回顧録第4話 遅れてきた反抗期(その1)

文字数 1,743文字

 私の名前はアドルフ。ジャービス中央銀行の総裁をしている。私の娘の名前はルイーズ。娘は総務省に勤務していて市場調査部と内部調査部を兼務している。
 ここ最近、娘と職場で何度か会うことがあった。一度目はセレナ銀行の考査資料をジャービス中央銀行に確認に来た時、二度目は経営破綻の危機に瀕した銀行を救済するために内務省が設けた銀行関係者の打合せの時だ。
 会議の参加者には申し訳ないのだが、二回とも会議の席で親子喧嘩をしてしまった。ルイーズが悪意のある発言をするからだ。とは言え、娘の発言に怒りを露わにしてしまった私も悪いと思っている。

 それにしても、私は娘のルイーズのことで最近考えることがある。

―― 昔は素直でいい子だったのに、いつからこうなったのだろう?

 今回はルイーズの成長を辿りながら、いつから親子関係が悪化したのかを考えてみようと思う。


(1)神童と呼ばれた娘

 私はジャービス王立大学を卒業した後、ジャービス中央銀行に就職した。ジャービス王立大学の成績上位数名は中央官庁に就職するのが慣例になっている。私の卒業順位は10番前後だったから、成績優秀者ではあるがトップではない。だから私は政府系金融機関であるジャービス中央銀行に就職することにした。
 ジャービス中央銀行で働きはじめてから5年後に妻のサラと職場結婚した。その2年後に生まれたのがルイーズだ。
 ルイーズは天使のような子供だった。周りのどの子供よりも可愛いし、賢かった。

 ルイーズがその天才ぶりを発揮し始めたのは幼稚園のとき。私はルイーズに字の読み方を教えなかったのだが、家にあった百科事典を見て字の読み方を覚えていた。誰にも教えてもらわなかったのに、ルイーズは独学で文字の読み書きをマスターした。
 さらに、私が買ってきた経済用語辞典を机の上に置いていたら、知らない間にルイーズがその内容を全て暗記していた。
 私はルイーズに「この本から問題を出して!」と頼まれたから「イールドカーブ・コントロールとは何ですか?」と質問した。そうしたら、ルイーズは「長期金利と短期金利の誘導目標を操作し、イールドカーブを適切な水準に維持すること」と答えた。

―― 天才だ・・・

 私は本当にそう思った。きっとルイーズのような子供を神童というのだろう。

 私はそれ以来いろんな本をルイーズに読ませた。文学、科学、歴史、音楽などいろんな分野に関する書籍だ。ルイーズは特に選り好みするわけでもなく私が買ってきた本を読んで知識を蓄積していった。本であれば何でも良かったようだ。

 小学生になったルイーズの成績は素晴らしかった。入学してから卒業するまで常に学年トップだ。学校から何度も表彰されたし、スポーツでもいい成績を残した。まさに文武両道の神童! 私にとってルイーズは自慢の娘だった。

 小学校を卒業したルイーズはジャービス第1中学校に進学した。ジャービス第1中学校は、ルイーズが通っていたジャービス第2小学校とジャービス第1小学校の学区が合わさったものだ。生徒数は小学校の約2倍なので、より競争率は高くなった。

 中学生になった最初(1学期)の中間試験で、ルイーズは生まれて初めて学年2位になった。
 その中間試験で学年1位になったのはジャービス王国第4王子のダニエル。
 その頃のダニエルはボーっとしていて、背が高いけど痩せたひ弱なタイプ。いかにもスポーツも勉強ができない見た目だった。
 今まで常に学年トップだったルイーズは、そんな冴えないダニエルに負けたのがよほど悔しかったようだ。ダニエルを負かすためにルイーズは真剣に勉強するようになった。
 私と妻のサラはルイーズに頼まれて、ルイーズをジャービス王国で有名な学習塾に通わせ、更に家庭教師も雇って勉強させた。
 塾と家庭教師の費用は高かったが、娘の勉強のために私とサラは出費を惜しまなかった。

 そして、中学1年生1学期の期末試験でルイーズはダニエルに勝った。ルイーズは学年1位、ダニエルは学年2位だった。ルイーズは見事に学年トップに返り咲いた。
 私は期末試験の結果をルイーズから聞いて、サラと抱き合って喜んだのを覚えている。

 しかし、戦いは終わらなかった。

 ルイーズに負けたダニエルがやる気になったのだ・・・

<続く>
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登場人物紹介

ダニエル:ジャービス王国の第4王子。総務大臣。

ルイーズ:総務省 内部調査部 課長代理

ジェームス:ジャービス王国第1王子。軍本部 総司令

チャールズ:ジャービス王国の第2王子。内務大臣。

アンドリュー:ジャービス王国の第3王子。外務大臣。

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