第13話 会社からの相談(その2)
文字数 1,969文字
(13)会社からの相談 <続き>
私が怪訝そうに聞いているので、ホセは理由を説明し始めた。
「私たちはもう高齢です。提案2を選んだとしても、私たちが投資を続けられるのは、数年でしょう。継続的にベンチャー投資をするには限界があります」とホセは言った。
「はあ、そうですね・・・」
「それに、今まで投資してきた投資有価証券の売却で儲かりましたから、私たちは既にそれなりの金額を受け取っています。老後資金も十分ありますから、これ以上のお金は必要ありません」
― 金持ちの道楽きたー!
もう十分にお金は持っているから、社会貢献したいのか?
私は、一戦を退いた金持ちが慈善活動を始めたり、ボランティア団体に寄付したり、財団法人を作ったりするのを知っている。
それと同じ発想なのかもしれない。
私には理解できないのだが、そういう考え方もあるのだろう。
「私たちは前職のカルタゴ証券の時からベンチャー投資をしています。だから、もう40年以上ベンチャー投資に関わっています」とホセは言った。
― 危険な展開だ・・・
直感的に私は、これは話が長くなりそうだと感じた。
ホセはきっと、カルタゴ証券の入社からの投資実績を延々と説明するだろう。
その時、私は何と言えばいいんだろう?
ホセは話が終わりそうになかったら、途中で打ち切っても大丈夫だろうか?
私はお年寄りの対応が苦手だ。
― ミゲルを呼んでくれば良かった・・・
私は少し後悔した。
ミゲルはこういう話を何時間でも聞いていられる。
経験なのか? 才能なのか?
私が妄想していると、「ベンチャー企業への思い入れが強いのですね」とダニエルが反応した。
― お年寄り担当が横にいた!
ミゲルほどではないが、ダニエルもお年寄りの対応が得意だ。
ここはダニエルに任せることにしよう。
「そうです。ジャービス王国には国のベンチャー企業の支援制度がほとんどありません。だから、ベンチャー企業の資金調達は投資家からのエクイティ・ファイナンスに頼っています」とホセは言った。
「確かに・・・。政府で支援制度を作る案もあるんです。でも、基幹産業を育成することが優先になっていて、正直そこまで手が回っていません」とダニエルが言った。
「それは分かります。国力を強化する上では、基幹産業の育成が重要ですから」
「そういうわけで、現状ではベンチャー企業は民間任せです」
「ベンチャー企業は民間が支援しないといけないにも関わらず、ジャービス王国にはベンチャー投資家が多くいません。だから、ベンチャー企業は十分な資金調達ができていません」
「そうですか・・・」
「ジャービス王国には、エンジェル投資家もほとんどいませんし、ベンチャーキャピタルも数えるほどしかありませんから」
※エンジェル投資家とは、起業して間もない企業に資金を出資する個人投資家のことです。
「要は、ベンチャー企業の成功例が少なく、エコシステムが確立していないということですね?」とダニエルはホセに聞いた。
※エコシステムとは、ベンチャー企業の設立から上場までの流れの中で、資金循環していくことです。例えば、成功したベンチャー企業の経営者が、新しいベンチャー企業に投資するなどして、資金循環させていくような仕組みを言います。
「そうです。なので、私たちの投資活動は、ジャービス王国のベンチャー企業の育成に役立っていると信じています」
「だから提案1を選択したいと?」と私はホセに聞いた。
「そういうことです。他のメンバーとも話し合いましたが、提案2を選択して個人的な利益を優先するよりも、提案1を選択してベンチャー企業へ継続して投資できる方が有難いのです」とホセは言った。
これはどうしたものか。悩ましい。
私は困って「どうする?」とダニエルに聞いたら、ダニエルは「別にそれくらい、いいんじゃない」と何の問題もないように軽く返してきた。
― これでいいのだろうか?
私には判断できないのだが、まあ、最終的にはチャールズが納得するかどうかだ。
ホセたちの要件は分かったから、後はチャールズの判断に委ねることにした。
「希望については分かりました。問題ないと思いますが、念のために内部で確認します」
「ありがとうございます」とジャービット・エクスチェンジの3人は同時に言った。
「ところで、その条件がクリアできれば、役員の留任などの条件は合意してもらえるのですね?」と私は念のために確認した。
「もちろんです」とホセは答えた。
そう言って、ジャービット・エクスチェンジの3人と弁護士のビルは去っていった。
***
4人が帰った後、ダニエルがチャールズに確認したら「あ、そう。別にいいよ」と言っていたようだ。
チャールズは暗号資産以外には興味がないから、ホセたちの希望はすんなり通った。
後は裁判所の認可決定を待つだけだ。
私が怪訝そうに聞いているので、ホセは理由を説明し始めた。
「私たちはもう高齢です。提案2を選んだとしても、私たちが投資を続けられるのは、数年でしょう。継続的にベンチャー投資をするには限界があります」とホセは言った。
「はあ、そうですね・・・」
「それに、今まで投資してきた投資有価証券の売却で儲かりましたから、私たちは既にそれなりの金額を受け取っています。老後資金も十分ありますから、これ以上のお金は必要ありません」
― 金持ちの道楽きたー!
もう十分にお金は持っているから、社会貢献したいのか?
私は、一戦を退いた金持ちが慈善活動を始めたり、ボランティア団体に寄付したり、財団法人を作ったりするのを知っている。
それと同じ発想なのかもしれない。
私には理解できないのだが、そういう考え方もあるのだろう。
「私たちは前職のカルタゴ証券の時からベンチャー投資をしています。だから、もう40年以上ベンチャー投資に関わっています」とホセは言った。
― 危険な展開だ・・・
直感的に私は、これは話が長くなりそうだと感じた。
ホセはきっと、カルタゴ証券の入社からの投資実績を延々と説明するだろう。
その時、私は何と言えばいいんだろう?
ホセは話が終わりそうになかったら、途中で打ち切っても大丈夫だろうか?
私はお年寄りの対応が苦手だ。
― ミゲルを呼んでくれば良かった・・・
私は少し後悔した。
ミゲルはこういう話を何時間でも聞いていられる。
経験なのか? 才能なのか?
私が妄想していると、「ベンチャー企業への思い入れが強いのですね」とダニエルが反応した。
― お年寄り担当が横にいた!
ミゲルほどではないが、ダニエルもお年寄りの対応が得意だ。
ここはダニエルに任せることにしよう。
「そうです。ジャービス王国には国のベンチャー企業の支援制度がほとんどありません。だから、ベンチャー企業の資金調達は投資家からのエクイティ・ファイナンスに頼っています」とホセは言った。
「確かに・・・。政府で支援制度を作る案もあるんです。でも、基幹産業を育成することが優先になっていて、正直そこまで手が回っていません」とダニエルが言った。
「それは分かります。国力を強化する上では、基幹産業の育成が重要ですから」
「そういうわけで、現状ではベンチャー企業は民間任せです」
「ベンチャー企業は民間が支援しないといけないにも関わらず、ジャービス王国にはベンチャー投資家が多くいません。だから、ベンチャー企業は十分な資金調達ができていません」
「そうですか・・・」
「ジャービス王国には、エンジェル投資家もほとんどいませんし、ベンチャーキャピタルも数えるほどしかありませんから」
※エンジェル投資家とは、起業して間もない企業に資金を出資する個人投資家のことです。
「要は、ベンチャー企業の成功例が少なく、エコシステムが確立していないということですね?」とダニエルはホセに聞いた。
※エコシステムとは、ベンチャー企業の設立から上場までの流れの中で、資金循環していくことです。例えば、成功したベンチャー企業の経営者が、新しいベンチャー企業に投資するなどして、資金循環させていくような仕組みを言います。
「そうです。なので、私たちの投資活動は、ジャービス王国のベンチャー企業の育成に役立っていると信じています」
「だから提案1を選択したいと?」と私はホセに聞いた。
「そういうことです。他のメンバーとも話し合いましたが、提案2を選択して個人的な利益を優先するよりも、提案1を選択してベンチャー企業へ継続して投資できる方が有難いのです」とホセは言った。
これはどうしたものか。悩ましい。
私は困って「どうする?」とダニエルに聞いたら、ダニエルは「別にそれくらい、いいんじゃない」と何の問題もないように軽く返してきた。
― これでいいのだろうか?
私には判断できないのだが、まあ、最終的にはチャールズが納得するかどうかだ。
ホセたちの要件は分かったから、後はチャールズの判断に委ねることにした。
「希望については分かりました。問題ないと思いますが、念のために内部で確認します」
「ありがとうございます」とジャービット・エクスチェンジの3人は同時に言った。
「ところで、その条件がクリアできれば、役員の留任などの条件は合意してもらえるのですね?」と私は念のために確認した。
「もちろんです」とホセは答えた。
そう言って、ジャービット・エクスチェンジの3人と弁護士のビルは去っていった。
***
4人が帰った後、ダニエルがチャールズに確認したら「あ、そう。別にいいよ」と言っていたようだ。
チャールズは暗号資産以外には興味がないから、ホセたちの希望はすんなり通った。
後は裁判所の認可決定を待つだけだ。