第6話 根回しをしよう(その4)
文字数 2,220文字
(6)根回しをしよう (続き)
「銅ならサンマーティン国にある外務省関連の会社で仕入れられると思う。サンマーティン国は銅の産出国で、品質も悪くない。それに、サンマーティン国には、外務省が懇意にしている議員が何人かいるから話はできるだろう。外務省の関連会社が既に政府系機関と取引しているから、その会社を通した方が、全く新規で取引するよりも話が早いと思う」とアンドリューが言った。
どうやらアンドリューは、銅の輸入を手伝うのはいいが、その会社に幾らか落とせと言っているようだ。それとも、サンマーティン国の議員にお金を渡して、今後の外交関係を円滑に進めようとしているのだろうか?
考えても分からないが、『カルテル潰し作戦』が外交関係で使えそうだとアンドリューが思ってくれた方が、俺たちに協力してくれるだろう。
俺は金に汚い奴だと思ったが、それはジャービス王国内での話だ。世界には汚職まみれの国は多いので、外交=金なのだ。
誰もただ働きしてくれるはずがないので、当然の反応なのだろう。
俺は、『カルテル潰し作戦』を進めるためには、先にお金の話をしておいた方がいいと考えた。
「その外務省の関連会社を経由する場合、幾ら落とせばいいですか?」と俺はストレートに聞いた。
「手数料のこと?」
「そうです」
「ちなみに、この銅の輸入取引は幾らのディール(案件)なの?」とアンドリューは聞いてきた。
「金額はあまり大きくありません。まず、ジャービス王国での銅の取引量は月1,000tくらいで、この計画における仕入数量は国内の取引量の20%にする予定です。つまり、銅の輸入量は月200tです」と俺は言って、具体的な金額を伝える。
「仮に800JD/kgで仕入れた場合、仕入金額は月額1億6,000万JD(800JD/kg×200t)です。
これを国内価格1,500JD/kgで販売すると、売上は月額3億JD(1,500JD/kg×200t)です。
ただ、銅の国内価格を国際水準まで引き下げる予定なので、売上は月額3億JDから月額1億6,000万JDに下がってくるでしょう」と俺は答えた。
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円と考えて下さい。
「当初の利益が1億4,000万JDで、その後、下がってくるのか。あまり儲かりそうにないな」
アンドリューは少しがっかりしている。
「そうですね。あまり儲かる案件ではありません。ただ、国内価格の正常化には必要な輸入です」と俺は言った。
「国王も知っているし、そうだな。外務省もただ働きできないけど、あまり手数料を取りすぎるのも良くない。それに、銅の輸送や国内販売も手数料が必要だろう?」とアンドリューは俺に聞いた。
「必要でしょうね」と俺は答えた。
「関係者の取り分は、交渉する前に決めておいた方がいいと思う。後回しにすると、チャールズ辺りが面倒くさいからな」
「そうですね。チャールズはお金にうるさいから、もし儲かったら後になって法外な金額を請求してくるでしょう」
「じゃあ、発生する利益に対して、仕入20%、輸送20%、販売20%で、残り40%はダニエルのところというのはどうだろう」とアンドリューは言った。
【図表2-6-2:銅取引の利益配分】
「その割合で構いません。国王から『損失を出すな』と言われているだけなので。ただ、利益を計算するのは後になるので、手数料の最低額は設定しておいた方が良いと思います。例えば、50JD/kgでどうですか?」と俺は聞いた。
「月200tで50JD/kgということは1,000万JD(50JD/kg×200t)か。最低限の経費などは賄えそうだ。それでいいよ」とアンドリューは理解を示した。
サンマーティン国の議員への賄賂もそこから出すのだろう。
「それと、サンマーティン国の鉱山会社も国際価格よりも高くなければ、わざわざジャービス王国に売りませんよね。
銅の国際価格800JD/kgのところ、外務省の関係会社がサンマーティン国から850JD/kgで仕入れて、内部調査部の会社に900JD/kgで売って下さい」と俺は言った。
俺は銅の販売価格を先物で確定するつもりだから、損失を出さずにすむだろう。
「それで問題ない。じゃあ、他の関係者との調整が終わったら、連絡してくれ」とアンドリューは言った。
俺たちが外務省を出たら、「これで銅の海外仕入は何とかなりそうね」とルイーズが話しかけてきた。
「アンドリューは、もう少しごねてくると思っていた」とルイーズは続けて言った。
「そうだね。金額が小さいから興味がないのかな?それとも、サンマーティン国との外交関係で使えると思ったのかな?」と俺は言った。
「何か裏がないといいけど。考え過ぎかな?」とルイーズは気になることを言う。
アンドリューの性格を考えると、何か裏があるのだろう。
でも、俺にとっては『カルテル潰し作戦』の決行が優先だ。
「ところで、赤字を出すわけにいかないから、銅価格が下がる前に銅先物を売って、利益を確定させておこうと思うんだ。商品先物を注文するために、証券会社か商品取引業者の口座開設が必要だから、手配しておいてもらえるかな?」と俺は2人に言った。
「それなら、前の会社の時に先物取引をしていたので、私が口座開設をしておきます」とスミスは言った。
これで外務省との調整は終わった。
次は、銅の輸送を依頼する国軍だ。
<続く>
「銅ならサンマーティン国にある外務省関連の会社で仕入れられると思う。サンマーティン国は銅の産出国で、品質も悪くない。それに、サンマーティン国には、外務省が懇意にしている議員が何人かいるから話はできるだろう。外務省の関連会社が既に政府系機関と取引しているから、その会社を通した方が、全く新規で取引するよりも話が早いと思う」とアンドリューが言った。
どうやらアンドリューは、銅の輸入を手伝うのはいいが、その会社に幾らか落とせと言っているようだ。それとも、サンマーティン国の議員にお金を渡して、今後の外交関係を円滑に進めようとしているのだろうか?
考えても分からないが、『カルテル潰し作戦』が外交関係で使えそうだとアンドリューが思ってくれた方が、俺たちに協力してくれるだろう。
俺は金に汚い奴だと思ったが、それはジャービス王国内での話だ。世界には汚職まみれの国は多いので、外交=金なのだ。
誰もただ働きしてくれるはずがないので、当然の反応なのだろう。
俺は、『カルテル潰し作戦』を進めるためには、先にお金の話をしておいた方がいいと考えた。
「その外務省の関連会社を経由する場合、幾ら落とせばいいですか?」と俺はストレートに聞いた。
「手数料のこと?」
「そうです」
「ちなみに、この銅の輸入取引は幾らのディール(案件)なの?」とアンドリューは聞いてきた。
「金額はあまり大きくありません。まず、ジャービス王国での銅の取引量は月1,000tくらいで、この計画における仕入数量は国内の取引量の20%にする予定です。つまり、銅の輸入量は月200tです」と俺は言って、具体的な金額を伝える。
「仮に800JD/kgで仕入れた場合、仕入金額は月額1億6,000万JD(800JD/kg×200t)です。
これを国内価格1,500JD/kgで販売すると、売上は月額3億JD(1,500JD/kg×200t)です。
ただ、銅の国内価格を国際水準まで引き下げる予定なので、売上は月額3億JDから月額1億6,000万JDに下がってくるでしょう」と俺は答えた。
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円と考えて下さい。
「当初の利益が1億4,000万JDで、その後、下がってくるのか。あまり儲かりそうにないな」
アンドリューは少しがっかりしている。
「そうですね。あまり儲かる案件ではありません。ただ、国内価格の正常化には必要な輸入です」と俺は言った。
「国王も知っているし、そうだな。外務省もただ働きできないけど、あまり手数料を取りすぎるのも良くない。それに、銅の輸送や国内販売も手数料が必要だろう?」とアンドリューは俺に聞いた。
「必要でしょうね」と俺は答えた。
「関係者の取り分は、交渉する前に決めておいた方がいいと思う。後回しにすると、チャールズ辺りが面倒くさいからな」
「そうですね。チャールズはお金にうるさいから、もし儲かったら後になって法外な金額を請求してくるでしょう」
「じゃあ、発生する利益に対して、仕入20%、輸送20%、販売20%で、残り40%はダニエルのところというのはどうだろう」とアンドリューは言った。
【図表2-6-2:銅取引の利益配分】
「その割合で構いません。国王から『損失を出すな』と言われているだけなので。ただ、利益を計算するのは後になるので、手数料の最低額は設定しておいた方が良いと思います。例えば、50JD/kgでどうですか?」と俺は聞いた。
「月200tで50JD/kgということは1,000万JD(50JD/kg×200t)か。最低限の経費などは賄えそうだ。それでいいよ」とアンドリューは理解を示した。
サンマーティン国の議員への賄賂もそこから出すのだろう。
「それと、サンマーティン国の鉱山会社も国際価格よりも高くなければ、わざわざジャービス王国に売りませんよね。
銅の国際価格800JD/kgのところ、外務省の関係会社がサンマーティン国から850JD/kgで仕入れて、内部調査部の会社に900JD/kgで売って下さい」と俺は言った。
俺は銅の販売価格を先物で確定するつもりだから、損失を出さずにすむだろう。
「それで問題ない。じゃあ、他の関係者との調整が終わったら、連絡してくれ」とアンドリューは言った。
俺たちが外務省を出たら、「これで銅の海外仕入は何とかなりそうね」とルイーズが話しかけてきた。
「アンドリューは、もう少しごねてくると思っていた」とルイーズは続けて言った。
「そうだね。金額が小さいから興味がないのかな?それとも、サンマーティン国との外交関係で使えると思ったのかな?」と俺は言った。
「何か裏がないといいけど。考え過ぎかな?」とルイーズは気になることを言う。
アンドリューの性格を考えると、何か裏があるのだろう。
でも、俺にとっては『カルテル潰し作戦』の決行が優先だ。
「ところで、赤字を出すわけにいかないから、銅価格が下がる前に銅先物を売って、利益を確定させておこうと思うんだ。商品先物を注文するために、証券会社か商品取引業者の口座開設が必要だから、手配しておいてもらえるかな?」と俺は2人に言った。
「それなら、前の会社の時に先物取引をしていたので、私が口座開設をしておきます」とスミスは言った。
これで外務省との調整は終わった。
次は、銅の輸送を依頼する国軍だ。
<続く>