第1話 ジョーダンの逃亡(その3)
文字数 1,910文字
(1)ジョーダンの逃亡 <続き>
俺はESG投資について内部調査部のメンバーに説明している。説明している間にジョーダンがどのような詐欺をしているかの推理を進める。
「上場会社はESG評価を上げたい。だから、実際に対策していなくても、対策しているように見せるんだ。代表例がグリーンウォッシングだね」と俺は言った。
※グリーンウォッシング(グリーンウォッシュ)とは実際には環境に配慮していないにも関わらず、環境に配慮しているように見せることです。
「グリーンウォッシングは聞いたことがあります」とミゲルが言った。
「環境に配慮している企業はESG評価(スコア)が高くなるから、上場企業は嘘でも環境に配慮しているように見せたいんだ」
「罰則はないんですか?」
「少なくともジャービス王国にはグリーンウォッシングに対する罰則はないよ。国によってはグリーンウォッシングに罰則を科す動きはあるけど、世界的にはまだまだ浸透していない。だから、グリーンウォッシングはやりたい放題、無法地帯なんだ」
「それって、問題ですよね?」
「問題だと思うよ。でも、会社が嘘をついていても取り締まる法律がジャービス王国にはない。だから、その会社がグリーンウォッシングをしているかどうかは、自分たちで調べるしかないな・・・」
「それにしても、そこまでして上場企業はESG評価を上げたいものなんでしょうか?」
ミゲルは素朴な疑問を言った。
「まあ、金額が凄いからね。ちょっと、これ見てよ」
俺はそう言って、ESG投資に関するレポートの一部(図表9-2)を見せた。
【図表9-2:ESG投資額の推移(単位:10億米ドル)】
出所: GSIA ”GLOBAL SUSTAINABLE INVESTMENT REVIEW” 2018年度及び2020年度を加工して掲載
「世界のESG投資額は2020年度で35兆米ドル。1米ドル=130JDとしたら4,550兆JDだ」
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円と考えて下さい。
「4,550兆JD?」
「大雑把に言うと、世界の投資の3分の1くらいがESG投資だね」
「へー。そうすると、ESG評価が低かったら、全世界の投資家の3分の1が投資してくれない。そういうことですか?」
「国や地域によって差はあるけど、そういうことだね。発行済株式総数の30~40%のダイベストメント(投資資金の引き上げ)が起ったら、結構なインパクトだよね」
「ESG投資、恐るべし・・・」
ミゲルは上場企業がESG対応に必死になっている理由を理解したようだ。
「それにしても、上場会社はESG情報をどうやって開示しているんですか?」とミゲルが俺に質問した。
「例えば、代表的なものは統合報告書かな。アニュアルレポートと言う場合もある」
「統合報告書ですか?」
「上場会社の場合は有価証券報告書(金融商品取引法に基づく決算情報の開示書類)の提出が必要だよね?」
「そうですね。それは分かります」
「有価証券報告書で開示するのは企業の決算情報だから主に財務情報だ。統合報告書は財務情報以外に非財務情報も含んで開示する。こんな感じだね」
俺はそう言って、簡単な図(図表9-3)を書いた。
【図表9-3:有価証券報告書と統合報告書】
図を見ながらミゲルが「へー」と言った。
理解したはずだと思った俺は、ジョーダンの件に話を移す。
「だから、上場企業はグリーンウォッシングしてもESG評価を高くしたいんだよ。それで、ジョーダンはそういう上場企業に詐欺をはたらいている。そういうことかな?」と俺はルイーズに聞いた。
「私も詳しくは知らないけど、たぶん合ってると思う」
「やっぱり・・・。ESGスコアを算出する評価機関は幾つかあるけど、評価する際の項目は共通している。環境対応(E)、労働条件・人権対応(S)とガバナンス(G)だ。ジョーダンはこのうちのどれに特化してるか分かる?」
※ESGスコアを算出している評価機関として有名なのはMSCI(モルガンスタンレー・キャピタル・インターナショナル)やFTSE Russellなどです。特にMSCIは様々な投資関連指数を公表しているためグローバル投資家によく利用されています。
「ジョーダンは主に環境対応(E)に特化して詐欺をはたらいているらしいよ。具体的にはTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)のフレームワークに沿って、『CO2排出量の削減をサポートする』と言って上場会社に近づいているわね」
―― CO2排出量の削減をサポート?
今回のジョーダンの手口は限りなくグレーな予感がしてきた。
また、解決できないんじゃないのか?
俺はESG投資について内部調査部のメンバーに説明している。説明している間にジョーダンがどのような詐欺をしているかの推理を進める。
「上場会社はESG評価を上げたい。だから、実際に対策していなくても、対策しているように見せるんだ。代表例がグリーンウォッシングだね」と俺は言った。
※グリーンウォッシング(グリーンウォッシュ)とは実際には環境に配慮していないにも関わらず、環境に配慮しているように見せることです。
「グリーンウォッシングは聞いたことがあります」とミゲルが言った。
「環境に配慮している企業はESG評価(スコア)が高くなるから、上場企業は嘘でも環境に配慮しているように見せたいんだ」
「罰則はないんですか?」
「少なくともジャービス王国にはグリーンウォッシングに対する罰則はないよ。国によってはグリーンウォッシングに罰則を科す動きはあるけど、世界的にはまだまだ浸透していない。だから、グリーンウォッシングはやりたい放題、無法地帯なんだ」
「それって、問題ですよね?」
「問題だと思うよ。でも、会社が嘘をついていても取り締まる法律がジャービス王国にはない。だから、その会社がグリーンウォッシングをしているかどうかは、自分たちで調べるしかないな・・・」
「それにしても、そこまでして上場企業はESG評価を上げたいものなんでしょうか?」
ミゲルは素朴な疑問を言った。
「まあ、金額が凄いからね。ちょっと、これ見てよ」
俺はそう言って、ESG投資に関するレポートの一部(図表9-2)を見せた。
【図表9-2:ESG投資額の推移(単位:10億米ドル)】
出所: GSIA ”GLOBAL SUSTAINABLE INVESTMENT REVIEW” 2018年度及び2020年度を加工して掲載
「世界のESG投資額は2020年度で35兆米ドル。1米ドル=130JDとしたら4,550兆JDだ」
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円と考えて下さい。
「4,550兆JD?」
「大雑把に言うと、世界の投資の3分の1くらいがESG投資だね」
「へー。そうすると、ESG評価が低かったら、全世界の投資家の3分の1が投資してくれない。そういうことですか?」
「国や地域によって差はあるけど、そういうことだね。発行済株式総数の30~40%のダイベストメント(投資資金の引き上げ)が起ったら、結構なインパクトだよね」
「ESG投資、恐るべし・・・」
ミゲルは上場企業がESG対応に必死になっている理由を理解したようだ。
「それにしても、上場会社はESG情報をどうやって開示しているんですか?」とミゲルが俺に質問した。
「例えば、代表的なものは統合報告書かな。アニュアルレポートと言う場合もある」
「統合報告書ですか?」
「上場会社の場合は有価証券報告書(金融商品取引法に基づく決算情報の開示書類)の提出が必要だよね?」
「そうですね。それは分かります」
「有価証券報告書で開示するのは企業の決算情報だから主に財務情報だ。統合報告書は財務情報以外に非財務情報も含んで開示する。こんな感じだね」
俺はそう言って、簡単な図(図表9-3)を書いた。
【図表9-3:有価証券報告書と統合報告書】
図を見ながらミゲルが「へー」と言った。
理解したはずだと思った俺は、ジョーダンの件に話を移す。
「だから、上場企業はグリーンウォッシングしてもESG評価を高くしたいんだよ。それで、ジョーダンはそういう上場企業に詐欺をはたらいている。そういうことかな?」と俺はルイーズに聞いた。
「私も詳しくは知らないけど、たぶん合ってると思う」
「やっぱり・・・。ESGスコアを算出する評価機関は幾つかあるけど、評価する際の項目は共通している。環境対応(E)、労働条件・人権対応(S)とガバナンス(G)だ。ジョーダンはこのうちのどれに特化してるか分かる?」
※ESGスコアを算出している評価機関として有名なのはMSCI(モルガンスタンレー・キャピタル・インターナショナル)やFTSE Russellなどです。特にMSCIは様々な投資関連指数を公表しているためグローバル投資家によく利用されています。
「ジョーダンは主に環境対応(E)に特化して詐欺をはたらいているらしいよ。具体的にはTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)のフレームワークに沿って、『CO2排出量の削減をサポートする』と言って上場会社に近づいているわね」
―― CO2排出量の削減をサポート?
今回のジョーダンの手口は限りなくグレーな予感がしてきた。
また、解決できないんじゃないのか?