第7話 運用会社に聞いてみよう(その1)

文字数 1,552文字

 (7) 運用会社に聞いてみよう

 フォーレンダム証券のオウルとの面談を終えた俺、ルイーズとポールの3人は、トルネアセットマネジメントに訪問した。
 トルネアセットマネジメントも受付や応接室に金を掛けている。ここでも総務省との差を感じる。

 フォーレンダム証券に訪問するまでは、俺たちはフォーレンダム証券とトルネアセットマネジメントのどちらか一方、または両方が今回の犯人だと思っていた。オウルの話を聞いて『両方とも犯人ではない?』と思うようになった俺は、オウルの話がどこまで本当なのかを確かめるために、トルネアセットマネジメントに来ている。

 オウルから聞いた話と、これから聞く話に整合性があれば、犯人ではないのだろう。
 ただ、これは2社が口裏を合わせていないことが前提だ。

 容疑者は捜査の過程で変わっていく。
 今の俺の心配事は、容疑者がゼロになることだけだ。

 トルネアセットマネジメントの会議室に案内された俺は、社長のシモに挨拶を簡単に済ませ、さっそく質問することにした。

「劣後社債の利払いがされていないと、総務省に相談があったので、本日はこちらに伺いました。劣後社債の利払いの状況について、教えてもらえますか?」と俺はシモに聞いた。

「その件ですね。弊社でもどう対応するかを、検討している最中です。既にあらかたご存じだと思いますが、急に買取請求が増加したため、ファンドが保有している劣後社債の元利金支払資金が不足しました。劣後社債の買取りは、利息の支払いよりも優先されるため、劣後社債を保有している投資家への利払いが遅延しています」

「そうすると、契約上は、先に劣後社債を買取ってから、劣後社債の利息の支払いを行うという順番なのですね?」

「そうです。弊社としては、順番はどちらが先でも良かったのですが、フォーレンダム証券の希望で劣後社債の買取りを優先する契約になりました」

「そうですか。ところで、劣後社債の支払遅延は、普通社債の利払いには影響がないと聞きましたが、これは正しい情報でしょうか?」と俺はシモに確認する。

「はい。合っています。普通社債と劣後社債は、元利金の返済資金を分けて管理しています。劣後社債の支払資金が不足しても、普通社債の支払資金には影響しないためです。普通社債の利払いには何の問題ありません。ただ・・・・」

「ただ?」

「劣後社債の利払いが長期間行われないと、新規の劣後社債の発行に影響します。その点を懸念しています。劣後社債の利払遅延を回避するには、幾つか方法があります」

「例えば、どういう方法ですか?」

「一つの方法は、ファンドが保有している資産(住宅ローン債権)を売却して、全ての社債を償還する方法です。この方法は、当社としてはあまりやりたくありません」

「なぜですか?」と俺は聞いた。

「普通社債も同時に償還しないといけないからです。ファンドが保有資産を売却した場合、普通社債の早期償還条項に抵触して、普通社債を全額償還する必要が出てきます」

「普通社債に影響するからですか?」

「そういうことです。普通社債を購入している機関投資家は、期限前返済を嫌がります。機関投資家には、一定期間、安定して資金運用したいというニーズが強いのです。このため、投資対象の償還が早くても遅くても嫌煙されます」とシモは言った。

「償還が早くても遅くても、ですか?」

「そうです。両方嫌がります」

「投資家が満期に償還されないのを嫌がるのは分かります。でも、投資家が満期よりも早く償還されるのを嫌がる理由が分かりません。投資家は早く償還されて資金が戻ってきた方が良いのではないのですか?」と俺はシモに質問した。

 俺が運用業界では常識的なことを聞いたからだろうか?
 シモは俺の質問がよく分からないような素振りをした。

 <続く>
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登場人物紹介

ダニエル:ジャービス王国の第4王子。総務大臣。

ルイーズ:総務省 内部調査部 課長代理

ジェームス:ジャービス王国第1王子。軍本部 総司令

チャールズ:ジャービス王国の第2王子。内務大臣。

アンドリュー:ジャービス王国の第3王子。外務大臣。

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