています」とスミスは言った。

―― ジャクソン?

 ジョーダンの息子はマイケル。
 ジョーダンがMJのファンだったから、息子をマイケルと名付けた。
 二人合わせるとMJだ。

 そうすると、俺の推理が正しければ・・・

―― マイケルの息子がジャクソン?

 こっちも二人合わせるとMJだ。

「実にくだらない・・・」

 俺とスミスは失笑した。

<続く>
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登場人物紹介

ダニエル:ジャービス王国の第4王子。総務大臣。

ルイーズ:総務省 内部調査部 課長代理

ジェームス:ジャービス王国第1王子。軍本部 総司令

チャールズ:ジャービス王国の第2王子。内務大臣。

アンドリュー:ジャービス王国の第3王子。外務大臣。

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