第2話 相続と不動産(その3)
文字数 1,952文字
(2)相続と不動産 <続き>
ジョーダンたちMJが行っている底地買取りと売却は、売却価格が法外な部分を除けば不動産業者が行っているものと変わらない。それでも、エドガーたちからMJの話を聞いていて俺は疑問に思ったことがあった。
―― MJはどうやって相続を知ったのだろう?
地道に登記簿謄本を調べていけば相続した物件に辿り着くことはできるのだが、この方法は手間が掛かり過ぎる。伝説の財務コンサルタントはそんな方法を使わないだろう。
そうすると、懇意にしている不動産業者から情報を入手していると考えるのが自然だ。
しかし、不動産業者は相続人から底地を取得すれば、借地権者に売却して利益を稼ぐことができる。不動産業者が買取ればいいのに、わざわざジョーダンに情報を教えるだろうか?
―― うーん、分からん・・・
考えても分からないから、俺はMJに底地を売却した元地主にヒアリングすることにした。
調査を進めていけば、真実に辿り着くはずだ。
***
俺、ガブリエル、ロイの3人はMJに底地を売却したロバートの自宅を訪問した。
ロバートの家はジャービス王国の高級住宅街に位置しており、敷地内にはいくつかの建物、プールやテニスコートが見える。それもそのはず、ロバートの父親はジャービス国内の上場企業の創業者で、かなりの遺産があったとネット記事に載っていた。
俺が読んだネット記事には『遺産相続で親族が揉めている』と書いてあったから、相続は大変だったのだろう。俺はそこまで興味はないが、ロバートの自宅を訪問する前に、ガブリエルとロイはかなりのゴシップ記事を読んで話し込んでいた。
『争続』と揶揄されるような激しい争いに発展し、結果的に絶縁してしまう内容のテレビドラマを見たことがある。このテレビドラマの視聴率は高く、特におばちゃんの人気がすごかったと記憶している。ロバートの家族もそうなったのだろうか?
ガブリエルとロイに「興味本位で相続のことを聞かないように」と事前に伝えているものの、俺は少し心配している。ポロっと不注意で言った発言で、ロバートが嫌な思いをするかもしれないから。
ロバートの自宅のリビングに通され、俺は簡単に自己紹介した。
「はじめまして。総務省のダニエルです。一緒にきたのはガブリエルとロイです。今日は、MJに売却した底地の件で話を伺いにきました」
「ご足労いただき、ありがとうございます。それにしても、お二人は大きいですね」とロバートは言った。
どうやらロバートは、俺とロイの身長のことを言っているらしい。
「そうですね。多分、私の場合は王族カレンダーを見てのことだと思います。カレンダーだとサイズ感が分からないので、よく驚かれますね。うちの家族は全員このサイズなので、家族で並んでいる写真で普通サイズだと思われているようです」と俺は言った。
「全員、そのサイズですか。そうだったんですね。それにしても、ご一緒の女性はモデルのような体系ですね?」
「学生時代に叔父がデザイナーをしているベン・アクストンというブランドのモデルをしていた時期があります。その後はバスケットボールの選手でした」とロイが言った。
「ベン・アクストンは知ってますよ。うちの妻が何着か持っているはずです」
「そうですか、お買上げありがとうございます!」
「じゃあ、昔のコレクション・カタログには出てるんですね?」
「ええ、10年前くらいのコレクションには私が載っていると思います」
俺は話がすっかり脱線していることに気付いた。底地売買の話をスムーズに聞くためには、ロバートの警戒感を溶くことは重要だ。
でも、このままだとロバートは奥さんを呼んで雑談に突入する雰囲気を醸し出している。ファッション関係の話をしていても調査は進まないから、俺は勇気を出して話を戻すことにした。
「それで、本日伺った件なのですが・・・」と俺が言うと、ロバートとロイは恥ずかしそうに俺に笑顔で応えた。
「失礼しました。つい脱線してしまいましたね。それで、具体的に何を知りたいのでしょうか?」とロバートは言った。
「まず、MJに売却した底地はロバートの父親が以前から所有していたものですか?」と俺は質問した。
「いえ、底地については父が亡くなる5~6年前に不動産会社から取得したものです」
「そうすると、土地は相続対策で取得したのでしょうか?」
「そうです。うちの顧問税理士からラヴァル不動産のニコラを紹介されて、相続税の節税スキームを提案されました」
「不動産を利用した相続税の節税スキームですか。ちなみに、どういう内容だったか教えてもらえますか?」
「構いませんよ。もう相続税の申告も終わっていますから」
ロバートはそう言うと、ニコラから提案された相続税の節税スキームを語り始めた。
<続く>
ジョーダンたちMJが行っている底地買取りと売却は、売却価格が法外な部分を除けば不動産業者が行っているものと変わらない。それでも、エドガーたちからMJの話を聞いていて俺は疑問に思ったことがあった。
―― MJはどうやって相続を知ったのだろう?
地道に登記簿謄本を調べていけば相続した物件に辿り着くことはできるのだが、この方法は手間が掛かり過ぎる。伝説の財務コンサルタントはそんな方法を使わないだろう。
そうすると、懇意にしている不動産業者から情報を入手していると考えるのが自然だ。
しかし、不動産業者は相続人から底地を取得すれば、借地権者に売却して利益を稼ぐことができる。不動産業者が買取ればいいのに、わざわざジョーダンに情報を教えるだろうか?
―― うーん、分からん・・・
考えても分からないから、俺はMJに底地を売却した元地主にヒアリングすることにした。
調査を進めていけば、真実に辿り着くはずだ。
***
俺、ガブリエル、ロイの3人はMJに底地を売却したロバートの自宅を訪問した。
ロバートの家はジャービス王国の高級住宅街に位置しており、敷地内にはいくつかの建物、プールやテニスコートが見える。それもそのはず、ロバートの父親はジャービス国内の上場企業の創業者で、かなりの遺産があったとネット記事に載っていた。
俺が読んだネット記事には『遺産相続で親族が揉めている』と書いてあったから、相続は大変だったのだろう。俺はそこまで興味はないが、ロバートの自宅を訪問する前に、ガブリエルとロイはかなりのゴシップ記事を読んで話し込んでいた。
『争続』と揶揄されるような激しい争いに発展し、結果的に絶縁してしまう内容のテレビドラマを見たことがある。このテレビドラマの視聴率は高く、特におばちゃんの人気がすごかったと記憶している。ロバートの家族もそうなったのだろうか?
ガブリエルとロイに「興味本位で相続のことを聞かないように」と事前に伝えているものの、俺は少し心配している。ポロっと不注意で言った発言で、ロバートが嫌な思いをするかもしれないから。
ロバートの自宅のリビングに通され、俺は簡単に自己紹介した。
「はじめまして。総務省のダニエルです。一緒にきたのはガブリエルとロイです。今日は、MJに売却した底地の件で話を伺いにきました」
「ご足労いただき、ありがとうございます。それにしても、お二人は大きいですね」とロバートは言った。
どうやらロバートは、俺とロイの身長のことを言っているらしい。
「そうですね。多分、私の場合は王族カレンダーを見てのことだと思います。カレンダーだとサイズ感が分からないので、よく驚かれますね。うちの家族は全員このサイズなので、家族で並んでいる写真で普通サイズだと思われているようです」と俺は言った。
「全員、そのサイズですか。そうだったんですね。それにしても、ご一緒の女性はモデルのような体系ですね?」
「学生時代に叔父がデザイナーをしているベン・アクストンというブランドのモデルをしていた時期があります。その後はバスケットボールの選手でした」とロイが言った。
「ベン・アクストンは知ってますよ。うちの妻が何着か持っているはずです」
「そうですか、お買上げありがとうございます!」
「じゃあ、昔のコレクション・カタログには出てるんですね?」
「ええ、10年前くらいのコレクションには私が載っていると思います」
俺は話がすっかり脱線していることに気付いた。底地売買の話をスムーズに聞くためには、ロバートの警戒感を溶くことは重要だ。
でも、このままだとロバートは奥さんを呼んで雑談に突入する雰囲気を醸し出している。ファッション関係の話をしていても調査は進まないから、俺は勇気を出して話を戻すことにした。
「それで、本日伺った件なのですが・・・」と俺が言うと、ロバートとロイは恥ずかしそうに俺に笑顔で応えた。
「失礼しました。つい脱線してしまいましたね。それで、具体的に何を知りたいのでしょうか?」とロバートは言った。
「まず、MJに売却した底地はロバートの父親が以前から所有していたものですか?」と俺は質問した。
「いえ、底地については父が亡くなる5~6年前に不動産会社から取得したものです」
「そうすると、土地は相続対策で取得したのでしょうか?」
「そうです。うちの顧問税理士からラヴァル不動産のニコラを紹介されて、相続税の節税スキームを提案されました」
「不動産を利用した相続税の節税スキームですか。ちなみに、どういう内容だったか教えてもらえますか?」
「構いませんよ。もう相続税の申告も終わっていますから」
ロバートはそう言うと、ニコラから提案された相続税の節税スキームを語り始めた。
<続く>