第3話 ダウラファンド(その3)
文字数 1,594文字
(3) ダウラファンド <続き>
俺は上場会社の公表書類や大量保有報告書からダウラファンドの概要を調べるのは難しいことを悟った。追加で調べれば何か出てくるかもしれないが、これ以上やっても費用対効果が悪すぎる。俺は別の方法でダウラファンドについて調べることにした。
ちなみに、前話では長々とダウラファンドのことを調べたけど分からなかった、という事実を説明してきた。これは、俺の負け惜しみだ。
『せっかく頑張ったんだから、どれくらい頑張ったのか聞いて欲しい!』という気持ちは誰にでもあるだろう。
今までの説明は完全にそれだ。俺たちは頑張った。それを聞いてほしかったんだ。
俺はガブリエルとポールに依頼していた登記簿の調査の結果を確認するため、総務省の3階に向かった。総務省の3階にはジャービス王国の登記情報を管理している部署がある。そこでガブリエルとポールはダウラファンドに買収された会社の登記簿謄本(履歴事項全部証明書)と保有していた不動産の登記簿謄本を調べている最中だ。
俺は3階のフロアーに到着すると作業していたガブリエルとポールに「作業は順調?」と話しかけた。
「いやー。これは難しいですね」とガブリエルは俺に言った。
「どう難しいの?」
「ダウラファンドが買収した会社が保有していた不動産の登記簿謄本を片っ端から調べたんですが、何も出てこないんです」
「不動産を売却していないってこと?」
「売っています。売っていますけど、売却先はジャービス国内の不動産会社なんです」
「余剰資産ということかな?」
「売却した不動産の中には投資用不動産もありますが、大半は事業用不動産です。例えば、この会社は本社建物や工場を売却しているのですが、売却先は不動産会社です」
ガブリエルはそう言うと、俺に登記簿謄本を見せた。
「本当だ。不動産会社に売っている。不動産会社が工場を取得しても仕方ないよな。そうすると、一旦不動産会社に売却した後、会社はリースバックしているのかな?」
※リースバックとは、所有している不動産を売却した後、不動産の買主から賃借することです。主に資金調達を目的として行われ、『セール・アンド・リースバック』と呼ばれることもあります。
「リースバックだと思います。だけど、不動産会社が取得した後に会社に賃貸したかどうかは分かりません」
「そうだよね。本当にリースバックしているかどうかは、賃貸借契約を見ない限りは分からない」
「ですね」
「確認なんだけど、会社が本社建物や工場を不動産会社に売却した後、その不動産会社は第三者に売ってないんだよね?」と俺はガブリエルに確認した。
「調べた限りでは、売ってませんね。純粋な資金調達目的でリースバックしていると思います。エビデンス(証拠)はありませんが・・」
「そうか。それとは別に、会社自体の登記簿謄本には変なところはなかった?」
「買収された会社の取締役としてダウラアセットマネジメントのメンバーが就任している以外は特にありません。本店所在地は移転していませんし、買収前の役員もほとんど留任しています」
「そっちも空振りかー。役員が全員入れ替わっているのを期待してたんだけどな」
「役員は変更なくても、株主は変わっているかもしれません」
「そうだね。でも、株主名簿は登記事項じゃないから、分からないよね」
俺たちは登記事項からダウラファンドの動きを探ろうとした。だが、これも空振りのようだ。
調査開始前から想像していたことだが、痕跡を隠しているダウラファンドの動きを探るのは難しそうだ。
調査権限を使えば調べられるのだが、現時点では何の違法性もない会社を強制捜査するわけにいかない。
俺がブツブツ言いながら総務省の廊下を歩いていたら、ルイーズに「買収された会社に行って、聞いたらいいんじゃない?」と言われた。
そうだな。
調べても分からないし、会社に行ってみるか・・・
俺は上場会社の公表書類や大量保有報告書からダウラファンドの概要を調べるのは難しいことを悟った。追加で調べれば何か出てくるかもしれないが、これ以上やっても費用対効果が悪すぎる。俺は別の方法でダウラファンドについて調べることにした。
ちなみに、前話では長々とダウラファンドのことを調べたけど分からなかった、という事実を説明してきた。これは、俺の負け惜しみだ。
『せっかく頑張ったんだから、どれくらい頑張ったのか聞いて欲しい!』という気持ちは誰にでもあるだろう。
今までの説明は完全にそれだ。俺たちは頑張った。それを聞いてほしかったんだ。
俺はガブリエルとポールに依頼していた登記簿の調査の結果を確認するため、総務省の3階に向かった。総務省の3階にはジャービス王国の登記情報を管理している部署がある。そこでガブリエルとポールはダウラファンドに買収された会社の登記簿謄本(履歴事項全部証明書)と保有していた不動産の登記簿謄本を調べている最中だ。
俺は3階のフロアーに到着すると作業していたガブリエルとポールに「作業は順調?」と話しかけた。
「いやー。これは難しいですね」とガブリエルは俺に言った。
「どう難しいの?」
「ダウラファンドが買収した会社が保有していた不動産の登記簿謄本を片っ端から調べたんですが、何も出てこないんです」
「不動産を売却していないってこと?」
「売っています。売っていますけど、売却先はジャービス国内の不動産会社なんです」
「余剰資産ということかな?」
「売却した不動産の中には投資用不動産もありますが、大半は事業用不動産です。例えば、この会社は本社建物や工場を売却しているのですが、売却先は不動産会社です」
ガブリエルはそう言うと、俺に登記簿謄本を見せた。
「本当だ。不動産会社に売っている。不動産会社が工場を取得しても仕方ないよな。そうすると、一旦不動産会社に売却した後、会社はリースバックしているのかな?」
※リースバックとは、所有している不動産を売却した後、不動産の買主から賃借することです。主に資金調達を目的として行われ、『セール・アンド・リースバック』と呼ばれることもあります。
「リースバックだと思います。だけど、不動産会社が取得した後に会社に賃貸したかどうかは分かりません」
「そうだよね。本当にリースバックしているかどうかは、賃貸借契約を見ない限りは分からない」
「ですね」
「確認なんだけど、会社が本社建物や工場を不動産会社に売却した後、その不動産会社は第三者に売ってないんだよね?」と俺はガブリエルに確認した。
「調べた限りでは、売ってませんね。純粋な資金調達目的でリースバックしていると思います。エビデンス(証拠)はありませんが・・」
「そうか。それとは別に、会社自体の登記簿謄本には変なところはなかった?」
「買収された会社の取締役としてダウラアセットマネジメントのメンバーが就任している以外は特にありません。本店所在地は移転していませんし、買収前の役員もほとんど留任しています」
「そっちも空振りかー。役員が全員入れ替わっているのを期待してたんだけどな」
「役員は変更なくても、株主は変わっているかもしれません」
「そうだね。でも、株主名簿は登記事項じゃないから、分からないよね」
俺たちは登記事項からダウラファンドの動きを探ろうとした。だが、これも空振りのようだ。
調査開始前から想像していたことだが、痕跡を隠しているダウラファンドの動きを探るのは難しそうだ。
調査権限を使えば調べられるのだが、現時点では何の違法性もない会社を強制捜査するわけにいかない。
俺がブツブツ言いながら総務省の廊下を歩いていたら、ルイーズに「買収された会社に行って、聞いたらいいんじゃない?」と言われた。
そうだな。
調べても分からないし、会社に行ってみるか・・・