回顧録第2話 情けは人の為ならず(その6)

文字数 2,100文字

 (2)情けは人の為ならず <続き>

 気付いたら私は、暗い部屋にいた。鉄格子が見えるから、留置所のようだ。
 3件目までは覚えているが、その後は記憶がない・・・。
 私は何をしたのだろう?

 しばらくすると、警察官2名が通訳を連れて入ってきて、私の罪状を読み上げた。
 警察官は現地の言葉で話しているから、通訳が私に分かる言葉に翻訳した。
 『売春』、『薬物』、『恐喝』など物騒な単語が聞こえてくる。

 警察が読み上げた罪状によれば、どうやら私は何件目かに行った店で女を買おうとしたらしい。その際に、薬物のディーラーともめて喧嘩になり、それが恐喝行為に該当するということらしい。レスリーたちも同じ容疑で捕まっているようだ。

 全く身に覚えがない。
 私は警察官に『弁護士に連絡したい』と言ったが、聞き入れてもらえなかった。
 警察官たちは「すぐに裁判が行われるから、それまでそこで待つように」と言って出ていった。

 外国の裁判所で、弁護士なしで私に有利な判決が出るとは思えない。
 サンマーティン国は『金で何とかなる国』と聞いているから、賄賂を渡せば出してくれるのだろうか?

 レスリーたちに話が出来れば、状況は好転するかもしれないが、彼らの話し声は聞こえないから近くにはいないのだろう。

 私は不安を抱えながらも眠気に勝てず、留置所の中で眠りについた。


 ***

 留置所に入ってから、どれくらい経っただろうか?

 部屋が暗いので時間の感覚が徐々になくなっているが、食事の回数は記憶している。食事は1日3食与えられているはずだから、多分、今日は4日目だろう。
 食事の回数が実は1日2回だったら、6日経過しているのだが、私には知る術がない。

 看守から与えられる食事も映画のように不味いわけでもない。日頃の食生活と比べると、留置所の食事の方が健康的なメニューが提供されているように思う。

 やる事がないだけで、健康な生活だ。
 留置所に入った初日は、あの日の記憶を思い起こそうとしたが、結局思い出せなかったので、早々に諦めた。脱獄できないかと思って部屋の中を色々と探ってみたが、難しそうだったから諦めた。

 やることがないので、私は筋トレをしようと思い立ち、腕立て伏せを始めた。若い頃は100回くらいできたはずだが、やってみると10回しかできなかった。お腹も出ているから、腹筋ができるかどうかも微妙な体系だ。オッサンになったことを実感する。
 次はスクワットを100回してみた。スクワットは100回できたが、足がプルプルする。

 その後も私は暇だったから、健康的な食事を採りながら、筋トレを続けた。
 今日の時点で腕立て伏せは80回できるようになった。スクワットは300回、腹筋も100回連続でできる。連日の筋トレで、筋力も戻ってきたようだ。ポッコリしていたお腹もへこみつつある。

 こうして私は留置所の中で、健康的な食生活と身体を取り戻した。

 それにしても暇だ・・・。

 ***

 留置所に入って5日目に見覚えのある男がやって来た。サンマーティン鉱業のチャンだ。
 私のことを聞いて、助けに来てくれたのかと思って、チャンに感謝した。

 チャンは警察に聞いたらしく、私に状況を説明してくれた。
 まず、罪状は私が通訳から聞いた内容と相違ないようだ。
 次に、レスリーたちは何度か同様の件で逮捕されているようで、実刑は確実のようだ。
 私は初犯だが、直ぐの保釈は難しいらしい。

 保釈される方法をチャンに聞くと、国会議員のトマスが警察に言えば直ぐに出られる、と私に教えてくれた。
 私が「トマス議員に頼んで欲しい」と言うと、チャンは「情けは人の為ならず」と言った。
 私が「そうだ」と答えると、「聞いてみる」と言ってチャンは帰っていった。

 それから2日して、チャンが再び留置所にやってきた。今度は、トマスも一緒だ。
 トマスは私の保釈に協力しても構わないが、条件があると私に言った。
 チャンには札束の入った茶封筒を渡せばいいとして、トマスは何を要求してくるのだろうか?

 トマスが言った条件は、1つだった。
 外務省の関連会社に販売する銅を、ベルグレービア商事から810JD/kgで調達することだった。

 外務省の関連会社へ販売する銅を、サンマーティン鉱業からこれ以上確保するのが難しい。
 トマス議員の個人会社から外務省の関連会社に850JD/kgで販売する契約のため、ベルグレービア商事からトマス議員の個人会社に810JD/kgで販売するように、とのことだ。

 【図表3:サンマーティン国の議員の提案】




 トマスは、我々が『石の上にも作成』によって販売できない余剰在庫を抱えていることを知っていた。どこからか、情報を入手したのだろう。

 トマスは、「私は寛大だから、余剰在庫を売れば保釈してあげよう」と私に言った。

 ただ、私の独断では、余剰在庫を売ることを判断できない。

 私が黙っていると、トマスは「『情けは人の為ならず』だよ。余剰在庫を売らなければ、君はいつまでもここから出られない」と言って留置所から出て行った。

 私はいつになったら、ここから出られるのだろうか?

 <続く>
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

ダニエル:ジャービス王国の第4王子。総務大臣。

ルイーズ:総務省 内部調査部 課長代理

ジェームス:ジャービス王国第1王子。軍本部 総司令

チャールズ:ジャービス王国の第2王子。内務大臣。

アンドリュー:ジャービス王国の第3王子。外務大臣。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み