第7話 債券貸借取引(その1)
文字数 1,818文字
(7)債券貸借取引
俺は傷心の中、内部調査部に向かって歩いている。
家族会議で調子に乗ってジャービス王国の為替政策について説明した俺。
そんな俺は、見事に為替対応の担当に国王から指名された。
―― ガッツポーズしたチャールズが恨めしい・・・
必要な資金はアイツに用意してもらうとして、何とかして巻き込まなければいけない。それしにしても、俺の心配事は・・
―― ルイーズ、怒るだろうな・・・
考えても仕方ないから、俺は気を取り直して内部調査部のドアを開けた。
部屋に入ると、数名が俺に気付いたようだ。
「部長、どうでした?」とミゲルが俺に聞くから、「ダメだった」と小声で言った。
「何がダメだったの?」今後はルイーズが俺に聞いた。
「俺の案が採用されて、為替対応の担当にされた・・・」
「あ、そう。何か準備することある?」ルイーズは特に関心なさそうに言った。
怒っていないのだろうか?
俺は一応確認することにした。
「怒ってないの?」
「別に。仕事でしょ」
俺は他の内部調査部のメンバーを見たのだが、特に何の反応もない。
誰も気にしていないようなので俺はメンバーに方針を伝えることにした。
「まず、今回の取引の流れはこんな感じになる」
俺はそう言って、為替対応において必要となる手順を列挙した。
①1兆JD分の米ドルを購入する
②政策金利を1%に引き下げる
③購入した1兆JD分の米ドルを売却する
④売却益を使って補助金を出す
⑤海外企業の誘致を行う
⑥1兆JD分の米ドルを空売りする
⑦政策金利を4%に引き上げる
⑧空売りした1兆JD分の米ドルを買い戻す
⑨決済益を使って補助金を出す
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円としています。
「このうち②、④、⑦、⑨は内務省がするから、俺たちには関係ない。⑤は外務省に動いてもらおう。俺たちが担当するのは①、③、⑥、⑧だ」
「そうなるわね」とルイーズは言った。
「まず、ジャービス王国の政策金利を引き下げる前に、大量に米ドルを購入する必要がある。金額にして1兆JD分の米ドルの購入だ。だから、まず米ドル購入資金を調達する必要がある」と俺はメンバーに説明する。
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円としています。
「米ドルの現物を購入するのですか? それとも、外為証拠金取引(FX)のようなレバレッジを利用するのですか?」とスミスが俺に質問した。
「現物を購入すると1兆JDを用意しないといけない。資金効率を考えると、できればレバレッジを掛けて米ドルを取得したい。でも、レバレッジが大きすぎるとリスクがあるから、ほどほどのレバレッジで・・・」
「ジャービス国内の外為証拠金業者の最大レバレッジは25倍です。部長の言う『ほどほど』とは何倍ですか?」
俺は何となく『ほどほど』と言ったのだが、真面目なスミスは俺の『ほどほど』がどれくらいなのか気になるのだろう・・・。
俺は自分が言った『ほどほど』を数値化しようと考えた。
「米ドルの買いポジション(ロング)を長期で保有しないといけないから・・・2~3数倍かな?」と俺は答えた。
これでスミスには俺の『ほどほど』が伝わるだろう。
「レバレッジ2倍とすると証拠金は5,000億JD。レバレッジ3倍とすると証拠金は3,333億JD。どちらも大きいですね」とスミスは言った。
真面目なスミスは俺の『ほどほど』を細かく定義してくれたようだ。
ジャービス王国の年度の国家予算が約1,000億JDだから、今回の取引規模は非常に大きい。正直、失敗したらどうしよう?という不安もあるが、俺は自分に『為替政策とはそういうものだ』に言い聞かせる。
それとは別に、俺はもう一ついい案を思い付いた。もちろん金儲けという意味だ。
「いい案を思い付いた」
「どういうの?」今後はルイーズが俺に言った。
「米ドルを購入した後、政策金利を1%まで下げるじゃない? 証拠金をジャービス国債にするのはどうだろう?」と俺は言った。
「どういうこと?」
「今のジャービス国債の10年金利は3%だよね。例えば、利率3%の10年国債は額面と時価が同じだ。額面100億JDの国債は100億JDで売買されている」
「当たり前じゃない。割引率と国債金利が同じだから」
ルイーズがイライラしているのを俺は察した。
でも、俺はここで引くわけにはいかない。
なぜなら、俺はスペシャリストだから!
<続く>
俺は傷心の中、内部調査部に向かって歩いている。
家族会議で調子に乗ってジャービス王国の為替政策について説明した俺。
そんな俺は、見事に為替対応の担当に国王から指名された。
―― ガッツポーズしたチャールズが恨めしい・・・
必要な資金はアイツに用意してもらうとして、何とかして巻き込まなければいけない。それしにしても、俺の心配事は・・
―― ルイーズ、怒るだろうな・・・
考えても仕方ないから、俺は気を取り直して内部調査部のドアを開けた。
部屋に入ると、数名が俺に気付いたようだ。
「部長、どうでした?」とミゲルが俺に聞くから、「ダメだった」と小声で言った。
「何がダメだったの?」今後はルイーズが俺に聞いた。
「俺の案が採用されて、為替対応の担当にされた・・・」
「あ、そう。何か準備することある?」ルイーズは特に関心なさそうに言った。
怒っていないのだろうか?
俺は一応確認することにした。
「怒ってないの?」
「別に。仕事でしょ」
俺は他の内部調査部のメンバーを見たのだが、特に何の反応もない。
誰も気にしていないようなので俺はメンバーに方針を伝えることにした。
「まず、今回の取引の流れはこんな感じになる」
俺はそう言って、為替対応において必要となる手順を列挙した。
①1兆JD分の米ドルを購入する
②政策金利を1%に引き下げる
③購入した1兆JD分の米ドルを売却する
④売却益を使って補助金を出す
⑤海外企業の誘致を行う
⑥1兆JD分の米ドルを空売りする
⑦政策金利を4%に引き上げる
⑧空売りした1兆JD分の米ドルを買い戻す
⑨決済益を使って補助金を出す
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円としています。
「このうち②、④、⑦、⑨は内務省がするから、俺たちには関係ない。⑤は外務省に動いてもらおう。俺たちが担当するのは①、③、⑥、⑧だ」
「そうなるわね」とルイーズは言った。
「まず、ジャービス王国の政策金利を引き下げる前に、大量に米ドルを購入する必要がある。金額にして1兆JD分の米ドルの購入だ。だから、まず米ドル購入資金を調達する必要がある」と俺はメンバーに説明する。
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円としています。
「米ドルの現物を購入するのですか? それとも、外為証拠金取引(FX)のようなレバレッジを利用するのですか?」とスミスが俺に質問した。
「現物を購入すると1兆JDを用意しないといけない。資金効率を考えると、できればレバレッジを掛けて米ドルを取得したい。でも、レバレッジが大きすぎるとリスクがあるから、ほどほどのレバレッジで・・・」
「ジャービス国内の外為証拠金業者の最大レバレッジは25倍です。部長の言う『ほどほど』とは何倍ですか?」
俺は何となく『ほどほど』と言ったのだが、真面目なスミスは俺の『ほどほど』がどれくらいなのか気になるのだろう・・・。
俺は自分が言った『ほどほど』を数値化しようと考えた。
「米ドルの買いポジション(ロング)を長期で保有しないといけないから・・・2~3数倍かな?」と俺は答えた。
これでスミスには俺の『ほどほど』が伝わるだろう。
「レバレッジ2倍とすると証拠金は5,000億JD。レバレッジ3倍とすると証拠金は3,333億JD。どちらも大きいですね」とスミスは言った。
真面目なスミスは俺の『ほどほど』を細かく定義してくれたようだ。
ジャービス王国の年度の国家予算が約1,000億JDだから、今回の取引規模は非常に大きい。正直、失敗したらどうしよう?という不安もあるが、俺は自分に『為替政策とはそういうものだ』に言い聞かせる。
それとは別に、俺はもう一ついい案を思い付いた。もちろん金儲けという意味だ。
「いい案を思い付いた」
「どういうの?」今後はルイーズが俺に言った。
「米ドルを購入した後、政策金利を1%まで下げるじゃない? 証拠金をジャービス国債にするのはどうだろう?」と俺は言った。
「どういうこと?」
「今のジャービス国債の10年金利は3%だよね。例えば、利率3%の10年国債は額面と時価が同じだ。額面100億JDの国債は100億JDで売買されている」
「当たり前じゃない。割引率と国債金利が同じだから」
ルイーズがイライラしているのを俺は察した。
でも、俺はここで引くわけにはいかない。
なぜなら、俺はスペシャリストだから!
<続く>