第3話 イベント会社の評判を聞こう(その1)
文字数 2,294文字
(3)イベント会社の評判を聞こう
ミゲル、ガブリエル、ロイの3人は早速ターニャに会いに行った。ターニャはお喋りなので、何でも教えてくれることを期待して。
ミゲルたち3人がターニャとの待ち合わせ場所であるホテルの喫茶店に入ると、「久しぶりね。みんな元気だった?」とターニャが話しかけてきた。
そのホテルの喫茶店は、コーヒーが1杯2,000JDするのだが、ブローカーのおじさんが打ち合わせに好んで使う喫茶店だ。ミゲルたち3人が案内された席の周りで、怪しげな情報が実(まこと)しやかに飛び交っている。
ブローカーの声が大きいので、何の話をしているか遠くに座っていても分かりそうだ。
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円と考えて下さい。
『こいつらに守秘義務という概念はなさそうだ』とロイは思ったのだが、なるほどターニャが好きそうな喫茶店ではある。
ターニャはここで色んな情報を仕入れているのだろうか?
席に着いたミゲルは、「ええ、何とか。ターニャも元気そうですね」とターニャに言った。
「まとめて逮捕、第13穀物倉庫を解雇されたと思ったら、全員まとめて内部調査部で雇ってもらうなんて。なかなか刺激的な人生ね」ターニャは笑いながら言ってくる。
「いやー。偶然にも部長から、呪文を授かったんだよ」とミゲルは言った。
「なにそれ?呪文?」とターニャは興味津々だ。
「捕まった日に、部長から『復活の呪文』と書いてある封筒を貰ったんだ」とミゲルは答える。
「何て書いてあったの?」
「大きな声で言うのは恥ずかしいんだけどさ。『よろこんでー』と書いてあった」
「え?何て言ったの?」
「だから、よろこんでー」
「聞こえない」とターニャは笑いながら言った。
「よろこんでー」
ミゲルが顔を赤くして復活の呪文を唱えると、喫茶店のブローカーたちは一斉にミゲルを凝視した。
ミゲルが黙ってしまうと、ブローカーたちは何事もなかったかのように、それぞれの怪しげな話に戻っていた。
ターニャにからかわれたようだ。
ターニャは仕切り直して、かつての同僚3人に言った。
「それで、私に聞きたいのは、イベントで劣後社債を販売している会社のことでいいのかな?」
「そうだよ。先に確認しておきたいのだけど、ターニャは今も社債を保有しているの?」ミゲルは念のためにターニャに確認する。
「今は違うわよ。5~6年前に友人に勧められて何口か買ったことがあるけど、その時の社債はもう償還されてる。それ以降は買ってないから、今は社債を持っていない。私の友人は、社債を最近まで買っていたみたいだけど・・・」
「それは良かった。ターニャが今も社債を持っていたら、あれこれ聞きにくいからね」
「あ、そういうこと。何か良くいことを聞き出そうと企んでいる?」
「そういうわけじゃないけどさ。いや、そういうことかも知れない」
「どっちなの?まあ、いいけどさ」
「それで、今日は、イベント会社についてターニャが知っていることを教えて欲しいんだ。それと、もし社債のことやイベント会社に詳しい友人がいれば、紹介して欲しいと思っているんだけど」とミゲルはターニャに言った。
「分かった。別にいいわよ」
「ありがとう」
「私は社債保有グループの管理をしていたから、少し古いかもしれないけど、当時の状況を説明できると思う。あと、今も社債保有グループを持っているニカという私の友人がいるから、紹介するわ」
そう言って、ターニャは社債販売の仕組みを説明し始めた。
俺がミゲルから聞いたターニャの話の内容は、概ねこんな感じだ。
*************
まず、俺たちがイベント会社と言っていた会社だが、実際にはフォーレンダム証券という証券会社のようだ。
ジャービス王国で社債を販売するためには、金融商品取引業者である必要がある。許認可がない会社が社債を販売できないから、言われてみれば当然だ。
このフォーレンダム証券が社債販売の一環で、販売促進イベントを開催しているようだ。
俺たちは、ロドリゲスから聞いたいい加減な話を信じて調査をするところだった。
やはり、探偵には信頼できる情報源が必要だ。
次に、フォーレンダム証券がイベントを開催する目的は、イベントを通して高齢者に社債を販売することと、IFA(独立系金融アドバイザー:Independent Financial Advisor)の募集のためだ。
フォーレンダム証券はイベントを通して高齢者に社債を販売しているのだが、いくらイベントの規模が大きくても、イベントだけでは販売できる金額が限られる。
このため、フォーレンダム証券は社債保有者の中から商品知識を有している人をピックアップし、社債販売を再委託する契約を結ぶことにしたようだ。
フォーレンダム証券と契約したIFAが、フォーレンダム証券に代わって社債の販売先を開拓することになる。フォーレンダム証券のIFAは、銀行や証券会社での勤務経験があるOBが多いようだ。
IFAが社債を販売した場合、社債額面の3%が仲介手数料としてIFAに入る契約らしい。
フォーレンダム証券が受け取る販売手数料が5%なので、IFAが販売すればフォーレンダム証券は2%さや抜きができる。
【図表3-1-4:劣後社債販売の手数料】
ターニャの話から推測すると、ロドリゲスが言っていた『親メンバー』とは、IFAのことらしい。IFAは投資家候補を何人勧誘しても構わないから、5人という制限も特にない。
この点もロドリゲスから聞いた情報が間違っていた。
なんていい加減な奴なんだろう。
<続く>
ミゲル、ガブリエル、ロイの3人は早速ターニャに会いに行った。ターニャはお喋りなので、何でも教えてくれることを期待して。
ミゲルたち3人がターニャとの待ち合わせ場所であるホテルの喫茶店に入ると、「久しぶりね。みんな元気だった?」とターニャが話しかけてきた。
そのホテルの喫茶店は、コーヒーが1杯2,000JDするのだが、ブローカーのおじさんが打ち合わせに好んで使う喫茶店だ。ミゲルたち3人が案内された席の周りで、怪しげな情報が実(まこと)しやかに飛び交っている。
ブローカーの声が大きいので、何の話をしているか遠くに座っていても分かりそうだ。
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円と考えて下さい。
『こいつらに守秘義務という概念はなさそうだ』とロイは思ったのだが、なるほどターニャが好きそうな喫茶店ではある。
ターニャはここで色んな情報を仕入れているのだろうか?
席に着いたミゲルは、「ええ、何とか。ターニャも元気そうですね」とターニャに言った。
「まとめて逮捕、第13穀物倉庫を解雇されたと思ったら、全員まとめて内部調査部で雇ってもらうなんて。なかなか刺激的な人生ね」ターニャは笑いながら言ってくる。
「いやー。偶然にも部長から、呪文を授かったんだよ」とミゲルは言った。
「なにそれ?呪文?」とターニャは興味津々だ。
「捕まった日に、部長から『復活の呪文』と書いてある封筒を貰ったんだ」とミゲルは答える。
「何て書いてあったの?」
「大きな声で言うのは恥ずかしいんだけどさ。『よろこんでー』と書いてあった」
「え?何て言ったの?」
「だから、よろこんでー」
「聞こえない」とターニャは笑いながら言った。
「よろこんでー」
ミゲルが顔を赤くして復活の呪文を唱えると、喫茶店のブローカーたちは一斉にミゲルを凝視した。
ミゲルが黙ってしまうと、ブローカーたちは何事もなかったかのように、それぞれの怪しげな話に戻っていた。
ターニャにからかわれたようだ。
ターニャは仕切り直して、かつての同僚3人に言った。
「それで、私に聞きたいのは、イベントで劣後社債を販売している会社のことでいいのかな?」
「そうだよ。先に確認しておきたいのだけど、ターニャは今も社債を保有しているの?」ミゲルは念のためにターニャに確認する。
「今は違うわよ。5~6年前に友人に勧められて何口か買ったことがあるけど、その時の社債はもう償還されてる。それ以降は買ってないから、今は社債を持っていない。私の友人は、社債を最近まで買っていたみたいだけど・・・」
「それは良かった。ターニャが今も社債を持っていたら、あれこれ聞きにくいからね」
「あ、そういうこと。何か良くいことを聞き出そうと企んでいる?」
「そういうわけじゃないけどさ。いや、そういうことかも知れない」
「どっちなの?まあ、いいけどさ」
「それで、今日は、イベント会社についてターニャが知っていることを教えて欲しいんだ。それと、もし社債のことやイベント会社に詳しい友人がいれば、紹介して欲しいと思っているんだけど」とミゲルはターニャに言った。
「分かった。別にいいわよ」
「ありがとう」
「私は社債保有グループの管理をしていたから、少し古いかもしれないけど、当時の状況を説明できると思う。あと、今も社債保有グループを持っているニカという私の友人がいるから、紹介するわ」
そう言って、ターニャは社債販売の仕組みを説明し始めた。
俺がミゲルから聞いたターニャの話の内容は、概ねこんな感じだ。
*************
まず、俺たちがイベント会社と言っていた会社だが、実際にはフォーレンダム証券という証券会社のようだ。
ジャービス王国で社債を販売するためには、金融商品取引業者である必要がある。許認可がない会社が社債を販売できないから、言われてみれば当然だ。
このフォーレンダム証券が社債販売の一環で、販売促進イベントを開催しているようだ。
俺たちは、ロドリゲスから聞いたいい加減な話を信じて調査をするところだった。
やはり、探偵には信頼できる情報源が必要だ。
次に、フォーレンダム証券がイベントを開催する目的は、イベントを通して高齢者に社債を販売することと、IFA(独立系金融アドバイザー:Independent Financial Advisor)の募集のためだ。
フォーレンダム証券はイベントを通して高齢者に社債を販売しているのだが、いくらイベントの規模が大きくても、イベントだけでは販売できる金額が限られる。
このため、フォーレンダム証券は社債保有者の中から商品知識を有している人をピックアップし、社債販売を再委託する契約を結ぶことにしたようだ。
フォーレンダム証券と契約したIFAが、フォーレンダム証券に代わって社債の販売先を開拓することになる。フォーレンダム証券のIFAは、銀行や証券会社での勤務経験があるOBが多いようだ。
IFAが社債を販売した場合、社債額面の3%が仲介手数料としてIFAに入る契約らしい。
フォーレンダム証券が受け取る販売手数料が5%なので、IFAが販売すればフォーレンダム証券は2%さや抜きができる。
【図表3-1-4:劣後社債販売の手数料】
ターニャの話から推測すると、ロドリゲスが言っていた『親メンバー』とは、IFAのことらしい。IFAは投資家候補を何人勧誘しても構わないから、5人という制限も特にない。
この点もロドリゲスから聞いた情報が間違っていた。
なんていい加減な奴なんだろう。
<続く>