第4話 復活の呪文

文字数 1,589文字

(4)復活の呪文

 飲み物をもって作業部屋に到着した俺は、ルイーズに飲み物を渡した。
 そしたら、唐突にルイーズが言った。

「ダニエル、復活の呪文って知ってる?」

 何が言いたいのか、意味が分からない。復活というと、キリスト教のあれだろうか?
 俺は当たり障りのない返答をしてみる。

「ジーザスが復活したとか、そういう話かな?」

「そっちじゃなくて、ドラゴンクエスト2の復活の呪文。最近私、レトロゲームにハマっているんだ」

「ドラクエは知っているけど、復活の呪文は知らないな」と俺は正直に答えた。
 知ったかぶりをしても仕方がない。

「復活の呪文って、すごいんだ。昔のゲームはセーブ機能を入れる容量がなかったから、コマンドを打ち込んで、プレイしていた状態に戻れるようにしていたの」

「へー、すごいね」

「そう思うでしょ。復活の呪文に使用しているのは平仮名(あ~わ)の44文字、濁音(が~ご、ざ~ぞ、ば~ぼ)の15文字、半濁音(ぱ~ぽ)の5文字の64文字。
 復活の呪文は最大52文字を入力できる。
 組み合わせの数は、64^52(64の52乗)だから、無量大数(10の68乗)よりも大きい。ドラクエ2は、この無量大数よりも多い組み合わせを使って、プレイヤーの数、名前、レベル、HP、MP、アイテムの数、場所などを再現していたんだ。セーブ機能がなくても、プレイヤーの状態を平仮名で表現するって、すごいよね」

「すごい数だね。確か・・・、
 一、十、百、千、万、億、兆、京(けい)、垓(がい)、杼(じょ)、穣(じょう)、溝(こう)、澗(かん)、正(せい)、載(さい)、極(ごく)、恒河沙(ごうがしゃ)、阿僧祇(あそうぎ)、那由他(なゆた)、不可思議(ふかしぎ)、無量大数(むりょうたいすう)だったよね」

「良く知っているね」珍しくルイーズは俺を褒めた。

「暗記は得意だったからね」と俺は自慢げに言った。

「ただ、復活の呪文には問題点があった」

 この話はいつまで続くのだろう?
 ここで話の腰を折ると怒りそうだから、俺はもう少しだけ付き合うことにした。

「何が問題だったの?」

「52文字の復活の呪文なんて、普通の人は覚えられないでしょ。だから、復活の呪文を紙に書き写さないといけない。でもね、「ぺ」と「べ」とか紛らわしい文字をドットの粗い画面を見ていたら、同じ文字に見えることがある。クリアするまでに何度か、復活の呪文を書き写すのを失敗するのよ」

「へー、それは大変だね」

「そうでしょ。その日の作業が、全て無かったことになるの。ファイルを保存せずに報告書を書いたら、急にPCがフリーズしてしまった時と同じ。絶望感しかない・・・」

 ルイーズはとても悲しそうな眼をしている。
 本人は非常に重要なことを語っているつもりだが、俺は共感できない。
 なぜなら、ドラクエ2をやったことがないからだ。

「大変だったね。ドラクエ2はプレイしたことないけど、たまにファイルを保存していなくて消えちゃうことがあるから、分かる気がする」

 俺は心にもないお世辞を言った。
 何事も今回の調査を円滑に進めるためだ。

「最近私思うんだ。『この世の中にも復活の呪文があれば』って」

「確かに、復活の呪文があったら便利だよね。テストを失敗した時、やり直しできる。競馬を外した時、やり直しできる。人生のターニングポイントに、セーブ機能があれば良いと思うよ」

「そう思うでしょ。だから作った。復活の呪文」

 ルイーズは、机の上に置いた封筒を指さした。
 封筒の表面にはこう書いてある。

 “復活の呪文”

 そのままだ。何と書いたか、聞いた方がいいのか?
 迷っていると、ルイーズは俺に言った。

「今日、一番不幸だった人に、この封筒を渡してほしい」

 意味が分からない。
 でも、調査を円滑に進めるためには仕方がない。

「必ず渡すよ。ありがとう」と俺は言って、ルイーズから復活の呪文を受け取った。

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登場人物紹介

ダニエル:ジャービス王国の第4王子。総務大臣。

ルイーズ:総務省 内部調査部 課長代理

ジェームス:ジャービス王国第1王子。軍本部 総司令

チャールズ:ジャービス王国の第2王子。内務大臣。

アンドリュー:ジャービス王国の第3王子。外務大臣。

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