第7話 先物でヘッジしよう(その3)
文字数 1,706文字
(7) 先物でヘッジしよう <続き>
「最低保証があるので、利益が出にくいですね。それに、積極的に銅価格を下げようとしているので、i2が赤字になる可能性が高いです。本当に私は責任を取らなくてもいいんですよね?」とi2の社長に就任したミゲルが不安そうに言った。
「大丈夫。ミゲルに損失補填を求めたりしない」と俺はミゲルに言った。
「本当ですよね?」
「大丈夫だって。輸入した銅を国内で販売する場合、損失を出さないためにはケース3のような価格の下がり方でないといけない。これを狙ってやるのは、至難の業だ」と俺は言った。
「大丈夫ですよね?」ミゲルはしつこい。
「だから、大丈夫だって。販売単価を予め確定して、損失が出るのをヘッジ(回避)すればいい。具体的には、銅先物の売り(ショート)で損失をヘッジする」と俺は言った。
そうすると、ルイーズがもう一つ資料(図表2-9)を出した。
「昨日時点の銅先物の価格で、i2の利益を計算したのがこれ」と言った。
【図表2-9:先物ヘッジ後の単価と金額(単位:JD/kg)】
※上表の単位は、単価はJD/kg、売上・仕入・利益は百万JDで表示しています。
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円と考えて下さい。
「取引開始時点で1カ月から6カ月の銅先物を売れば、損失を出さずにすむ。先物価格は1カ月1,500JDから6カ月1,250JDまで下がるけど、6カ月間で2億5,200万JDの利益が出る」と俺は言った。
「i2に利益が出ていますね。社長として責任問題にならなくて良かった」ミゲルは安心そうだ。
「だから大丈夫だって、言ったでしょ」と俺が言うと、ミゲルは照れ笑いしている。
「ちょっと質問なんですが」とポールが言った。
「どうしたの?」
「『事前に銅先物を売ったら、将来の銅価格の変動は気にしなくてもいい』ということですか?」とポールは俺に聞いてきた。
「そうだよ。商社などは、よくこの方法で原資産(銅や小麦など)の価格変動リスクをヘッジしている。第13穀物倉庫でも先物を使って価格変動リスクをヘッジしていたはずだよ」と俺は答えた。
「え?」とミゲルは言った。どうやら、知らなかったようだ。
ミゲルは横に座っていたガブリエルに「知ってた?」と聞いている。ガブリエルも知らなかったようだ。
「すいません。私が少し補足します」とスミスが事情を説明しはじめた。
「第13穀物倉庫でも、価格が急に変動するのを避けるために先物を利用していました。ヘッジの説明を入れると分かりにくくなるので、社内にはヘッジ後の数値を報告していたんです。ミゲルやガブリエルが知らなくても、不思議ではありません」とスミスが補足した。
「そうだったの?知らなかったな」とミゲルは言った。他のメンバーも同じ反応だ。
「今回の取引概要はこんな感じだけど、何か質問はあるかな?」と俺はメンバーに確認する。
「業務分担は、どうしますか?」とロイが聞いてきた。
「まず、先物取引と決済関係はミゲルとスミスで担当してほしい。スミスは慣れているから、特に問題ないだろう」ミゲルとスミスは頷いた。
ミゲルはあまり役に立たないかもしれないが、i2の代表者だから一緒の方が良いだろう。最近は、金融機関の本人確認がうるさいから、代表者が一緒にいった方が、スムーズに進むはずだ。
「次に、銅の一連の取引(輸入・輸送・販売)については、ガブリエル、ロイ、ポールの3人にお願いしたい。特に、今回は輸送を国軍に依頼するけど、国軍には貿易実務を知っている人がいないだろう。現地での銅の買付け、船積、保険、通関手続きなど、やる事が多いけど、国軍ができるとは思えない。なので、銅の輸入手続を国軍の代わりにやってほしい」と俺は言った。
「私は何をすればいいの?」とルイーズが俺に聞いた。
「この案件のサポートと、次の案件」と俺は答えた。
内部調査部の業務は『カルテル潰し作戦』だけではない。
『10万JDがもらえるキャンペーン』の効果で、内部告発ホットラインに次々と届く案件を、こなしていかないといけないのだ。
こうして俺たちは『カルテル潰し作戦』を開始した。
「最低保証があるので、利益が出にくいですね。それに、積極的に銅価格を下げようとしているので、i2が赤字になる可能性が高いです。本当に私は責任を取らなくてもいいんですよね?」とi2の社長に就任したミゲルが不安そうに言った。
「大丈夫。ミゲルに損失補填を求めたりしない」と俺はミゲルに言った。
「本当ですよね?」
「大丈夫だって。輸入した銅を国内で販売する場合、損失を出さないためにはケース3のような価格の下がり方でないといけない。これを狙ってやるのは、至難の業だ」と俺は言った。
「大丈夫ですよね?」ミゲルはしつこい。
「だから、大丈夫だって。販売単価を予め確定して、損失が出るのをヘッジ(回避)すればいい。具体的には、銅先物の売り(ショート)で損失をヘッジする」と俺は言った。
そうすると、ルイーズがもう一つ資料(図表2-9)を出した。
「昨日時点の銅先物の価格で、i2の利益を計算したのがこれ」と言った。
【図表2-9:先物ヘッジ後の単価と金額(単位:JD/kg)】
※上表の単位は、単価はJD/kg、売上・仕入・利益は百万JDで表示しています。
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円と考えて下さい。
「取引開始時点で1カ月から6カ月の銅先物を売れば、損失を出さずにすむ。先物価格は1カ月1,500JDから6カ月1,250JDまで下がるけど、6カ月間で2億5,200万JDの利益が出る」と俺は言った。
「i2に利益が出ていますね。社長として責任問題にならなくて良かった」ミゲルは安心そうだ。
「だから大丈夫だって、言ったでしょ」と俺が言うと、ミゲルは照れ笑いしている。
「ちょっと質問なんですが」とポールが言った。
「どうしたの?」
「『事前に銅先物を売ったら、将来の銅価格の変動は気にしなくてもいい』ということですか?」とポールは俺に聞いてきた。
「そうだよ。商社などは、よくこの方法で原資産(銅や小麦など)の価格変動リスクをヘッジしている。第13穀物倉庫でも先物を使って価格変動リスクをヘッジしていたはずだよ」と俺は答えた。
「え?」とミゲルは言った。どうやら、知らなかったようだ。
ミゲルは横に座っていたガブリエルに「知ってた?」と聞いている。ガブリエルも知らなかったようだ。
「すいません。私が少し補足します」とスミスが事情を説明しはじめた。
「第13穀物倉庫でも、価格が急に変動するのを避けるために先物を利用していました。ヘッジの説明を入れると分かりにくくなるので、社内にはヘッジ後の数値を報告していたんです。ミゲルやガブリエルが知らなくても、不思議ではありません」とスミスが補足した。
「そうだったの?知らなかったな」とミゲルは言った。他のメンバーも同じ反応だ。
「今回の取引概要はこんな感じだけど、何か質問はあるかな?」と俺はメンバーに確認する。
「業務分担は、どうしますか?」とロイが聞いてきた。
「まず、先物取引と決済関係はミゲルとスミスで担当してほしい。スミスは慣れているから、特に問題ないだろう」ミゲルとスミスは頷いた。
ミゲルはあまり役に立たないかもしれないが、i2の代表者だから一緒の方が良いだろう。最近は、金融機関の本人確認がうるさいから、代表者が一緒にいった方が、スムーズに進むはずだ。
「次に、銅の一連の取引(輸入・輸送・販売)については、ガブリエル、ロイ、ポールの3人にお願いしたい。特に、今回は輸送を国軍に依頼するけど、国軍には貿易実務を知っている人がいないだろう。現地での銅の買付け、船積、保険、通関手続きなど、やる事が多いけど、国軍ができるとは思えない。なので、銅の輸入手続を国軍の代わりにやってほしい」と俺は言った。
「私は何をすればいいの?」とルイーズが俺に聞いた。
「この案件のサポートと、次の案件」と俺は答えた。
内部調査部の業務は『カルテル潰し作戦』だけではない。
『10万JDがもらえるキャンペーン』の効果で、内部告発ホットラインに次々と届く案件を、こなしていかないといけないのだ。
こうして俺たちは『カルテル潰し作戦』を開始した。