第7話 銀行はシロかクロか(その3)
文字数 1,789文字
(7) 銀行はシロかクロか <続き>
俺はメンバーに説明する。
「レンソイス不動産のリードはLシリーズの1件目から登場することもあるが、書類偽造から登場するケースもある。書類偽造をさせているのがリードだからね。リードは完全にクロだ」
「そうね」ルイーズは興味なさそうに言った。
「Lファイナンスはレンソイス不動産のグループ会社だからクロだろう。収入証明などが偽造されていることは当然知っている」
「そうだね」
「でも、ロワール銀行の担当者スティーブンは、書類偽造を知っているかどうか分からない。個人投資家5人にヒアリングしたけど、たまたま5人の担当者がスティーブンだったかもしれない。ロワール銀行のスティーブンがクロだと判断するには、母集団が足りないと思うんだ」と俺は言った。
「自信がないの?」とルイーズが余計なことを俺に言う。腰抜けと言わんばかりだ。
「自信があるかないかと聞かれれば、ないよ。だって、今も内部調査部の6人に聞いて意見が3対3で割れたよね」
「50%クロ、50%シロ・・・」
「それに、この事件は落とし所が難しい案件だと思うんだ」と俺は言った。
「たとえば? どういうところが?」ルイーズは喧嘩腰だ。
「この事件はそもそも、犯罪行為が虚偽申請と書類偽造しかない。収入証明を偽造したのは業者だけど、提出したのは個人投資家だ。レンソイス不動産は、ただ個人投資家をそそのかしただけ。証拠がなければ、レンソイス不動産は『個人投資家が勝手にやっただけで、当社には何の罪もない』と言える」
「言えるわね」
「虚偽のローン申請書類と収入証明を提出した個人投資家は、詐欺罪に問えるだろう。
レンソイス不動産も不正融資に関与しているから詐欺罪の可能性がある。でも、レンソイス不動産から詐欺の証拠が出てくるとは思えない」
「個人投資家だけが犯人になるね」
「次に、書類偽造事件における被害者は銀行だ。虚偽の申請書類で融資することになったけど、譲渡担保になった段階で銀行のローンは返済されているから、実害がほとんどない。不正融資が詐欺罪になるかもしれないけど、実害がないから難しいと思うんだ」
「たとえば・・・」と俺は例を使って説明してみることにした。
【ケース1】
--------------
個人投資家Aは、レンソイス不動産と共謀して虚偽の申請書類を作成し、ロワール銀行から不動産取得資金を借入した。
その後、個人投資家AはLファイナンスから借入を行い、ロワール銀行からの借入金を全額返済した。
--------------
俺はケース1について説明する。
「この場合は、ロワール銀行の貸付は全額返済されているから、損害は発生していない。個人投資家Aと不動産会社が詐欺行為をしているけど、ロワール銀行は損害賠償を請求できない」
「実害がないからね」とルイーズは言った。
次に、俺はケース2について説明する。
【ケース2】
--------------
個人投資家Bは、レンソイス不動産と共謀して虚偽申請書類を作成し、ロワール銀行から不動産取得資金を借り入れた。
個人投資家Bはロワール銀行からの借入金の元利金を返済中である。
--------------
「この場合、ローンの元利金は順調に返済されていて、ロワール銀行は経済的な損失は被っていない。この場合も、詐欺罪には該当するかもしれないけど、ロワール銀行は損害賠償請求できないだろう」
「実害がないからね」とルイーズ。
続いて、俺はケース3について説明する。
【ケース3】
--------------
個人投資家Cは、レンソイス不動産と共謀して虚偽の申請書類を作成し、ロワール銀行から不動産購入資金を借入した。
個人投資家Cはその後、借入金の返済ができず破産した。担保不動産を処分した後の残債務は1,000万JDであった。
--------------
「この場合は、個人投資家Cが破産したことによって、ロワール銀行は1,000万JDの損失を被っている。この場合は詐欺行為によって損害が発生したから、ロワール銀行は損害賠償請求できる」
「実害があるからね。ケース1~3のうち、ケース3の場合しか問題にならないということ?」とルイーズが言った。
「そうだと思う。さらに言うと、ロワール銀行が書類の偽造を知っていた場合は、詐欺行為も存在しない。詐欺行為がなければ、損害賠償請求はできない」
<続く>
俺はメンバーに説明する。
「レンソイス不動産のリードはLシリーズの1件目から登場することもあるが、書類偽造から登場するケースもある。書類偽造をさせているのがリードだからね。リードは完全にクロだ」
「そうね」ルイーズは興味なさそうに言った。
「Lファイナンスはレンソイス不動産のグループ会社だからクロだろう。収入証明などが偽造されていることは当然知っている」
「そうだね」
「でも、ロワール銀行の担当者スティーブンは、書類偽造を知っているかどうか分からない。個人投資家5人にヒアリングしたけど、たまたま5人の担当者がスティーブンだったかもしれない。ロワール銀行のスティーブンがクロだと判断するには、母集団が足りないと思うんだ」と俺は言った。
「自信がないの?」とルイーズが余計なことを俺に言う。腰抜けと言わんばかりだ。
「自信があるかないかと聞かれれば、ないよ。だって、今も内部調査部の6人に聞いて意見が3対3で割れたよね」
「50%クロ、50%シロ・・・」
「それに、この事件は落とし所が難しい案件だと思うんだ」と俺は言った。
「たとえば? どういうところが?」ルイーズは喧嘩腰だ。
「この事件はそもそも、犯罪行為が虚偽申請と書類偽造しかない。収入証明を偽造したのは業者だけど、提出したのは個人投資家だ。レンソイス不動産は、ただ個人投資家をそそのかしただけ。証拠がなければ、レンソイス不動産は『個人投資家が勝手にやっただけで、当社には何の罪もない』と言える」
「言えるわね」
「虚偽のローン申請書類と収入証明を提出した個人投資家は、詐欺罪に問えるだろう。
レンソイス不動産も不正融資に関与しているから詐欺罪の可能性がある。でも、レンソイス不動産から詐欺の証拠が出てくるとは思えない」
「個人投資家だけが犯人になるね」
「次に、書類偽造事件における被害者は銀行だ。虚偽の申請書類で融資することになったけど、譲渡担保になった段階で銀行のローンは返済されているから、実害がほとんどない。不正融資が詐欺罪になるかもしれないけど、実害がないから難しいと思うんだ」
「たとえば・・・」と俺は例を使って説明してみることにした。
【ケース1】
--------------
個人投資家Aは、レンソイス不動産と共謀して虚偽の申請書類を作成し、ロワール銀行から不動産取得資金を借入した。
その後、個人投資家AはLファイナンスから借入を行い、ロワール銀行からの借入金を全額返済した。
--------------
俺はケース1について説明する。
「この場合は、ロワール銀行の貸付は全額返済されているから、損害は発生していない。個人投資家Aと不動産会社が詐欺行為をしているけど、ロワール銀行は損害賠償を請求できない」
「実害がないからね」とルイーズは言った。
次に、俺はケース2について説明する。
【ケース2】
--------------
個人投資家Bは、レンソイス不動産と共謀して虚偽申請書類を作成し、ロワール銀行から不動産取得資金を借り入れた。
個人投資家Bはロワール銀行からの借入金の元利金を返済中である。
--------------
「この場合、ローンの元利金は順調に返済されていて、ロワール銀行は経済的な損失は被っていない。この場合も、詐欺罪には該当するかもしれないけど、ロワール銀行は損害賠償請求できないだろう」
「実害がないからね」とルイーズ。
続いて、俺はケース3について説明する。
【ケース3】
--------------
個人投資家Cは、レンソイス不動産と共謀して虚偽の申請書類を作成し、ロワール銀行から不動産購入資金を借入した。
個人投資家Cはその後、借入金の返済ができず破産した。担保不動産を処分した後の残債務は1,000万JDであった。
--------------
「この場合は、個人投資家Cが破産したことによって、ロワール銀行は1,000万JDの損失を被っている。この場合は詐欺行為によって損害が発生したから、ロワール銀行は損害賠償請求できる」
「実害があるからね。ケース1~3のうち、ケース3の場合しか問題にならないということ?」とルイーズが言った。
「そうだと思う。さらに言うと、ロワール銀行が書類の偽造を知っていた場合は、詐欺行為も存在しない。詐欺行為がなければ、損害賠償請求はできない」
<続く>