第3話 詐欺被害者に会いに行こう!(その1)
文字数 1,882文字
(3)詐欺被害者に会いに行こう!
総務省に戻った俺たちは、ジョーダンの『詐欺まがいの行為』の被害に遭っているだろう上場会社をリストアップすることにした。
ジャックの話では、ESGスコアを上げるために、太陽光発電施設のオペレーティング・リースをしている先が候補先となる。
ちなみに、ジャービス王国では10年以上前に再生可能エネルギーの発電量を増やすために、政策的にFIT(固定価格買取制度)を導入した。太陽光発電の場合、当初は買取価格を42JD/ kWhとしていたため、多くの会社が太陽光発電による売電事業に参入した。その後、kWh当りの買取価格は10JD代に落ちてきたから、売電事業に新規参入しようという会社はジャービス国内にはほとんどない。
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円と考えて下さい。
ジャービス王国において売電目的で太陽光発電施設を作るケースが少なくなってきたから、太陽光発電に使用する機材が余剰在庫として滞留するようになってきた。ジョーダンは安値で購入できる太陽光発電事業に目を付けたのだと俺は考えている。
俺たちは上場会社の統合報告書を精査して、ジョーダンの詐欺被害の候補先を調べることにした。
まず、ジャービス王国の上場企業は300社なので数がそれほど多くない。そして、上場企業であっても必ずしも統合報告書を作成しているわけではない。ジャービス王国の上場企業のうち統合報告書を作成している会社は50社だ。
※日本の場合、2022年1月~12月に統合報告書を発行した国内企業等は884社のようです。日本における上場企業の数は4,000社弱なので、約20%の上場企業が統合報告書を発行していることになります。
出所:KPMGジャパン『日本の企業報告に関する調査2022』
俺たちが上場企業の統合報告書を調べた結果、条件に当てはまる会社はロベルティ、ノヴァーラ、ピリアの3社だった。ちなみに、ジャックとの話に出た会社はロベルティだから、俺たちが見つけた会社は2つだけだ。時間を掛けたわりには大した成果はなかったわけだが、プロフェッショナルの調査とはそういうものだ。
ロベルティ、ノヴァーラ、ピリアの3社はいずれも製造業だ。工場等で使用する電力を再生可能エネルギーに置き換えていく計画を公表して、ESGスコアを上げて投資家にアピールしようとしている。
大量の電力を使用しないのであれば、環境対応を大してアピールできない。言ってしまえば、再生可能エネルギーを他社から購入すればいいだけだ。自社で太陽光発電施設を保有する必要はない。
俺たちは3社のうち、まずはノヴァーラに訪問して事情を聞くことにした。ロベルティはジャックが話していた会社なので『そこに訪問するのは芸がない』と思ったからだ。
***
ノヴァーラには俺、スミスとロイの3人で訪問した。ノヴァーラは中堅規模の精密機械メーカーでジャービス国内に工場を1つ有している。
俺たちが訪問したノヴァーラの拠点は本社と工場が併設されていた。営業所は国内外に幾つかあるようだが、営業以外の業務はこの拠点で行っているようだ。
俺たちが訪問すると担当取締役のジョヴァンニが応対してくれた。
事前にスミスが俺たちの調査内容をジョヴァンニに伝えておいたから、まずジョヴァンニは俺たちに、ノヴァーラの工場の屋根に設置されている太陽光発電施設を見せてくれた。
ジョーダンはロベルティの工場の屋根に太陽光発電施設を設置したようだから、俺は念のためにノヴァーラの工場の面積を事前に調べておいた。工場の土地面積は7,000㎡だった。
統合報告書によれば、発電出力2MWの太陽光発電施設を作る予定と記載されていたが、とても工場の屋根に太陽光パネルを設置できる面積はない。
屋根の広さは、せいぜいサッカー場1つ分(約2,000坪=6,600㎡)だろう。だから、設置できる太陽光パネルの発電出力は0.5MWだ。
ジャービス王国の日照時間は長いわけではない。この設置面積では会社が予定している発電出力2MWを確保できないことは明らかだ。
念のために、俺が「太陽光発電施設はここ以外に作る予定ですか?」と質問したら、ジョヴァンニは「いえ、特にその予定はありません」と答えた。
とすると、発電出力0.5MWの太陽光パネルしか設置できない場所で、発電出力2MWの太陽光発電施設を作ることができる、とジョーダンから説明されたのだろう。
―― これって詐欺罪に問えるのか?
俺はグレーな取引であることを理解した。
<続く>
総務省に戻った俺たちは、ジョーダンの『詐欺まがいの行為』の被害に遭っているだろう上場会社をリストアップすることにした。
ジャックの話では、ESGスコアを上げるために、太陽光発電施設のオペレーティング・リースをしている先が候補先となる。
ちなみに、ジャービス王国では10年以上前に再生可能エネルギーの発電量を増やすために、政策的にFIT(固定価格買取制度)を導入した。太陽光発電の場合、当初は買取価格を42JD/ kWhとしていたため、多くの会社が太陽光発電による売電事業に参入した。その後、kWh当りの買取価格は10JD代に落ちてきたから、売電事業に新規参入しようという会社はジャービス国内にはほとんどない。
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円と考えて下さい。
ジャービス王国において売電目的で太陽光発電施設を作るケースが少なくなってきたから、太陽光発電に使用する機材が余剰在庫として滞留するようになってきた。ジョーダンは安値で購入できる太陽光発電事業に目を付けたのだと俺は考えている。
俺たちは上場会社の統合報告書を精査して、ジョーダンの詐欺被害の候補先を調べることにした。
まず、ジャービス王国の上場企業は300社なので数がそれほど多くない。そして、上場企業であっても必ずしも統合報告書を作成しているわけではない。ジャービス王国の上場企業のうち統合報告書を作成している会社は50社だ。
※日本の場合、2022年1月~12月に統合報告書を発行した国内企業等は884社のようです。日本における上場企業の数は4,000社弱なので、約20%の上場企業が統合報告書を発行していることになります。
出所:KPMGジャパン『日本の企業報告に関する調査2022』
俺たちが上場企業の統合報告書を調べた結果、条件に当てはまる会社はロベルティ、ノヴァーラ、ピリアの3社だった。ちなみに、ジャックとの話に出た会社はロベルティだから、俺たちが見つけた会社は2つだけだ。時間を掛けたわりには大した成果はなかったわけだが、プロフェッショナルの調査とはそういうものだ。
ロベルティ、ノヴァーラ、ピリアの3社はいずれも製造業だ。工場等で使用する電力を再生可能エネルギーに置き換えていく計画を公表して、ESGスコアを上げて投資家にアピールしようとしている。
大量の電力を使用しないのであれば、環境対応を大してアピールできない。言ってしまえば、再生可能エネルギーを他社から購入すればいいだけだ。自社で太陽光発電施設を保有する必要はない。
俺たちは3社のうち、まずはノヴァーラに訪問して事情を聞くことにした。ロベルティはジャックが話していた会社なので『そこに訪問するのは芸がない』と思ったからだ。
***
ノヴァーラには俺、スミスとロイの3人で訪問した。ノヴァーラは中堅規模の精密機械メーカーでジャービス国内に工場を1つ有している。
俺たちが訪問したノヴァーラの拠点は本社と工場が併設されていた。営業所は国内外に幾つかあるようだが、営業以外の業務はこの拠点で行っているようだ。
俺たちが訪問すると担当取締役のジョヴァンニが応対してくれた。
事前にスミスが俺たちの調査内容をジョヴァンニに伝えておいたから、まずジョヴァンニは俺たちに、ノヴァーラの工場の屋根に設置されている太陽光発電施設を見せてくれた。
ジョーダンはロベルティの工場の屋根に太陽光発電施設を設置したようだから、俺は念のためにノヴァーラの工場の面積を事前に調べておいた。工場の土地面積は7,000㎡だった。
統合報告書によれば、発電出力2MWの太陽光発電施設を作る予定と記載されていたが、とても工場の屋根に太陽光パネルを設置できる面積はない。
屋根の広さは、せいぜいサッカー場1つ分(約2,000坪=6,600㎡)だろう。だから、設置できる太陽光パネルの発電出力は0.5MWだ。
ジャービス王国の日照時間は長いわけではない。この設置面積では会社が予定している発電出力2MWを確保できないことは明らかだ。
念のために、俺が「太陽光発電施設はここ以外に作る予定ですか?」と質問したら、ジョヴァンニは「いえ、特にその予定はありません」と答えた。
とすると、発電出力0.5MWの太陽光パネルしか設置できない場所で、発電出力2MWの太陽光発電施設を作ることができる、とジョーダンから説明されたのだろう。
―― これって詐欺罪に問えるのか?
俺はグレーな取引であることを理解した。
<続く>