第3話 情報提供者に会ってみよう(その1)
文字数 1,702文字
(3) 情報提供者に会ってみよう
俺、スミスとロイの3人は内部告発ホットラインに情報提供してくれたエミリーと会うことにした。問題となっているジャービット・コインについて具体的に話を聞くためだ。
俺たちの前に現れたエミリーはおばさんだった。
見た目は、一言でいえば、話好きな中年女性。
第13穀物倉庫のターニャや、フォーレンダム証券のIFA(Independent Financial Advisor:独立系ファイナンシャルアドバイザー)の3人に雰囲気が似ている。
まず、俺は自己紹介と今回の件について質問を始めた。
「はじめまして。総務省のダニエルです。同行しているのは、内部調査部のスミスとロイです」
「こちらこそ、はじめまして。エミリーです。知人のエマから、内部調査部の話は聞いていました」
「エマって、フォーレンダム証券のIFAをしているエマですか?」
「そうです。私はフォーレンダム証券で働いています。エマは私のフォーレンダム証券の先輩なのです」
「へー」俺は驚いた。
「あの時エマから借金の金額を聞いてビックリしました。とても、個人で返せるような金額ではなかったですから。でも、内部調査部のみなさんのお陰で何とかなったとエマから聞いています」とエミリーは言った。
世間は狭い。エミリーは俺たちの業務内容を理解しているから、話を聞くうえではいいことだ。
「それで、内部告発ホットラインに情報提供してくれた暗号資産の件で話を聞かせてほしいと思っています。エミリーが知っているジャービット・コインの情報があれば提供していただければ・・・」と俺は本題に入った。
「私自身がジャービット・コインに投資している訳ではないので、詳しいことは分かりません。私がやり取りしているフォーレンダム証券の顧客の数名が、急にジャービット・コインという、ほぼ無名の仮想通貨に投資し始めたのです」
「うちの国名と有名な暗号資産を、足して2で割ったような名前ですね。ネーミングセンスを疑います」と俺は自分でも驚くくらいどうでもいいことを言った。
「私はいい名前だと思いますよ。ダジャレみたいで」とエミリーは言った。
どうやら、中高年にはこういうダジャレが受けるらしい。
ネーミングセンスの話を始めると終わらないだろうから、俺は話を本題に戻すことにした。
「失礼。脱線しました。ジャービット・コインの話を続けて下さい」と俺はエミリーを促した。
「その数名の顧客は、互いに知り合いではありません。ただら、共通の友人にジャービット・コインを紹介されたわけではなく、個別に投資をしています。顧客から聞いた話では、最初にジャービット・コインに興味を持ったのは、会社から送られてきたDM(ダイレクトメール)だったようです。そのDMには、会社が取り扱っているジャービット・コインの過去5年間のパフォーマンスが示されていました。年率50%を超えていたようです」
「年率50%はすごいですね」
「そうです。信じられないパフォーマンスです。普通の暗号資産は、急騰したり、急落したりします。プラスとマイナスが混在しているのが普通だからパフォーマンスはそんなに良くありません。だから、コンスタントに50%も上がり続けるというのは異常です。ちなみに、有名なBコインの価格推移がこの資料です」
そう言うと、エミリーはBコインの価格推移(図表5-3)を俺たちの前に出した。
【図表5-3:Bコインの価格推移】
エミリーはBコインの価格推移を指さしながら話を続ける。
「お分かりだと思いますが、暗号資産は価格が急騰する時もあれば、逆に急落する時もあります。要は、値動きが激しいのが普通なのです。Bコインの場合は、短期的には数百パーセントの利回りになることがあっても、長期で利回りを計算するとそれほどでもありません。Bコインの利回りを直近5年間で計算すると年率10%くらいです」とエミリーは力説する。
「暗号資産は値動きが激しいと聞きますから、そうなのでしょうね。もし、年率50%で5年間運用すると、7.6倍(1.5×1.5×1.5×1.5×1.5)ですか。はー、すごいですねー」
<続く>
俺、スミスとロイの3人は内部告発ホットラインに情報提供してくれたエミリーと会うことにした。問題となっているジャービット・コインについて具体的に話を聞くためだ。
俺たちの前に現れたエミリーはおばさんだった。
見た目は、一言でいえば、話好きな中年女性。
第13穀物倉庫のターニャや、フォーレンダム証券のIFA(Independent Financial Advisor:独立系ファイナンシャルアドバイザー)の3人に雰囲気が似ている。
まず、俺は自己紹介と今回の件について質問を始めた。
「はじめまして。総務省のダニエルです。同行しているのは、内部調査部のスミスとロイです」
「こちらこそ、はじめまして。エミリーです。知人のエマから、内部調査部の話は聞いていました」
「エマって、フォーレンダム証券のIFAをしているエマですか?」
「そうです。私はフォーレンダム証券で働いています。エマは私のフォーレンダム証券の先輩なのです」
「へー」俺は驚いた。
「あの時エマから借金の金額を聞いてビックリしました。とても、個人で返せるような金額ではなかったですから。でも、内部調査部のみなさんのお陰で何とかなったとエマから聞いています」とエミリーは言った。
世間は狭い。エミリーは俺たちの業務内容を理解しているから、話を聞くうえではいいことだ。
「それで、内部告発ホットラインに情報提供してくれた暗号資産の件で話を聞かせてほしいと思っています。エミリーが知っているジャービット・コインの情報があれば提供していただければ・・・」と俺は本題に入った。
「私自身がジャービット・コインに投資している訳ではないので、詳しいことは分かりません。私がやり取りしているフォーレンダム証券の顧客の数名が、急にジャービット・コインという、ほぼ無名の仮想通貨に投資し始めたのです」
「うちの国名と有名な暗号資産を、足して2で割ったような名前ですね。ネーミングセンスを疑います」と俺は自分でも驚くくらいどうでもいいことを言った。
「私はいい名前だと思いますよ。ダジャレみたいで」とエミリーは言った。
どうやら、中高年にはこういうダジャレが受けるらしい。
ネーミングセンスの話を始めると終わらないだろうから、俺は話を本題に戻すことにした。
「失礼。脱線しました。ジャービット・コインの話を続けて下さい」と俺はエミリーを促した。
「その数名の顧客は、互いに知り合いではありません。ただら、共通の友人にジャービット・コインを紹介されたわけではなく、個別に投資をしています。顧客から聞いた話では、最初にジャービット・コインに興味を持ったのは、会社から送られてきたDM(ダイレクトメール)だったようです。そのDMには、会社が取り扱っているジャービット・コインの過去5年間のパフォーマンスが示されていました。年率50%を超えていたようです」
「年率50%はすごいですね」
「そうです。信じられないパフォーマンスです。普通の暗号資産は、急騰したり、急落したりします。プラスとマイナスが混在しているのが普通だからパフォーマンスはそんなに良くありません。だから、コンスタントに50%も上がり続けるというのは異常です。ちなみに、有名なBコインの価格推移がこの資料です」
そう言うと、エミリーはBコインの価格推移(図表5-3)を俺たちの前に出した。
【図表5-3:Bコインの価格推移】
エミリーはBコインの価格推移を指さしながら話を続ける。
「お分かりだと思いますが、暗号資産は価格が急騰する時もあれば、逆に急落する時もあります。要は、値動きが激しいのが普通なのです。Bコインの場合は、短期的には数百パーセントの利回りになることがあっても、長期で利回りを計算するとそれほどでもありません。Bコインの利回りを直近5年間で計算すると年率10%くらいです」とエミリーは力説する。
「暗号資産は値動きが激しいと聞きますから、そうなのでしょうね。もし、年率50%で5年間運用すると、7.6倍(1.5×1.5×1.5×1.5×1.5)ですか。はー、すごいですねー」
<続く>