第5話 暗号資産交換業者(その3)
文字数 2,021文字
(5) 暗号資産交換業者 <続き>
俺は『電話営業』と聞くと詐欺をイメージしてしまう。
どうしても気になったのでホセに質問してみた。
「対面の暗号資産取引と聞くと、失礼ながら詐欺グループをイメージしてしまいます。テレビやネットでよく事件になっているのを見ますから」
「あー。分かります。よく言われますよ」ホセは当然のように言った。
「詐欺だと誤解を持たれたことはないのですか?」と俺はホセに聞いた。
完全に興味本位だ。
「流行り物には、詐欺師が多く絡んできますから。詐欺師が多いのは暗号資産に限った話ではありません」
「例えば?」
「暗号資産の前は・・・、確か、太陽光発電に多くの詐欺師が参入してきました。会った人の80%くらいは詐欺師でしたね」
「80%ですか・・・」
「我々は、そういうのには慣れています。と言いますか、我々がいくら真面目に仕事をしていても、世の中には信頼してくれない人が一定数います。だって、世の中には詐欺師が多いですから・・・」ホセは笑いながら言った。
「あまり気にしていないと?」
「そうですね。結局は顧客との信頼関係が一番重要だと思っています。それにしても、暗号資産の詐欺は、他の詐欺と違っていて面白いですねー」
「面白い?」
「詐欺は顧客が損失を認識した時点で発覚します。かつては直ぐに詐欺と分かった輩(やから)も、暗号資産がしばらく値上がりしていたから、なかなか詐欺だとバレないんです」
「へー。そんなこともあるんですね」
「最終的には詐欺だとバレるんですよ。でも、バレるまれまでの間は利回りが良いから、英雄視されるんです」ホセは笑いながら言った。
長年、胡散臭い業界で仕事をしてきた経験なのだろう。実に慣れている。
詐欺師と付き合いもあるだろうし、詐欺師の手口は熟知していそうだ。
もし、ホセたちが暗号資産の詐欺師だとすると、手口を暴くのが難しいかもしれない。
さて、すっかり脱線してしまったから本題に戻そう。
「ところで、御社の親会社が発行しているジャービット・コインについて、幾つか確認したいのですが」と俺はホセに言った。
「何でしょう?」
「まず、ジャービット・コインを発行している親会社と御社の関係を教えて下さい」
「親会社というと、K諸島にある、ジャービットの件ですね」
「そうです」
「ジャービットの株主は私たち経営陣です。なので、実質的にジャービットはジャービット・エクスチェンジと同じです」
「そうなんですか? 代表者は別人ですよね?」
「ええ。ジャービットの代表者がジャービット・エクスチェンジと別なのは、現地での各種手続きに対応してくれる弁護士に代表者をお願いしているからです。タックスヘイブンに法人を設立する際にはよくあることです」
「そうですか。ところで、なぜK諸島だったのですか?」
「K諸島に法人を設立したのは、税務リスクを回避するためです。顧問税理士に、ジャービス王国で暗号資産を発行すると課税対象になる可能性がある、と言われました」
「税務リスクですか・・・」
「ジャービス王国の税務上の取り扱いとして、暗号資産の発行会社が、暗号資産の保有者に対する返還義務がないと見做されると、暗号資産の発行金額の全額が課税対象(益金として認定される)になる可能性があるようです」
「へー。詳しく知りませんでしたが、寄付とか贈与のような扱いになるんですね」
「そうみたいです。だから、暗号資産を発行した際の課税リスクを避けるために、タックスヘイブンのK諸島にジャービットを設立しました。課税リスクのないジャービットが暗号資産のジャービット・コインを発行しています」とホセは説明した。
※日本にも同じ税務上の論点があります。
「そうすると、K諸島の法人は完全なペーパーカンパニーですか?」と俺は聞いた。
「もちろんそうです。ジャービット・コインの発行によって受領した現預金を保管・管理しているだけの法人です。もちろん、資産運用はしているので、何もしていないというわけではありませんが・・・」とホセは答えた。
俺は親会社との関係、親会社がタックスヘイブンの法人である理由を理解した。
ホセの説明に違和感のある箇所はない。
俺はジャービット・コインの利回りについて質問した。
「なるほど。分かりました。では、ジャービット・コインの価格推移について、教えてもらえますか?」
「何でしょうか?」
「ジャービット・コインの価格推移を見ました。ジャービット・コインは過去5年間、毎年50%を超えるリターンを出しています。これだけ安定した高リターンの暗号資産は他にありません。ジャービット・コインのリターンには、何か理由があるのでしょうか?」と俺はストレートに聞いた。
「それは説明が難しいですね。あえて言うと、他の暗号資産と比べてジャービット・コインは発行数量が少ないのと、流動性が低いからだと思います」とホセは答えた。
「どういうことですか?」
俺はホセに尋ねた。
<続く>
俺は『電話営業』と聞くと詐欺をイメージしてしまう。
どうしても気になったのでホセに質問してみた。
「対面の暗号資産取引と聞くと、失礼ながら詐欺グループをイメージしてしまいます。テレビやネットでよく事件になっているのを見ますから」
「あー。分かります。よく言われますよ」ホセは当然のように言った。
「詐欺だと誤解を持たれたことはないのですか?」と俺はホセに聞いた。
完全に興味本位だ。
「流行り物には、詐欺師が多く絡んできますから。詐欺師が多いのは暗号資産に限った話ではありません」
「例えば?」
「暗号資産の前は・・・、確か、太陽光発電に多くの詐欺師が参入してきました。会った人の80%くらいは詐欺師でしたね」
「80%ですか・・・」
「我々は、そういうのには慣れています。と言いますか、我々がいくら真面目に仕事をしていても、世の中には信頼してくれない人が一定数います。だって、世の中には詐欺師が多いですから・・・」ホセは笑いながら言った。
「あまり気にしていないと?」
「そうですね。結局は顧客との信頼関係が一番重要だと思っています。それにしても、暗号資産の詐欺は、他の詐欺と違っていて面白いですねー」
「面白い?」
「詐欺は顧客が損失を認識した時点で発覚します。かつては直ぐに詐欺と分かった輩(やから)も、暗号資産がしばらく値上がりしていたから、なかなか詐欺だとバレないんです」
「へー。そんなこともあるんですね」
「最終的には詐欺だとバレるんですよ。でも、バレるまれまでの間は利回りが良いから、英雄視されるんです」ホセは笑いながら言った。
長年、胡散臭い業界で仕事をしてきた経験なのだろう。実に慣れている。
詐欺師と付き合いもあるだろうし、詐欺師の手口は熟知していそうだ。
もし、ホセたちが暗号資産の詐欺師だとすると、手口を暴くのが難しいかもしれない。
さて、すっかり脱線してしまったから本題に戻そう。
「ところで、御社の親会社が発行しているジャービット・コインについて、幾つか確認したいのですが」と俺はホセに言った。
「何でしょう?」
「まず、ジャービット・コインを発行している親会社と御社の関係を教えて下さい」
「親会社というと、K諸島にある、ジャービットの件ですね」
「そうです」
「ジャービットの株主は私たち経営陣です。なので、実質的にジャービットはジャービット・エクスチェンジと同じです」
「そうなんですか? 代表者は別人ですよね?」
「ええ。ジャービットの代表者がジャービット・エクスチェンジと別なのは、現地での各種手続きに対応してくれる弁護士に代表者をお願いしているからです。タックスヘイブンに法人を設立する際にはよくあることです」
「そうですか。ところで、なぜK諸島だったのですか?」
「K諸島に法人を設立したのは、税務リスクを回避するためです。顧問税理士に、ジャービス王国で暗号資産を発行すると課税対象になる可能性がある、と言われました」
「税務リスクですか・・・」
「ジャービス王国の税務上の取り扱いとして、暗号資産の発行会社が、暗号資産の保有者に対する返還義務がないと見做されると、暗号資産の発行金額の全額が課税対象(益金として認定される)になる可能性があるようです」
「へー。詳しく知りませんでしたが、寄付とか贈与のような扱いになるんですね」
「そうみたいです。だから、暗号資産を発行した際の課税リスクを避けるために、タックスヘイブンのK諸島にジャービットを設立しました。課税リスクのないジャービットが暗号資産のジャービット・コインを発行しています」とホセは説明した。
※日本にも同じ税務上の論点があります。
「そうすると、K諸島の法人は完全なペーパーカンパニーですか?」と俺は聞いた。
「もちろんそうです。ジャービット・コインの発行によって受領した現預金を保管・管理しているだけの法人です。もちろん、資産運用はしているので、何もしていないというわけではありませんが・・・」とホセは答えた。
俺は親会社との関係、親会社がタックスヘイブンの法人である理由を理解した。
ホセの説明に違和感のある箇所はない。
俺はジャービット・コインの利回りについて質問した。
「なるほど。分かりました。では、ジャービット・コインの価格推移について、教えてもらえますか?」
「何でしょうか?」
「ジャービット・コインの価格推移を見ました。ジャービット・コインは過去5年間、毎年50%を超えるリターンを出しています。これだけ安定した高リターンの暗号資産は他にありません。ジャービット・コインのリターンには、何か理由があるのでしょうか?」と俺はストレートに聞いた。
「それは説明が難しいですね。あえて言うと、他の暗号資産と比べてジャービット・コインは発行数量が少ないのと、流動性が低いからだと思います」とホセは答えた。
「どういうことですか?」
俺はホセに尋ねた。
<続く>