第7話 牛歩戦術の行方

文字数 1,012文字

(7)牛歩戦術の行方

 俺が総務省に出勤するとホセが「部長!」と言いながら俺の執務室に入ってきた。

「どうしたの?」

 俺はホセに聞いたが、何の件かはとっくに分かっている。

「アナンヤがTOBの買付け価格を211円に変更したようです!」とミゲルは言った。

※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円に設定しています。

「あ、そう」俺は興味なさそうにホセに言った。

 ジャービス王国のTOB(公開買付け)のルールは金融商品取引法に定められている。TOB期間については20営業日以上60営業日以内とされているのだが、60営業日以内の範囲でTOB期間を延長することができる。
 つまり、TOB期間の短縮はできないのだが、延長は何度でもできる。

 アナンヤたちはこの規定を使ってダウラファンドに『牛歩戦術』を仕掛けることにした。
 アナンヤたちの牛歩戦術は、ダウラファンドがTOB価格を引き上げてきた後、しばらく期間(1カ月程度)をあけてダウラファンドのTOB価格よりも1JD高いTOB価格に変更するものだ。

 元々は、俺がアナンヤたちにアドバイスした戦略だが、ダウラファンドへの嫌がらせとして有効に機能しているようだ。

 今までのネール・マテリアルへのTOB価格の変更履歴をまとめた資料(図表6-16)を見てほしい。

【図表6-16:ネール・マテリアルへのTOB価格の変更履歴】

 


※その時点で高い方のTOB価格を黄色で表示しています。

 アナンヤが10月2日に120JD/株でネール・マテリアルへのTOBを行った後、ダウラファンドが10月4日に130JD/株でTOBを行っている。
 そのTOBに対抗するためにアナンヤは11月15日に131JD/株にTOB価格を変更した。さらに、ダウラファンドは対抗TOBとして11月20日に140JDにTOB価格を変更している。

 このTOB価格の変更とTOB期間の延長が繰り返し行われ、今日(7月15日)時点ではネール・マテリアルのTOB価格は211JD/株だ。

 俺にはネール・マテリアルのTOBの勝者がどちらになるかは分からない。
 最終的にTOB価格が800JDまで上がるかもしれないし、そうではないかもしれない。

 でも、アナンヤたちの牛歩戦術(嫌がらせ)はダウラファンドにボディーブローのように効いているはずだ。

 この決着が付くまで見守っていきたいと思う。

 俺が直接関わらない範囲内で・・・
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登場人物紹介

ダニエル:ジャービス王国の第4王子。総務大臣。

ルイーズ:総務省 内部調査部 課長代理

ジェームス:ジャービス王国第1王子。軍本部 総司令

チャールズ:ジャービス王国の第2王子。内務大臣。

アンドリュー:ジャービス王国の第3王子。外務大臣。

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