第7話 債券貸借取引(その3)
文字数 1,881文字
(7)債券貸借取引 <続き>
俺とルイーズは債券貸借取引の件で、内務省のチャールズに会いに来た。
俺は正直言ってチャールズにかなりムカついている。
為替対応に困っていたチャールズに助け船を出して、『家族会議をしたらどうか?』と提案してあげたつもりだ。それなのに、アイツは俺に自分の仕事を押し付けやがった。
―― アイツは裏切り者だ・・・
後でチャールズに仕返しするつもりだが、俺は大人だから今は為替対応を優先する。
俺は気持ちを切り替えて、チャールズに今回の対応について協力を依頼することにした。
俺とルイーズが会議室で待っていると、チャールズが入ってきた。
「ダニー、まだ怒ってる?」とチャールズが言った。
俺は意識していなかったがチャールズを睨んでいたようだ。
怒っているのは事実だが、俺は話を進めることにした。
「怒っているか、怒っていないかと言うと、怒ってますよ。でも、今日は文句を言いに来たんじゃなくて、為替対応について協力してほしいことがあって来ました」と俺は言った。
「そう、それでどういう計画かな?」
俺は掻い摘んで計画をチャールズに説明することにした。
まず、俺が考えている取引の流れは次の通りだ。
①ジャービス中央銀行から額面3,000億JD の10年国債を無担保で借りる
②10年国債を担保に1兆JD分の米ドルを購入する
③政策金利を1%に引き下げる
④購入した1兆JD分の米ドルを売却する
⑤額面3,000億JD の10年国債を市場で売却する
⑥売却益を使って補助金を出す
⑦海外企業の誘致を行う
⑧1兆JD分の米ドルを空売りする
⑨政策金利を4%に引き上げる
⑩空売りした1兆JD分の米ドルを買い戻す
⑪額面3,000億JD の10年国債を市場で購入する
⑫ジャービス中央銀行に額面3,000億JD の10年国債を返済する
⑬決済益を使って補助金を出す
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円としています。
このうち内務省に依頼したいのは①、③、⑥、⑨、⑫、⑬だ。
政策金利の変更(③、⑨)と国内企業と国民への補助金拠出(⑥、⑬)は家族会議の時に伝えているからチャールズも理解しているはずだ。
俺はチャールズに、依頼したいのは国債の無担保債券貸借取引(①、⑫)であることを伝えた。
俺の話を聞いたチャールズはボソッと言った。
「無担保か・・・」
チャールズはジャービス国債を無担保で貸し出すことに抵抗があるようだ。
俺は、今回の債券貸借取引の必要性をチャールズに説明する。
「もし、無担保で国債を貸出してもらえない場合は、レポ取引(現金担保付債券貸借取引)で国債を借りることになります。そうすると担保に供する現金を用意する必要がありますよね? 内務省で用意してもらえますか?」
「そうだな。国債を借りるのに、国債を発行して資金調達しないといけなくなる。それは本末転倒だな・・・」
「そうでしょ? だから、無担保で貸してくれないかと言ってるんです」
「まあ、ジャービス中央銀行の総裁と話してみるよ。無担保で国債を貸し出すとしても、政府保証はした方がいいよな?」
「そう思います。政府保証はお願いします」
「分かったよ・・・。そもそもなんだけど、今回は国債を証拠金にして外為証拠金取引をしようとしてるよな。現金を担保にしないのはなんでなんだ?」チャールズは俺に聞いた。
「え? 儲かるからに決まっているじゃないですか」
俺はそう言うと、用意してきた資料(図表7-15)をチャールズに渡して説明し始めた。
【図表7-15:債券貸借取引と国債売買の流れ(再掲)】
「今回の為替対応で政策金利を3%から1%に引き下げます。そうすると、金利3%の10年国債の時価は額面の118.9%に増加します。」
「そうだな」
「その後、政策金利を4%に引き上げます。そうすると、金利3%の10年国債の時価は額面の91.9%に下落します。」
「そうだな」
「だから、額面3,000億JDの国債を、政策金利を1%に引き下げた時に3,568億JD(=3,000億×118.9%)で売却します。次に政策金利を4%に引き上げたタイミングで額面3,000億JDの国債を2,757億JD(=3,000億JD×91.9%)で購入します」
「利益は811億JD(=3,568億JD-2,757億JD)か。大きいな・・・」
「そうでしょ。儲かるでしょ?」
「儲かるな・・・」
「いいでしょ?」
「いいな!」
―― 釣れた!
相変わらず、コイツはちょろい。
チャールズの気持ちは国債を無担保で貸し出す方向に変わった。
<続く>
俺とルイーズは債券貸借取引の件で、内務省のチャールズに会いに来た。
俺は正直言ってチャールズにかなりムカついている。
為替対応に困っていたチャールズに助け船を出して、『家族会議をしたらどうか?』と提案してあげたつもりだ。それなのに、アイツは俺に自分の仕事を押し付けやがった。
―― アイツは裏切り者だ・・・
後でチャールズに仕返しするつもりだが、俺は大人だから今は為替対応を優先する。
俺は気持ちを切り替えて、チャールズに今回の対応について協力を依頼することにした。
俺とルイーズが会議室で待っていると、チャールズが入ってきた。
「ダニー、まだ怒ってる?」とチャールズが言った。
俺は意識していなかったがチャールズを睨んでいたようだ。
怒っているのは事実だが、俺は話を進めることにした。
「怒っているか、怒っていないかと言うと、怒ってますよ。でも、今日は文句を言いに来たんじゃなくて、為替対応について協力してほしいことがあって来ました」と俺は言った。
「そう、それでどういう計画かな?」
俺は掻い摘んで計画をチャールズに説明することにした。
まず、俺が考えている取引の流れは次の通りだ。
①ジャービス中央銀行から額面3,000億JD の10年国債を無担保で借りる
②10年国債を担保に1兆JD分の米ドルを購入する
③政策金利を1%に引き下げる
④購入した1兆JD分の米ドルを売却する
⑤額面3,000億JD の10年国債を市場で売却する
⑥売却益を使って補助金を出す
⑦海外企業の誘致を行う
⑧1兆JD分の米ドルを空売りする
⑨政策金利を4%に引き上げる
⑩空売りした1兆JD分の米ドルを買い戻す
⑪額面3,000億JD の10年国債を市場で購入する
⑫ジャービス中央銀行に額面3,000億JD の10年国債を返済する
⑬決済益を使って補助金を出す
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円としています。
このうち内務省に依頼したいのは①、③、⑥、⑨、⑫、⑬だ。
政策金利の変更(③、⑨)と国内企業と国民への補助金拠出(⑥、⑬)は家族会議の時に伝えているからチャールズも理解しているはずだ。
俺はチャールズに、依頼したいのは国債の無担保債券貸借取引(①、⑫)であることを伝えた。
俺の話を聞いたチャールズはボソッと言った。
「無担保か・・・」
チャールズはジャービス国債を無担保で貸し出すことに抵抗があるようだ。
俺は、今回の債券貸借取引の必要性をチャールズに説明する。
「もし、無担保で国債を貸出してもらえない場合は、レポ取引(現金担保付債券貸借取引)で国債を借りることになります。そうすると担保に供する現金を用意する必要がありますよね? 内務省で用意してもらえますか?」
「そうだな。国債を借りるのに、国債を発行して資金調達しないといけなくなる。それは本末転倒だな・・・」
「そうでしょ? だから、無担保で貸してくれないかと言ってるんです」
「まあ、ジャービス中央銀行の総裁と話してみるよ。無担保で国債を貸し出すとしても、政府保証はした方がいいよな?」
「そう思います。政府保証はお願いします」
「分かったよ・・・。そもそもなんだけど、今回は国債を証拠金にして外為証拠金取引をしようとしてるよな。現金を担保にしないのはなんでなんだ?」チャールズは俺に聞いた。
「え? 儲かるからに決まっているじゃないですか」
俺はそう言うと、用意してきた資料(図表7-15)をチャールズに渡して説明し始めた。
【図表7-15:債券貸借取引と国債売買の流れ(再掲)】
「今回の為替対応で政策金利を3%から1%に引き下げます。そうすると、金利3%の10年国債の時価は額面の118.9%に増加します。」
「そうだな」
「その後、政策金利を4%に引き上げます。そうすると、金利3%の10年国債の時価は額面の91.9%に下落します。」
「そうだな」
「だから、額面3,000億JDの国債を、政策金利を1%に引き下げた時に3,568億JD(=3,000億×118.9%)で売却します。次に政策金利を4%に引き上げたタイミングで額面3,000億JDの国債を2,757億JD(=3,000億JD×91.9%)で購入します」
「利益は811億JD(=3,568億JD-2,757億JD)か。大きいな・・・」
「そうでしょ。儲かるでしょ?」
「儲かるな・・・」
「いいでしょ?」
「いいな!」
―― 釣れた!
相変わらず、コイツはちょろい。
チャールズの気持ちは国債を無担保で貸し出す方向に変わった。
<続く>