第9話 不正融資の行方

文字数 1,364文字

(9) 不正融資の行方

 俺たちが不動産の競売に参加し始めてから1年が経過した。
 過去1年間に競売で取得した物件数は300件を超えた。金額にすると約40億JDだ。

 稼いだ利益は10億JDを超えた。
 俺たちは順調に儲けている。

 今期は不動産取引が順調で年間予算をクリアすることができた。
 いい案件だったと思う。

 ただ、残念なことに、競売でLシリーズにはまだ遭遇していない。

***

 ところで、最近は、内部調査部のメンバーが全国に出張することが、ほとんどなくなった。

 まず、競売物件の現地調査を、提携している現地の不動産仲介会社に依頼するようになったのが理由の一つだ。担当者が現地に訪問する必要がない。

 また、裁判所が実施する競売がオンライン入札できるようになった。
 以前は、競売がオンライン入札できなかったから、裁判所に訪問して入札しなければいけなかった。今はオンライン入札ができるから裁判所に出向く必要がない。

 オンライン入札が開始されたのはガブリエルとポールの功績だろう。
 毎週出張するのが面倒になってきたガブリエルとポールは、裁判所でオンライン入札制度を開始するように俺に直談判した。
 裁判所にはオンライン入札のシステムはあったのだが、参加者の本人確認・反社会的勢力の排除などがネックで稼働していなかった。
 オンライン入札を稼働させるように俺が内務省に交渉したら、すんなりとオンライン入札が開始することができた。
 俺たちが競売で利益を上げているから、内務省も協力したのだと思う。

***

 次に、俺たちが競売に参加するようになって、落札価格は少し上がったと思う。
 ただし、参加者の数が劇的に増加したわけではない。

 理由は、ジャービス王国の競売物件は、かなりの確率で占有者がいて、立退かせるのに手間が掛かるからだ。

 俺たちは、内務省に連絡して占有者を立退かせることができるが、普通の不動産会社には荷が重い。
 不動産会社は自社が管理している物件など、素性が知れている物件に対しては入札するものの、それ以外の物件は怖くて手が出せない。主な占有者が反社会的勢力だからだ。

***

 不正融資に関しては、俺たちの調査報告書をもとに内務省が追加で調査を実施した。
 不正融資に不動産会社と銀行が関与していたことから、不動産会社と銀行の内部統制の不備が問題となった。
 調査結果を踏まえて、銀行と不動産会社には業務改善命令が出された。
 ちなみに、担当者のリードとスティーブンは解雇されたらしい。


 なお、今回の事件の本質は、個人投資家に対する過剰融資が問題と言えるだろう。

 個人投資家への過剰融資に対応するために、総務省が主導して収入の3分の1を超える融資を禁止する総量規制が制定した。
 過剰融資が少なくなるから、個人投資家の被害は減るはずだ。

***

 そういうわけで、俺たちの不正融資の調査は終了した。

 それにしても、投資環境の改善は効果が見えにくい。
 役に立っているはずなのだが、俺はそれを実感できないところが悩ましいところだ。

 俺たちの調査で、ジャービス王国の不動産の投資環境は少し改善したはずだ。

 どういうところが? と聞くのはやめてくれ。

 モチベーションを保つために、今期予算が達成できたから勝ちとしよう。

 何と戦ったか知らないけど、勝ちだな・・・

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登場人物紹介

ダニエル:ジャービス王国の第4王子。総務大臣。

ルイーズ:総務省 内部調査部 課長代理

ジェームス:ジャービス王国第1王子。軍本部 総司令

チャールズ:ジャービス王国の第2王子。内務大臣。

アンドリュー:ジャービス王国の第3王子。外務大臣。

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