第2話 ジャービット・コイン(その3)

文字数 1,419文字

(2) ジャービット・コイン <続き>

 話が横道に逸れてしまったので、俺は本題に戻す。

「内部告発ホットラインに情報提供があった暗号資産は『ジャービット・コイン』という名称らしい。通報者も聞いたこともないマイナーな暗号資産らしいね。それにしても、うちの国と有名な暗号資産を掛け合わせたような、実にふざけた名前をしている・・・」

「そうですか? 私はいいセンスしていると思いますよ」とミゲルが言った。

 おじさんにはウケがいいのか?
 ミゲルがこのネーミングセンスを気に入っていたことはルイーズから聞いていた。
 でも、俺がミゲルに乗っかると話が進まない。
 だから、ミゲルには申し訳ないが無視して進めることにする。

「ネーミングセンスの話は長くなりそうだから、さっさと本題に入ろう」

「・・・」
 ミゲルは少し傷付いたかもしれない。

「暗号資産は需給バランスで価格が決まるから、発行会社の財務状況(収益性や安全性)は基本的に反映しない。特にマイナーな暗号資産の発行会社はほとんど実態の無い会社だ。中には、意図的に流通量を少なくして価格を吊り上げたりする会社もあるらしい」

「価格操作か・・・」ルイーズがボソッと言った。

「発行会社の保有資産のほとんどが自社の発行している暗号資産の場合もある。この場合は、特に価格操作するインセンティブが働きやすいと思うんだ」

「情報提供があったジャービット・コインも、発行会社が価格を操作している可能性があるということですね」とスミスが言った。

「そうだね。有り得ると思う。話が少し逸れるけど、株式投資の場合は株式を発行している会社に投資する。だから、会社の業績予想が修正されると、株価が大きく変動するよね?」

「そうですね」とスミス。

「株価の場合は、処分可能な資産と将来のキャッシュ・フローから計算するけど、暗号資産の場合はそれがない。こんなイメージだ」

 そう言って俺は図(図表5-2)を書いた。

【図表5-2:会社の価値、暗号資産の価値】




 メンバーが図を見ているから、俺は話を続ける。

「確かに、暗号資産の発行会社は資産を保有している。だから、発行会社の純資産が暗号資産の価値と考えることもできる。だけど、取引されている暗号資産の価格と純資産とは大きく乖離している」

「要は、『価格操作しているか、ちゃんと調べよう!』ということ?」とルイーズが言った。

「そうだよ。説明が長かったかな?」

「長くて寝そうだった・・・」とルイーズは吐き捨てるように言った。

 ルイーズは、俺が暗号資産に長々と説明したことにイラついているようだ。ただ、言われた俺は傷付くと思わないのか?

 ロイが軽く傷付いた俺に質問した。

「部長。ジャービット・コインではないのですが、私は暗号資産を少し持っています。早めに売った方がいいですか?」

 この前まで暗号資産の値上がりで喜んでいたロイ。
 俺がネガティブな話をし過ぎたので、ロイは自分が犯罪に巻き込まれているような不安を感じたのかもしれない。

「一般的な暗号資産であれば保有していてもいいと思う。ただ、何か問題が発生すると急に価格が下がるから気をつけなよ」

「売るか、もう少し持っておくか、ちょっと考えてみます」と言ってロイは黙ってしまった。

 いまの俺は、相手は完全に詐欺師グループだと想像している。
 でも本当の事はわからない。

 俺の推理はよく外れる・・・。

 俺たちは内部告発ホットラインに情報送信してきた人物に会うことにした。
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登場人物紹介

ダニエル:ジャービス王国の第4王子。総務大臣。

ルイーズ:総務省 内部調査部 課長代理

ジェームス:ジャービス王国第1王子。軍本部 総司令

チャールズ:ジャービス王国の第2王子。内務大臣。

アンドリュー:ジャービス王国の第3王子。外務大臣。

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