第7話 財務コンサルタント(その3)
文字数 2,013文字
(7)財務コンサルタント <続き>
チャールズがブルックス銀行とラングフォード銀行に対して、セレナ銀行とロサリオ銀行の救済に興味があるか否かを聞いたのだが、両行頭取のニックとアーサーは下を向いたまま発言しない。
わざわざ火中の栗を拾う必要はないとブルックス銀行とラングフォード銀行は考えているはずだ。当然の反応だと思う。
二人の態度は肯定的な反応ではないと思うが、言葉に出して否定しないと救済を押し付けられるかもしれないとは考えないのだろうか?
チャールズが2行に質問したのは、国王が『民間銀行に確認するように』と言ったからだ。だから、ブルックス銀行とラングフォード銀行が否定的な意見だったとしても、俺たちは特に気にしていない。でも、ブルックス銀行のニックとラングフォード銀行のアーサーは前向きな回答ができないことを気にしているように見える。
しばらく沈黙が続いたが、覚悟を決めたブルックス銀行のニックが発言した。
「私共にはセレナ銀行とロサリオ銀行を支えられるだけの資金的な余裕はありません。また、自己資本比率に著しい低下が予想されるため、今後の経営に支障が出てしまいます」とブルックス銀行の頭取ニックは申し訳なさそうに言った。
「我々もブルックス銀行と同じ状況です。セレナ銀行とロサリオ銀行の一部の債権を譲受けるだけ・・・であれば検討できると思います。しかし、セレナ銀行とロサリオ銀行を丸々引受けるのは現実的に難しいです。ご協力したいのはやまやまですが・・・」とラングフォード銀行の頭取アーサーも続けて言った。
予想していた回答だからチャールズも俺も驚かない。『ふーん、そうなの』くらいの感じだ。でも、ニックとアーサーは救済できないことを気にしてそうだ。
議論が煮詰まっている中、ジャービス中央銀行総裁のアドルフが発言した。
「ブルックス銀行とラングフォード銀行の純資産ではセレナ銀行とロサリオ銀行を支えることは難しいでしょう。それなら、ブルックス銀行とラングフォード銀行が2行を買収しても問題ないだけの金額をジャービス政府から出資してはどうでしょうか?」
アドルフはニックとアーサーに助け舟を出すつもりだったのかもしれない。だが、この状況では完全に逆効果。ブルックス銀行とラングフォード銀行からすれば、余計なお世話でしかない。
アドルフの爆弾発言に返答できないニックとアーサー。二人は黙って下を見ている。
そんなニックとアーサーの反応を見ていたルイーズ。「余計なこと言いやがって・・・」とボソッと言った。
それを聞いたアドルフは「なんだと?」と反応する。
臨戦態勢に入る二人。
そして、仲裁に入った方がいいか迷う、隣に座っている俺。
「経営に問題ない銀行が、公的資金を受け入れるわけないでしょ?」
「そんなこと、聞いてみないと分からないじゃないか」
「あの二人見たでしょ? どう見ても嫌がってるじゃない」
ルイーズはそう言うとニックとアーサーを指さした。
「人を指さすんじゃない! ニックとアーサーに失礼だろ!」
「どっちが失礼よ?」
―― あー、喧嘩が始まった・・・
この二人はどこでも喧嘩する。きっと、周りに誰がいようと関係ない。そのことを俺は理解した。
二人の口論は収まりそうにないから、俺はしかたなく仲裁に入る。
「まあまあ、ルイーズもお父さんも、落ち着いて」
「お前に『お父さん』と呼ばれる筋合いはない!」とアドルフ。
アドルフは今日も『お父さん』に敏感だ。
俺とルイーズが付き合っていないことは説明したはずだが、怒りで我を忘れている。
『俺、王子だし、大臣なんだけどな・・・』と思いながらも、俺は喧嘩を仲裁することを優先する。
「アドルフ、分かったから。とりあえず落ち着いて。ブルックス銀行とラングフォード銀行のことは、ブルックス銀行とラングフォード銀行に決めてもらえばいいんじゃないかな?」と俺は声のトーンを落としてアドルフに言った。
俺がアドルフを正面から見つめていたら、アドルフは少し冷静になった。
ルイーズも怒ってはいるが、特に言葉を発しない。
親子喧嘩は中断したようだ。
喧嘩が収まったので、様子見をしていたチャールズがニックとアーサーに質問した。
「公的資金を受け入れて、救済したいと思っているか?」
「思っていません!」ニックとアーサーは声を揃えて言った。
これで、民間銀行にセレナ銀行とロサリオ銀行を救済する意思がないことを確認できた。
これ以上議論してもしかたないから、今日の会議はこれで終了することになる。
「それでは、ジャービス政府でセレナ銀行とロサリオ銀行に対して公的資金を注入するか否かを検討することにする。会議は以上だ」とチャールズが言った。
こうして、セレナ銀行とロサリオ銀行の救済はジャービス政府主導で実施することになった。
―― ダブリン証券に引っかかった銀行が少なければいいな・・・
俺の希望はこれだけだ。
チャールズがブルックス銀行とラングフォード銀行に対して、セレナ銀行とロサリオ銀行の救済に興味があるか否かを聞いたのだが、両行頭取のニックとアーサーは下を向いたまま発言しない。
わざわざ火中の栗を拾う必要はないとブルックス銀行とラングフォード銀行は考えているはずだ。当然の反応だと思う。
二人の態度は肯定的な反応ではないと思うが、言葉に出して否定しないと救済を押し付けられるかもしれないとは考えないのだろうか?
チャールズが2行に質問したのは、国王が『民間銀行に確認するように』と言ったからだ。だから、ブルックス銀行とラングフォード銀行が否定的な意見だったとしても、俺たちは特に気にしていない。でも、ブルックス銀行のニックとラングフォード銀行のアーサーは前向きな回答ができないことを気にしているように見える。
しばらく沈黙が続いたが、覚悟を決めたブルックス銀行のニックが発言した。
「私共にはセレナ銀行とロサリオ銀行を支えられるだけの資金的な余裕はありません。また、自己資本比率に著しい低下が予想されるため、今後の経営に支障が出てしまいます」とブルックス銀行の頭取ニックは申し訳なさそうに言った。
「我々もブルックス銀行と同じ状況です。セレナ銀行とロサリオ銀行の一部の債権を譲受けるだけ・・・であれば検討できると思います。しかし、セレナ銀行とロサリオ銀行を丸々引受けるのは現実的に難しいです。ご協力したいのはやまやまですが・・・」とラングフォード銀行の頭取アーサーも続けて言った。
予想していた回答だからチャールズも俺も驚かない。『ふーん、そうなの』くらいの感じだ。でも、ニックとアーサーは救済できないことを気にしてそうだ。
議論が煮詰まっている中、ジャービス中央銀行総裁のアドルフが発言した。
「ブルックス銀行とラングフォード銀行の純資産ではセレナ銀行とロサリオ銀行を支えることは難しいでしょう。それなら、ブルックス銀行とラングフォード銀行が2行を買収しても問題ないだけの金額をジャービス政府から出資してはどうでしょうか?」
アドルフはニックとアーサーに助け舟を出すつもりだったのかもしれない。だが、この状況では完全に逆効果。ブルックス銀行とラングフォード銀行からすれば、余計なお世話でしかない。
アドルフの爆弾発言に返答できないニックとアーサー。二人は黙って下を見ている。
そんなニックとアーサーの反応を見ていたルイーズ。「余計なこと言いやがって・・・」とボソッと言った。
それを聞いたアドルフは「なんだと?」と反応する。
臨戦態勢に入る二人。
そして、仲裁に入った方がいいか迷う、隣に座っている俺。
「経営に問題ない銀行が、公的資金を受け入れるわけないでしょ?」
「そんなこと、聞いてみないと分からないじゃないか」
「あの二人見たでしょ? どう見ても嫌がってるじゃない」
ルイーズはそう言うとニックとアーサーを指さした。
「人を指さすんじゃない! ニックとアーサーに失礼だろ!」
「どっちが失礼よ?」
―― あー、喧嘩が始まった・・・
この二人はどこでも喧嘩する。きっと、周りに誰がいようと関係ない。そのことを俺は理解した。
二人の口論は収まりそうにないから、俺はしかたなく仲裁に入る。
「まあまあ、ルイーズもお父さんも、落ち着いて」
「お前に『お父さん』と呼ばれる筋合いはない!」とアドルフ。
アドルフは今日も『お父さん』に敏感だ。
俺とルイーズが付き合っていないことは説明したはずだが、怒りで我を忘れている。
『俺、王子だし、大臣なんだけどな・・・』と思いながらも、俺は喧嘩を仲裁することを優先する。
「アドルフ、分かったから。とりあえず落ち着いて。ブルックス銀行とラングフォード銀行のことは、ブルックス銀行とラングフォード銀行に決めてもらえばいいんじゃないかな?」と俺は声のトーンを落としてアドルフに言った。
俺がアドルフを正面から見つめていたら、アドルフは少し冷静になった。
ルイーズも怒ってはいるが、特に言葉を発しない。
親子喧嘩は中断したようだ。
喧嘩が収まったので、様子見をしていたチャールズがニックとアーサーに質問した。
「公的資金を受け入れて、救済したいと思っているか?」
「思っていません!」ニックとアーサーは声を揃えて言った。
これで、民間銀行にセレナ銀行とロサリオ銀行を救済する意思がないことを確認できた。
これ以上議論してもしかたないから、今日の会議はこれで終了することになる。
「それでは、ジャービス政府でセレナ銀行とロサリオ銀行に対して公的資金を注入するか否かを検討することにする。会議は以上だ」とチャールズが言った。
こうして、セレナ銀行とロサリオ銀行の救済はジャービス政府主導で実施することになった。
―― ダブリン証券に引っかかった銀行が少なければいいな・・・
俺の希望はこれだけだ。