第7話 債券貸借取引(その4)
文字数 1,637文字
(7)債券貸借取引 <続き>
チャールズの気持ちは、完全に国債を無担保で貸し出す方向に傾いた。
俺はこのタイミングを逃さずに、ジャービス中央銀行に債券貸借取引の件を説明しておく必要性を感じた。
チャールズの気が変わると、債券貸借取引に協力しないかもしれない。
俺がジャービス中央銀行と打ち合わせすることをチャールズに提案すると、チャールズはすんなり受け入れた。
一連の為替対応をスタートするために、俺はチャールズと一緒に、ジャービス中央銀行に債券貸借取引を依頼するために向かった。
チャールズが事前に連絡しておいたからだろう。ジャービス中央銀行に到着すると総裁のアドルフが俺たち二人を出迎えた。
俺もチャールズも大臣だ。大臣が2人揃って訪問してくるから無碍な対応もできない。
さらに言えば、ジャービス中央銀行はジャービス政府が100%出資している。すなわち、ジャービス中央銀行の役員選任は俺たちに決定権があるので、俺たちの立場はかなり強い。
だから、直接の管轄である内務省のチャールズが言えば、ジャービス中央銀行は大体のことは飲まざるを得ないだろう。
ちなみに、ジャービス中央銀行の建物は古い。もう100年以上前に建てられたらしいのだが、ジャービス中央銀行の建物を上から見るとジャービス王国の頭文字『J』の形になっている。俺の祖父がどこかの国を訪問した時に、その国の中央銀行が上から見ると通貨の形になっていたらしく、デザインを真似て作ったようだ。
建物の形が『J』だから、長方形の先端を少し曲げるだけのデザイン。大半の人はジャービス中央銀行の建物が『J』の形をしていることに気付いてないのだろう。
***
アドルフは俺とチャールズを会議室に案内した。アドルフは何事かと思って身構えている。
会議が始まると、まずチャールズが債券貸借取引の概要を説明した。
俺はじっとアドルフの顔を見ていたが、明らかに嫌がっているように見える。
それはそうだろう。
ジャービス中央銀行が保有しているジャービス国債は約5,000億JDだ。
そのうち3,000億JDも貸してくれと言っているのだ。
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円としています。
保有しているジャービス国債の60%を貸せと担当大臣が言っている。
しかも無担保で・・・
チャールズの話を聞いたアドルフは、静かに考え始めた。
ジャービス中央銀行の総裁として重要な決断をしなければならないのだ。
―― 国債を貸すのはいいが、本当に返ってくるのか?
―― 本当に無担保で大丈夫なのか?
―― 何か問題が起きたら、自分(アドルフ)の責任にされないか?
即答できるような依頼では無い。
様々な思いがアドルフの頭の中を駆け巡っているのだろう。
アドルフの心配は尽きないが、額面3,000億JDの国債を無担保で貸してもらわなければ、今回の為替対応は前に進まない。
俺はアドルフの警戒心を解くべく言った。
「我々が受け取った国債利息は、全て品貸料(債券の借入手数料)として支払います。だから、ジャービス中央銀行が保有し続けているのと変わらないはずです」
「それはそうですけど・・・」
アドルフは歯切れが悪そうだ。
「それに、額面3,000億JDの国債は必ず返済します。私たちを信じて下さい」と俺は言った。
俺の言葉は虚しく響くだけでアドルフには届いていない。アドルフはまだ考えている。
そんなアドルフに、チャールズはしびれを切らして言った。
「じゃあ、そういうことだ。開始が決定したら連絡するから、よろしく!」
チャールズはそう言うと会議室を出て行った。
『沈黙は同意』と見做したのだろう。
強いものには弱いが、弱い者にはとことん強いチャールズ。
どこに行っても嫌われている・・・
―― 大丈夫だよ。ちゃんと国債は返すから・・・
俺は申し訳ない気持ちを抱えながら、可哀そうなアドルフに「どんまい!」と言って会議室を退出した。
<続く>
チャールズの気持ちは、完全に国債を無担保で貸し出す方向に傾いた。
俺はこのタイミングを逃さずに、ジャービス中央銀行に債券貸借取引の件を説明しておく必要性を感じた。
チャールズの気が変わると、債券貸借取引に協力しないかもしれない。
俺がジャービス中央銀行と打ち合わせすることをチャールズに提案すると、チャールズはすんなり受け入れた。
一連の為替対応をスタートするために、俺はチャールズと一緒に、ジャービス中央銀行に債券貸借取引を依頼するために向かった。
チャールズが事前に連絡しておいたからだろう。ジャービス中央銀行に到着すると総裁のアドルフが俺たち二人を出迎えた。
俺もチャールズも大臣だ。大臣が2人揃って訪問してくるから無碍な対応もできない。
さらに言えば、ジャービス中央銀行はジャービス政府が100%出資している。すなわち、ジャービス中央銀行の役員選任は俺たちに決定権があるので、俺たちの立場はかなり強い。
だから、直接の管轄である内務省のチャールズが言えば、ジャービス中央銀行は大体のことは飲まざるを得ないだろう。
ちなみに、ジャービス中央銀行の建物は古い。もう100年以上前に建てられたらしいのだが、ジャービス中央銀行の建物を上から見るとジャービス王国の頭文字『J』の形になっている。俺の祖父がどこかの国を訪問した時に、その国の中央銀行が上から見ると通貨の形になっていたらしく、デザインを真似て作ったようだ。
建物の形が『J』だから、長方形の先端を少し曲げるだけのデザイン。大半の人はジャービス中央銀行の建物が『J』の形をしていることに気付いてないのだろう。
***
アドルフは俺とチャールズを会議室に案内した。アドルフは何事かと思って身構えている。
会議が始まると、まずチャールズが債券貸借取引の概要を説明した。
俺はじっとアドルフの顔を見ていたが、明らかに嫌がっているように見える。
それはそうだろう。
ジャービス中央銀行が保有しているジャービス国債は約5,000億JDだ。
そのうち3,000億JDも貸してくれと言っているのだ。
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円としています。
保有しているジャービス国債の60%を貸せと担当大臣が言っている。
しかも無担保で・・・
チャールズの話を聞いたアドルフは、静かに考え始めた。
ジャービス中央銀行の総裁として重要な決断をしなければならないのだ。
―― 国債を貸すのはいいが、本当に返ってくるのか?
―― 本当に無担保で大丈夫なのか?
―― 何か問題が起きたら、自分(アドルフ)の責任にされないか?
即答できるような依頼では無い。
様々な思いがアドルフの頭の中を駆け巡っているのだろう。
アドルフの心配は尽きないが、額面3,000億JDの国債を無担保で貸してもらわなければ、今回の為替対応は前に進まない。
俺はアドルフの警戒心を解くべく言った。
「我々が受け取った国債利息は、全て品貸料(債券の借入手数料)として支払います。だから、ジャービス中央銀行が保有し続けているのと変わらないはずです」
「それはそうですけど・・・」
アドルフは歯切れが悪そうだ。
「それに、額面3,000億JDの国債は必ず返済します。私たちを信じて下さい」と俺は言った。
俺の言葉は虚しく響くだけでアドルフには届いていない。アドルフはまだ考えている。
そんなアドルフに、チャールズはしびれを切らして言った。
「じゃあ、そういうことだ。開始が決定したら連絡するから、よろしく!」
チャールズはそう言うと会議室を出て行った。
『沈黙は同意』と見做したのだろう。
強いものには弱いが、弱い者にはとことん強いチャールズ。
どこに行っても嫌われている・・・
―― 大丈夫だよ。ちゃんと国債は返すから・・・
俺は申し訳ない気持ちを抱えながら、可哀そうなアドルフに「どんまい!」と言って会議室を退出した。
<続く>