第6話 根回しをしよう(その5)
文字数 2,163文字
(6)根回しをしよう(続き)
続いて、俺たちは銅の輸送と軍港の使用を依頼するために、国軍本部へ向かった。第1王子のジェームスに経緯を説明するためだ。
道すがらスミスが「ジェームス王子は私の服装を気にしませんか?」と俺に聞いてきた。どんだけ心配性なのだろう。
「ジェームスは、兄弟の中で一番礼儀作法にはうるさいけど、特にそういうのは気にしないと思うよ」と俺はスミスに説明した。
「よく会議で怒っていると聞いているのですが、本当に大丈夫でしょうか?」とスミスがしつこく聞いてくる。
「よく怒るのは正解だと思う。喜怒哀楽がそのまま出る。良く言えば、裏表がない。大工の棟梁みたいな感じだ」
「へー」
「思考回路が単純だから、慣れればジェームスの扱いは難しくないと思う。もし怒っても、その場限りで終わりだから、ネチネチと長引いたりしない。それに比べて、アンドリューは表に出さないから、扱いが格段に難しい。何が地雷なのかが、正直分からないから」
「アンドリュー王子に接する時の方が、気を付けないといけないわけですね」
「そうだね。アンドリューには、本当に気を付けた方がいい。ジェームスはバカだから単純でいいんだけど、アンドリューはバカじゃない。コミュニケーションスキルは高いけど、人格的に少しおかしいんだ」
スミスは先ほどの訪問時に粗相(そそう)が無かったか、気になったようだ。歩きながら黙ってしまった。
そうしていると、ジェームスの執務室についた。執務室に入ると、さっそく俺はジェームスに『カルテル潰し作戦』の全容を説明した。
「・・というわけで、銅の国内価格の正常化のために、サンマーティン国から銅を輸入しようと計画しています。民間企業の保有するタンカーや港を利用すると、カルテルを結んでいる国内商社が我々の動きを察知してしまうかもしれません。
ジェームス兄さんには2つお願いがあります。一つ目は、『国軍の保有する船舶を、銅の輸送船として貸してほしい』という依頼です。二つ目は『国内商社に知られないために軍港を使用させてほしい』という依頼です」と俺はジェームスに説明した。
「相変わらずダニーは、コソコソ動いているんだな。男らしくない、と思わないか?」とジェームスは俺に言った。
男らしくない?
内部調査部にそんなもの必要ないと思うのだが、船を貸してもらえないと困るから俺は適当に返答する。
「お言葉ですが、内部調査部とはコソコソ動く部署です。男らしく正々堂々と調査すると調査対象にバレてしまいます。我々は、男らしさを捨てて活動しているんです」
「そうか、そんなもんか」
『男らしくない内部調査部』の活動内容は理解したようなので、俺は話を続けた。
「一連の銅の輸入取引を行うことについて、国王の了承を得ています。仕入ルートの確保は、チャールズ兄さんに依頼して、外務省からサンマーティン国に交渉してもらうことになりました。銅の輸入及び販売から発生する利益の20%を支払うので、ジェームス兄さんにもご協力いただけませんか?」と俺は言った。
「まあ、国王が既に了承しているのであれば、協力するのは問題ない。軍艦で輸送するわけにいかないから、民間船を偽装した船を手配しよう。ただ、・・・」とジェームスは途中で言うのを止めた。
「『ただ』、どうしましたか?」と俺はジェームスに聞く。
「ただ、なぜ先にアンドリューに相談に行った?」
あー、そこか。こいつはこういう奴だ。
俺が、自分よりも先にアンドリューに相談したのが気に食わないらしい。
頭は良くないが、プライドは高い。
『俺が第1王子なんだから、最初に来い!』と言いたいんだろう。
何とか取り繕って、機嫌を直してもらわないと、船を貸してもらえない。
「最初にジェームス兄さんに相談しようかと思ったのですが、銅の輸入ができるかどうか分からない段階で相談に来るのは失礼かと思いまして。仕入先の確保ができた段階でご相談に来たのです」と俺はジェームスの自尊心を傷つけないように、適当なことを言った。
「そういうことか。仕入先が決まってないと輸送の相談はできないな。お前も俺に気を使ってくれたのだな。それなら仕方ないか」とジェームスは少しだけ機嫌が直ったようだ。
これで、船を貸してくれるだろう。
「次は、銅の販売をジャービス鉱業に依頼するために、内務省に行きます。全て調整が終わったら連絡しますので、船と港の件はお願いします」と俺は言って、軍本部を後にした。
軍本部を出ると、スミスが話しかけてきた。
「ジェームス王子、怒っていましたね。私は『なんだ、その服装は?』と怒られないかと冷や冷やしていました」
スミスはまだ服装のことを気にしているようだ。
そんなに気になるなら、スーツを持ってきて置いておけばいいのに。
「今日は機嫌が悪かったみたいだ。俺たちが訪問する前に何かあったのかもしれないな」
「部長も大変なのですね。兄弟の誰かを立てたら、誰かに恨まれる。私だったら、こんな生活は耐えられません」
「子供の頃からだから、もう慣れたよ」と俺は言った。
予定よりも時間は掛ったが、銅の輸送船と港は確保できた。
次は、ジャービス鋼業を管理している内務省だ。
第2王子のチャールズは、別の意味で面倒だから、何もなければよいのだが・・・。
<続く>
続いて、俺たちは銅の輸送と軍港の使用を依頼するために、国軍本部へ向かった。第1王子のジェームスに経緯を説明するためだ。
道すがらスミスが「ジェームス王子は私の服装を気にしませんか?」と俺に聞いてきた。どんだけ心配性なのだろう。
「ジェームスは、兄弟の中で一番礼儀作法にはうるさいけど、特にそういうのは気にしないと思うよ」と俺はスミスに説明した。
「よく会議で怒っていると聞いているのですが、本当に大丈夫でしょうか?」とスミスがしつこく聞いてくる。
「よく怒るのは正解だと思う。喜怒哀楽がそのまま出る。良く言えば、裏表がない。大工の棟梁みたいな感じだ」
「へー」
「思考回路が単純だから、慣れればジェームスの扱いは難しくないと思う。もし怒っても、その場限りで終わりだから、ネチネチと長引いたりしない。それに比べて、アンドリューは表に出さないから、扱いが格段に難しい。何が地雷なのかが、正直分からないから」
「アンドリュー王子に接する時の方が、気を付けないといけないわけですね」
「そうだね。アンドリューには、本当に気を付けた方がいい。ジェームスはバカだから単純でいいんだけど、アンドリューはバカじゃない。コミュニケーションスキルは高いけど、人格的に少しおかしいんだ」
スミスは先ほどの訪問時に粗相(そそう)が無かったか、気になったようだ。歩きながら黙ってしまった。
そうしていると、ジェームスの執務室についた。執務室に入ると、さっそく俺はジェームスに『カルテル潰し作戦』の全容を説明した。
「・・というわけで、銅の国内価格の正常化のために、サンマーティン国から銅を輸入しようと計画しています。民間企業の保有するタンカーや港を利用すると、カルテルを結んでいる国内商社が我々の動きを察知してしまうかもしれません。
ジェームス兄さんには2つお願いがあります。一つ目は、『国軍の保有する船舶を、銅の輸送船として貸してほしい』という依頼です。二つ目は『国内商社に知られないために軍港を使用させてほしい』という依頼です」と俺はジェームスに説明した。
「相変わらずダニーは、コソコソ動いているんだな。男らしくない、と思わないか?」とジェームスは俺に言った。
男らしくない?
内部調査部にそんなもの必要ないと思うのだが、船を貸してもらえないと困るから俺は適当に返答する。
「お言葉ですが、内部調査部とはコソコソ動く部署です。男らしく正々堂々と調査すると調査対象にバレてしまいます。我々は、男らしさを捨てて活動しているんです」
「そうか、そんなもんか」
『男らしくない内部調査部』の活動内容は理解したようなので、俺は話を続けた。
「一連の銅の輸入取引を行うことについて、国王の了承を得ています。仕入ルートの確保は、チャールズ兄さんに依頼して、外務省からサンマーティン国に交渉してもらうことになりました。銅の輸入及び販売から発生する利益の20%を支払うので、ジェームス兄さんにもご協力いただけませんか?」と俺は言った。
「まあ、国王が既に了承しているのであれば、協力するのは問題ない。軍艦で輸送するわけにいかないから、民間船を偽装した船を手配しよう。ただ、・・・」とジェームスは途中で言うのを止めた。
「『ただ』、どうしましたか?」と俺はジェームスに聞く。
「ただ、なぜ先にアンドリューに相談に行った?」
あー、そこか。こいつはこういう奴だ。
俺が、自分よりも先にアンドリューに相談したのが気に食わないらしい。
頭は良くないが、プライドは高い。
『俺が第1王子なんだから、最初に来い!』と言いたいんだろう。
何とか取り繕って、機嫌を直してもらわないと、船を貸してもらえない。
「最初にジェームス兄さんに相談しようかと思ったのですが、銅の輸入ができるかどうか分からない段階で相談に来るのは失礼かと思いまして。仕入先の確保ができた段階でご相談に来たのです」と俺はジェームスの自尊心を傷つけないように、適当なことを言った。
「そういうことか。仕入先が決まってないと輸送の相談はできないな。お前も俺に気を使ってくれたのだな。それなら仕方ないか」とジェームスは少しだけ機嫌が直ったようだ。
これで、船を貸してくれるだろう。
「次は、銅の販売をジャービス鉱業に依頼するために、内務省に行きます。全て調整が終わったら連絡しますので、船と港の件はお願いします」と俺は言って、軍本部を後にした。
軍本部を出ると、スミスが話しかけてきた。
「ジェームス王子、怒っていましたね。私は『なんだ、その服装は?』と怒られないかと冷や冷やしていました」
スミスはまだ服装のことを気にしているようだ。
そんなに気になるなら、スーツを持ってきて置いておけばいいのに。
「今日は機嫌が悪かったみたいだ。俺たちが訪問する前に何かあったのかもしれないな」
「部長も大変なのですね。兄弟の誰かを立てたら、誰かに恨まれる。私だったら、こんな生活は耐えられません」
「子供の頃からだから、もう慣れたよ」と俺は言った。
予定よりも時間は掛ったが、銅の輸送船と港は確保できた。
次は、ジャービス鋼業を管理している内務省だ。
第2王子のチャールズは、別の意味で面倒だから、何もなければよいのだが・・・。
<続く>