第5話 カルテルを疑え(その6)
文字数 1,653文字
(5)カルテルを疑え<続き>
俺の説明が一段落したことを見計らって、スミスが「いいですか?」と言った。
スミスには申し訳ない。ミゲルと遊んでいて遅くなってしまった。
「もし銅の高騰の原因がカルテルだったすると、ジャービス王国では独占禁止法違反に該当します。独占禁止法違反事件の検挙を内部調査部でするかはともかくとして、法律違反であれば、関与している会社を検挙すればいいのではないですか?」とスミスは言った。
「うーん。そう思うよね。でも、カルテルに関与している会社が分かったとしても、実際に法律違反として立件するのは難しいと思う。法律違反を立証するためには証拠が必要でしょ」と俺が言った。
「カルテルに関与している証拠の入手が困難ということですね」とスミスは言った。
「そう思う。まず、誰も自分からカルテルを結託していることを公表しない。
そして、関係者がカルテルの証拠を書面に残しているわけがない。カルテルを結んでいる会社は、慣れていると思うんだ。言ってみれば、カルテルのプロだよ。プロ」
「カルテルのプロって・・・」とルイーズが思わず突っ込んだ。
「なんか、悪の秘密結社みたいで格好いいですね。銅シンジケート、なんちゃって~」とミゲルが話に入ってきた。
おじさんが話に入ってくると、話が横に逸れるから、俺は無視して話を続けた。
「それに、価格カルテルだったら、ひょっとすると証拠を入手できるかもしれないけど、今回は数量カルテルだろ。販売数量は商社の営業方針に関わることなので、第三者からは検証が難しい」
「あ、そう言われればそうですね」
「もし、他の商品(例えば石炭)の仕入を増やすから、銅の輸入は増やせないと言われれば、反証できないよね」と俺は説明した。
「つまり、捜査にかなりの時間が掛かるけど、証拠が出てくるか分からない、ということですね?」とスミスは言った。
「そうだよ。かなりの労力を使うけど、時間の無駄になる可能性が高いと思う」と俺は答えた。
「じゃあ、諦めるの?」とルイーズが聞いてきた。
「諦めはしない。でも、正面突破できないだろうから、やり方を考えないと」と俺は言った。
嫌なところを聞いてくる。でも、そこなんだよな。何とか対策したいけど、正面から調査しても効果ないだろう。いい方法はないものか・・・。
俺が考えていると、ミゲルが「証拠が見つからないのであれば、探さなくてもいいじゃないですか?」と呑気に言った。
『調査をせずに事件を解決する』か。何となく手掛かりをつかんだ気がした。
今の状況を整理してみよう。
1.銅の高騰には犯人はいる。
2.そして、犯人が誰かも見当が付く。
3.ただ、証拠がない。
だから、犯人を捕まえるのが難しい。
調査しても犯人を捕まえられないのだったら、犯人から自首させるしかない。
証拠がない犯人に、どうすれば自首させられるか?
俺は一つの結論にたどり着いた。
「分かった!ミゲル、いいアドバイスだ」と俺はミゲルに言った。
ミゲルはまんざらでもない表情をしている。
「時間の無駄だから、調査はやめよう」と俺は言った。
「え?」ルイーズは聞き返してきた。
「調査はせずに、事件を解決する方法を思い付いた」
「じゃあ、何をするの?」とルイーズが言った。
「俺の推理が正しいとすると、銅の高騰の犯人は商社連合だ。カルテルで数量調整している。でも、証拠がないから捕まえられない。捕まえられなかったら、犯人に自首するように仕向ければいい」と俺は言った。
「具体的に言ってくれないかな?」ルイーズは俺のまどろっこしい説明に少しキレている。
「犯人に嫌がらせをすればいいんだよ」と俺は説明する。
「え?何言ってんの?馬鹿じゃないの?」
この言い方はさすがに酷いと思う。完全に俺のことを馬鹿にしている。
「だからさ、商社が締結している数量カルテルが維持できないくらい、嫌がらせをすればいいんだ。つまり、商社が維持できないレベルまで、俺たちが銅価格を下げればいい」
ルイーズはまだピンときていないようだ。
<続く>
俺の説明が一段落したことを見計らって、スミスが「いいですか?」と言った。
スミスには申し訳ない。ミゲルと遊んでいて遅くなってしまった。
「もし銅の高騰の原因がカルテルだったすると、ジャービス王国では独占禁止法違反に該当します。独占禁止法違反事件の検挙を内部調査部でするかはともかくとして、法律違反であれば、関与している会社を検挙すればいいのではないですか?」とスミスは言った。
「うーん。そう思うよね。でも、カルテルに関与している会社が分かったとしても、実際に法律違反として立件するのは難しいと思う。法律違反を立証するためには証拠が必要でしょ」と俺が言った。
「カルテルに関与している証拠の入手が困難ということですね」とスミスは言った。
「そう思う。まず、誰も自分からカルテルを結託していることを公表しない。
そして、関係者がカルテルの証拠を書面に残しているわけがない。カルテルを結んでいる会社は、慣れていると思うんだ。言ってみれば、カルテルのプロだよ。プロ」
「カルテルのプロって・・・」とルイーズが思わず突っ込んだ。
「なんか、悪の秘密結社みたいで格好いいですね。銅シンジケート、なんちゃって~」とミゲルが話に入ってきた。
おじさんが話に入ってくると、話が横に逸れるから、俺は無視して話を続けた。
「それに、価格カルテルだったら、ひょっとすると証拠を入手できるかもしれないけど、今回は数量カルテルだろ。販売数量は商社の営業方針に関わることなので、第三者からは検証が難しい」
「あ、そう言われればそうですね」
「もし、他の商品(例えば石炭)の仕入を増やすから、銅の輸入は増やせないと言われれば、反証できないよね」と俺は説明した。
「つまり、捜査にかなりの時間が掛かるけど、証拠が出てくるか分からない、ということですね?」とスミスは言った。
「そうだよ。かなりの労力を使うけど、時間の無駄になる可能性が高いと思う」と俺は答えた。
「じゃあ、諦めるの?」とルイーズが聞いてきた。
「諦めはしない。でも、正面突破できないだろうから、やり方を考えないと」と俺は言った。
嫌なところを聞いてくる。でも、そこなんだよな。何とか対策したいけど、正面から調査しても効果ないだろう。いい方法はないものか・・・。
俺が考えていると、ミゲルが「証拠が見つからないのであれば、探さなくてもいいじゃないですか?」と呑気に言った。
『調査をせずに事件を解決する』か。何となく手掛かりをつかんだ気がした。
今の状況を整理してみよう。
1.銅の高騰には犯人はいる。
2.そして、犯人が誰かも見当が付く。
3.ただ、証拠がない。
だから、犯人を捕まえるのが難しい。
調査しても犯人を捕まえられないのだったら、犯人から自首させるしかない。
証拠がない犯人に、どうすれば自首させられるか?
俺は一つの結論にたどり着いた。
「分かった!ミゲル、いいアドバイスだ」と俺はミゲルに言った。
ミゲルはまんざらでもない表情をしている。
「時間の無駄だから、調査はやめよう」と俺は言った。
「え?」ルイーズは聞き返してきた。
「調査はせずに、事件を解決する方法を思い付いた」
「じゃあ、何をするの?」とルイーズが言った。
「俺の推理が正しいとすると、銅の高騰の犯人は商社連合だ。カルテルで数量調整している。でも、証拠がないから捕まえられない。捕まえられなかったら、犯人に自首するように仕向ければいい」と俺は言った。
「具体的に言ってくれないかな?」ルイーズは俺のまどろっこしい説明に少しキレている。
「犯人に嫌がらせをすればいいんだよ」と俺は説明する。
「え?何言ってんの?馬鹿じゃないの?」
この言い方はさすがに酷いと思う。完全に俺のことを馬鹿にしている。
「だからさ、商社が締結している数量カルテルが維持できないくらい、嫌がらせをすればいいんだ。つまり、商社が維持できないレベルまで、俺たちが銅価格を下げればいい」
ルイーズはまだピンときていないようだ。
<続く>