第7話 運用会社に聞いてみよう(その2)
文字数 1,559文字
(7) 運用会社に聞いてみよう <続き>
しばらくすると、シモは俺の質問の意味を理解したようだ。
「ああ、そういうことですか。例えば、年金基金をイメージして下さい」
「年金基金ですね」
「年金基金は、年金受給者に年金を支払うまでの間、積立資金を運用しないといけません。年金の支払時期に合わせて運用しているので、早く償還されてしまうと、別の運用先を探さないといけませんよね?」
「へー、そういうことですか。だから劣後社債の買取りのために、普通社債まで早期償還したくないのですね」
「そういうことです。一度でも早期償還してしまうと、年金基金が当社の社債を買ってもらえなくなるかもしれません」
「確かに」
「弊社のメイン顧客は機関投資家です。なので、劣後社債よりも普通社債の方を優先してしまう事情をご理解いただければと思います」
「御社の事情は分かりました。それで、劣後社債の利払い遅延は、どれくらいで解消できそうですか?」
「それは難しい質問ですね・・・。ご存じだと思いますが、フォーレンダム証券のIFAが買取請求しています。今後、劣後社債の利払い遅延を理由に、IFAが社債保有者から劣後社債を買い集めてくると、長引くかもしれません」
「IFA次第ですね」
「ええ。弊社は、当然のことながら、利払い遅延の長期化を望んでいません。普通社債を含めた早期償還は避けたいし、劣後社債の買取請求は防ぎたい、というのが弊社の希望です。その点を踏まえて、対応策を社内で検討中です」
「ちなみに、劣後社債の買取請求は、特定のIFAが主導して行なっているのでしょうか?」
「IFAの中で突出して社債の買取請求が大きい人が数名います。確か3人だったと思います。一人当たり10億JDを超える額面の買取請求なので、高額保有者です」
「大きいですね」
「大きいです。個人でどうにかできる金額ではないので、弊社では誰かがIFAの裏にいるのではないかと考えています」
確かに、その可能性はあり得ると俺は思った。
「へー。可能性はありそうですね。その誰かは、分かっていますか?」
「いえ、分かりません。でも、ファンドの運用資産は安定していますから、劣後社債を40%ディスカウントで買えるのであれば、資金を出す投資会社はあるでしょう。IFAが買取請求権を行使して劣後社債の利払いを遅延させれば、個人投資家が狼狽して大量に劣後社債を売却します。それを買えばいいのです」
劣後社債を安く仕入れたい誰かが、IFAを使って個人投資家の狼狽売りを誘っている?
確かにその可能性はあるだろう。
IFAの裏にいる誰かについては、内部調査部でも調べてみる必要がありそうだ。
ここでIFAの情報を入手できれば調査に進展があるかもしれない、と俺は考えた。
「そうですか。ところで、そのIFAの名前を教えてもらうことはできますか?」
「『守秘義務が・・』と言っても捜査令状を用意されたらどうせ分かってしまうことなので、今お伝えしても問題ないでしょう。ちょっとお待ち下さい」シモはそう言って、応接室から出て行った。
しばらくして応接室に戻ってきたシモは、紙を俺に出して言った。
「エマ、ミアとソフィアの3人です。何度か会いましたが、普通の女性でした。とても10億JDを持っている富裕層には見えなかったです」
「そうですか。こちらでも、その3人について調べてみます」
ここではこれ以上情報を得られそうにないので、俺たちはシモに礼を言って、トルネアセットマネジメントを後にした。
シモの話もつじつまが合わないところはなさそうだ。
フォーレンダム証券とトルネアセットマネジメントは犯人じゃないかもしれない。
そうすると、犯人は『IFA』または『IFAの裏にいる誰か』なのだろうか?
捜査の進展がないまま、俺たちは総務省に戻った。
しばらくすると、シモは俺の質問の意味を理解したようだ。
「ああ、そういうことですか。例えば、年金基金をイメージして下さい」
「年金基金ですね」
「年金基金は、年金受給者に年金を支払うまでの間、積立資金を運用しないといけません。年金の支払時期に合わせて運用しているので、早く償還されてしまうと、別の運用先を探さないといけませんよね?」
「へー、そういうことですか。だから劣後社債の買取りのために、普通社債まで早期償還したくないのですね」
「そういうことです。一度でも早期償還してしまうと、年金基金が当社の社債を買ってもらえなくなるかもしれません」
「確かに」
「弊社のメイン顧客は機関投資家です。なので、劣後社債よりも普通社債の方を優先してしまう事情をご理解いただければと思います」
「御社の事情は分かりました。それで、劣後社債の利払い遅延は、どれくらいで解消できそうですか?」
「それは難しい質問ですね・・・。ご存じだと思いますが、フォーレンダム証券のIFAが買取請求しています。今後、劣後社債の利払い遅延を理由に、IFAが社債保有者から劣後社債を買い集めてくると、長引くかもしれません」
「IFA次第ですね」
「ええ。弊社は、当然のことながら、利払い遅延の長期化を望んでいません。普通社債を含めた早期償還は避けたいし、劣後社債の買取請求は防ぎたい、というのが弊社の希望です。その点を踏まえて、対応策を社内で検討中です」
「ちなみに、劣後社債の買取請求は、特定のIFAが主導して行なっているのでしょうか?」
「IFAの中で突出して社債の買取請求が大きい人が数名います。確か3人だったと思います。一人当たり10億JDを超える額面の買取請求なので、高額保有者です」
「大きいですね」
「大きいです。個人でどうにかできる金額ではないので、弊社では誰かがIFAの裏にいるのではないかと考えています」
確かに、その可能性はあり得ると俺は思った。
「へー。可能性はありそうですね。その誰かは、分かっていますか?」
「いえ、分かりません。でも、ファンドの運用資産は安定していますから、劣後社債を40%ディスカウントで買えるのであれば、資金を出す投資会社はあるでしょう。IFAが買取請求権を行使して劣後社債の利払いを遅延させれば、個人投資家が狼狽して大量に劣後社債を売却します。それを買えばいいのです」
劣後社債を安く仕入れたい誰かが、IFAを使って個人投資家の狼狽売りを誘っている?
確かにその可能性はあるだろう。
IFAの裏にいる誰かについては、内部調査部でも調べてみる必要がありそうだ。
ここでIFAの情報を入手できれば調査に進展があるかもしれない、と俺は考えた。
「そうですか。ところで、そのIFAの名前を教えてもらうことはできますか?」
「『守秘義務が・・』と言っても捜査令状を用意されたらどうせ分かってしまうことなので、今お伝えしても問題ないでしょう。ちょっとお待ち下さい」シモはそう言って、応接室から出て行った。
しばらくして応接室に戻ってきたシモは、紙を俺に出して言った。
「エマ、ミアとソフィアの3人です。何度か会いましたが、普通の女性でした。とても10億JDを持っている富裕層には見えなかったです」
「そうですか。こちらでも、その3人について調べてみます」
ここではこれ以上情報を得られそうにないので、俺たちはシモに礼を言って、トルネアセットマネジメントを後にした。
シモの話もつじつまが合わないところはなさそうだ。
フォーレンダム証券とトルネアセットマネジメントは犯人じゃないかもしれない。
そうすると、犯人は『IFA』または『IFAの裏にいる誰か』なのだろうか?
捜査の進展がないまま、俺たちは総務省に戻った。