第9話 デューデリジェンス(その6)
文字数 2,003文字
(9) デューデリジェンス <続き>
ホセは顧客から1ジャービット・コインを2万JDで買取りたいと言っている。
でも、私にはその必要性が分からない。
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円と考えて下さい。
「現在御社は民事再生の適用を申請しています。なので、ジャービット・コインの買取価格は気にしなくてもいいはずです。みんなジャービット・エクスチェンジは倒産したと思っていますから。一般的に民事再生法適用企業の場合は『少しでもお金が返ってくればラッキー!』としか顧客は思っていません」と私はホセに言った。
「分かります。分かっているのですが、それだと、古くからの顧客に申し訳が立ちません」
― また言っている・・・
予想以上にホセは頑固だ。
どうしよう?
ジャービット・エクスチェンジのメンバーはカルタゴ証券からの顧客を大切にしていることをダニエルから聞いていた。
だが、想像以上だ。
気持ちは分かる。
分かるけど、状況を理解してほしいと私は思うわけです。
どうしたものかと隣を見たらロイも困ったような表情をしている。
私と同じように『このおじさん、困ったなー』と思っているのだろう。
このまま話をしても議論は平行線を辿るだろう。
それを見越したロイが「ジャービット・コインの買取価格については、後で検討しよう」と私に言った。
確かにその通りだ。
私は別の話に話題を変えることにした。
「ジャービット・コインの買取価格については当社内でも検討しますから、話は後日にしましょう。それとは別に、顧客からジャービット・コインを買取るための資金として非上場株式は使えるのでしょうか?」
「非上場株式ですか・・・。一部は使えると思います。当社は過去5年間で10億JDを非上場株式に投資しています。数は100社なので1社当たりの投資額は平均1,000万JDです。その投資先のうち2社が上場審査中で、10社が上場準備をしています」
「2社の上場審査の状況はどうですか?」
「上場申請は通りそうだと聞いているので2社とも問題なく上場できそうです。うち1社の時価総額の予想は300億JDです。当社の保有比率は1%なので想定売却額は3億JDです。もう1社は時価総額の予想が500億JDで、当社の保有比率が0.4%なので想定売却額は2億JDです」
「5億JDは回収できそうですね。良かった。ちなみに、これまでの非上場株式の投資実績をうかがってもいいですか?」
「ええ。投資額の10億JDは過去5年間で回収しました。投資実績としては、約100社のベンチャー企業に投資して5社が上場しました。この5社には先ほどの2社は含みません。その5社の株式売却で回収したのが10億JDです。他にも、他社やファンドから打診されて20社の非上場株式を売却しました。売却総額は10億JDです」
「すると上場と相対での売却で20億JD回収しているんですね。それにしても、ベンチャー企業をファンドが購入するのですか?」
「ええ。ベンチャー企業はある程度の規模になってくると、PE(Private Equity:プライベート・エクイティ)ファンドの買収対象になります。特にオールドエコノミー(伝統的産業)の投資先については、PEファンドへの売却がメインシナリオになってきます。そういう意味では、ベンチャー企業投資は上場だけが投資回収の出口戦略ではありません」
投資額10億JDに対して20億JDを回収しているから、10億JDの利益が出ている。
私はベンチャー投資のことをあまり知らないが、投資利回りとしては悪くはないのだと思う。
現在も上場準備をしている会社が10社あるようだから、このうちの数社でも上場できればさらに資金回収は増えるだろう。
ただ、褒めると株価の評価額を上げてくれとか、面倒くさいことを言ってきそうな気がする。
ここは、さっと流そうと私は心に決めた。
「今後も投資した企業の上場があるかもしれませんね。ただ、残念ながら私たちは今回スポンサーとして出資を検討しています。なので、民事再生を前提とした処分価値を算定します。第三者と売買価格する場合やベンチャーキャピタルが出資する際の株価評価とは違う前提で御社が保有する非上場株式を評価することになります。このため、非上場株式を高く評価することができませんが、その点はご理解下さい」
「そうですか・・・。投資有価証券の評価額が低くなるのは残念ですが、それよりも今はスポンサーに支援してもらうことが優先事項です。御社からの提案内容を聞いてから、スポンサーとして選定できるかを判断します」とホセは一定の理解を示した。
その後も私とホセたちの会話はしばらく続いた。
だが、ほとんどが雑談だったのでここでは省略しよう。
長い雑談が終わり、私たちは本来の目的であるデューデリを開始した。
<続く>
ホセは顧客から1ジャービット・コインを2万JDで買取りたいと言っている。
でも、私にはその必要性が分からない。
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円と考えて下さい。
「現在御社は民事再生の適用を申請しています。なので、ジャービット・コインの買取価格は気にしなくてもいいはずです。みんなジャービット・エクスチェンジは倒産したと思っていますから。一般的に民事再生法適用企業の場合は『少しでもお金が返ってくればラッキー!』としか顧客は思っていません」と私はホセに言った。
「分かります。分かっているのですが、それだと、古くからの顧客に申し訳が立ちません」
― また言っている・・・
予想以上にホセは頑固だ。
どうしよう?
ジャービット・エクスチェンジのメンバーはカルタゴ証券からの顧客を大切にしていることをダニエルから聞いていた。
だが、想像以上だ。
気持ちは分かる。
分かるけど、状況を理解してほしいと私は思うわけです。
どうしたものかと隣を見たらロイも困ったような表情をしている。
私と同じように『このおじさん、困ったなー』と思っているのだろう。
このまま話をしても議論は平行線を辿るだろう。
それを見越したロイが「ジャービット・コインの買取価格については、後で検討しよう」と私に言った。
確かにその通りだ。
私は別の話に話題を変えることにした。
「ジャービット・コインの買取価格については当社内でも検討しますから、話は後日にしましょう。それとは別に、顧客からジャービット・コインを買取るための資金として非上場株式は使えるのでしょうか?」
「非上場株式ですか・・・。一部は使えると思います。当社は過去5年間で10億JDを非上場株式に投資しています。数は100社なので1社当たりの投資額は平均1,000万JDです。その投資先のうち2社が上場審査中で、10社が上場準備をしています」
「2社の上場審査の状況はどうですか?」
「上場申請は通りそうだと聞いているので2社とも問題なく上場できそうです。うち1社の時価総額の予想は300億JDです。当社の保有比率は1%なので想定売却額は3億JDです。もう1社は時価総額の予想が500億JDで、当社の保有比率が0.4%なので想定売却額は2億JDです」
「5億JDは回収できそうですね。良かった。ちなみに、これまでの非上場株式の投資実績をうかがってもいいですか?」
「ええ。投資額の10億JDは過去5年間で回収しました。投資実績としては、約100社のベンチャー企業に投資して5社が上場しました。この5社には先ほどの2社は含みません。その5社の株式売却で回収したのが10億JDです。他にも、他社やファンドから打診されて20社の非上場株式を売却しました。売却総額は10億JDです」
「すると上場と相対での売却で20億JD回収しているんですね。それにしても、ベンチャー企業をファンドが購入するのですか?」
「ええ。ベンチャー企業はある程度の規模になってくると、PE(Private Equity:プライベート・エクイティ)ファンドの買収対象になります。特にオールドエコノミー(伝統的産業)の投資先については、PEファンドへの売却がメインシナリオになってきます。そういう意味では、ベンチャー企業投資は上場だけが投資回収の出口戦略ではありません」
投資額10億JDに対して20億JDを回収しているから、10億JDの利益が出ている。
私はベンチャー投資のことをあまり知らないが、投資利回りとしては悪くはないのだと思う。
現在も上場準備をしている会社が10社あるようだから、このうちの数社でも上場できればさらに資金回収は増えるだろう。
ただ、褒めると株価の評価額を上げてくれとか、面倒くさいことを言ってきそうな気がする。
ここは、さっと流そうと私は心に決めた。
「今後も投資した企業の上場があるかもしれませんね。ただ、残念ながら私たちは今回スポンサーとして出資を検討しています。なので、民事再生を前提とした処分価値を算定します。第三者と売買価格する場合やベンチャーキャピタルが出資する際の株価評価とは違う前提で御社が保有する非上場株式を評価することになります。このため、非上場株式を高く評価することができませんが、その点はご理解下さい」
「そうですか・・・。投資有価証券の評価額が低くなるのは残念ですが、それよりも今はスポンサーに支援してもらうことが優先事項です。御社からの提案内容を聞いてから、スポンサーとして選定できるかを判断します」とホセは一定の理解を示した。
その後も私とホセたちの会話はしばらく続いた。
だが、ほとんどが雑談だったのでここでは省略しよう。
長い雑談が終わり、私たちは本来の目的であるデューデリを開始した。
<続く>