第4話 業界の評判を聞こう(その2)
文字数 1,534文字
(4) 業界の評判を聞こう <続き>
ポールはこのまま話続けると、本題を聞く前に時間切れになる可能性を悟った。今のポールには、ホラント証券のどの部署に配属されたかったかは、重要ではない。
思いのほか脱線してしまったことを後悔して、話を元に戻すためにクラールに言った。
「話の腰を折ってしまって申し訳ないだけど、劣後社債の方はどうなの?」
「劣後社債は投資不適格だから、販売するのは簡単じゃない。だから、フォーレンダム証券の営業力が必要なんだ。そのうち、ホラント証券も追いつかれそうな勢いだよ」
「フォーレンダム証券はそんなに営業が強いんだ。知らなかった。それに、フォーレンダム証券にとって劣後社債の販売はかなり重要なんだ・・・」
「とても重要だね。社運が掛かっている」
「へー。そうなんだ。ところで、幾つかの劣後社債の利払いがストップしていると聞いたのだけど、これに関しては何か知っている?」とポールはクラールに聞いた。
「知っているよ。個人的には、驚いている。この劣後社債は以前調べたことがあったから、商品設計は詳しく知っているのだけれど・・・」そう言って、クラールは話を続けた。
「普通社債と劣後社債の裏付けとなっている資産は住宅ローン債権だ。ここ数年の経済環境から推測すると、住宅ローン債権の貸倒率は高くても1%だ。社債の利払いに必要なキャッシュフローが不足するはずないと思う」
「どういうこと?」とポールはクラールに聞いた。
「住宅ローン債権からの元利金収入を基にして、普通社債と劣後社債の元利金を支払うよね。前に計算したら貸倒率が約3%(年率)までは、普通社債と劣後社債の元利金は100%支払えたはずなんだ」
「貸倒率は1%くらいなんでしょ?」
「実際には0.5%くらいじゃないかな。住宅ローンの環境は5年間くらい変わっていないから、ファンドの支払原資が不足するはずがないんだ」
「キャッシュフローが潤沢にあるのにデフォルト(債務不履行)している。原因は何だろう?」
「うーん。考えられるとすると、社債の早期償還条項に抵触して、キャッシュが一時的に不足したとか、かな?」とクラールは言った。
「そういえば、あれかな?劣後社債は発行会社に額面の70%で買取請求できる特約がある、と聞いた気がする」
「それじゃない?キャッシュが不足したのは、その買取請求かもしれないね」
「一気に買取請求がきて、キャッシュが一時的に不足したということか」ポールは利払い停止の理由が分かったような気がした。
「それにしても、元利金払いが滞るリスクは低いし、満期時に額面で償還されるはずだよね。なぜ30%もディスカウントして買取請求するんだろう?」とクラールは不思議そうに言った。
「分からないけど、劣後社債を買っているのが高齢者だから、孫にお年玉あげるのに換金しているとか?」
「はは。有り得ない話ではないね」
「それは冗談として、いろいろ教えてくれてありがとう。だいたい理解できたと思う。聞いた話をまとめると、こんな感じでいいかな?」といってポールはクラールに確認した。
①劣後社債は、商品自体は良くできていて、個人投資家の人気も高い。
②原資産が住宅ローン債権なので、ここ数年は元利金支払いに悪影響を及ぼすような事態は発生していないはずだ。
③なぜかキャッシュ不足で利息支払いが滞る状況が発生していて、その理由は劣後社債の買取請求権の行使によるものと推測される。
④誰が何の目的で買取請求しているかは、不明。
「それでいいと思う」とクラールは答えた。
「ありがとう。仕事頑張ってね、課長!」とポールがクラールに礼を言うと、クラールは「そっちもね、係長」と返した。
ポールは内部調査部に戻るため、ホラント証券を後にした。
ポールはこのまま話続けると、本題を聞く前に時間切れになる可能性を悟った。今のポールには、ホラント証券のどの部署に配属されたかったかは、重要ではない。
思いのほか脱線してしまったことを後悔して、話を元に戻すためにクラールに言った。
「話の腰を折ってしまって申し訳ないだけど、劣後社債の方はどうなの?」
「劣後社債は投資不適格だから、販売するのは簡単じゃない。だから、フォーレンダム証券の営業力が必要なんだ。そのうち、ホラント証券も追いつかれそうな勢いだよ」
「フォーレンダム証券はそんなに営業が強いんだ。知らなかった。それに、フォーレンダム証券にとって劣後社債の販売はかなり重要なんだ・・・」
「とても重要だね。社運が掛かっている」
「へー。そうなんだ。ところで、幾つかの劣後社債の利払いがストップしていると聞いたのだけど、これに関しては何か知っている?」とポールはクラールに聞いた。
「知っているよ。個人的には、驚いている。この劣後社債は以前調べたことがあったから、商品設計は詳しく知っているのだけれど・・・」そう言って、クラールは話を続けた。
「普通社債と劣後社債の裏付けとなっている資産は住宅ローン債権だ。ここ数年の経済環境から推測すると、住宅ローン債権の貸倒率は高くても1%だ。社債の利払いに必要なキャッシュフローが不足するはずないと思う」
「どういうこと?」とポールはクラールに聞いた。
「住宅ローン債権からの元利金収入を基にして、普通社債と劣後社債の元利金を支払うよね。前に計算したら貸倒率が約3%(年率)までは、普通社債と劣後社債の元利金は100%支払えたはずなんだ」
「貸倒率は1%くらいなんでしょ?」
「実際には0.5%くらいじゃないかな。住宅ローンの環境は5年間くらい変わっていないから、ファンドの支払原資が不足するはずがないんだ」
「キャッシュフローが潤沢にあるのにデフォルト(債務不履行)している。原因は何だろう?」
「うーん。考えられるとすると、社債の早期償還条項に抵触して、キャッシュが一時的に不足したとか、かな?」とクラールは言った。
「そういえば、あれかな?劣後社債は発行会社に額面の70%で買取請求できる特約がある、と聞いた気がする」
「それじゃない?キャッシュが不足したのは、その買取請求かもしれないね」
「一気に買取請求がきて、キャッシュが一時的に不足したということか」ポールは利払い停止の理由が分かったような気がした。
「それにしても、元利金払いが滞るリスクは低いし、満期時に額面で償還されるはずだよね。なぜ30%もディスカウントして買取請求するんだろう?」とクラールは不思議そうに言った。
「分からないけど、劣後社債を買っているのが高齢者だから、孫にお年玉あげるのに換金しているとか?」
「はは。有り得ない話ではないね」
「それは冗談として、いろいろ教えてくれてありがとう。だいたい理解できたと思う。聞いた話をまとめると、こんな感じでいいかな?」といってポールはクラールに確認した。
①劣後社債は、商品自体は良くできていて、個人投資家の人気も高い。
②原資産が住宅ローン債権なので、ここ数年は元利金支払いに悪影響を及ぼすような事態は発生していないはずだ。
③なぜかキャッシュ不足で利息支払いが滞る状況が発生していて、その理由は劣後社債の買取請求権の行使によるものと推測される。
④誰が何の目的で買取請求しているかは、不明。
「それでいいと思う」とクラールは答えた。
「ありがとう。仕事頑張ってね、課長!」とポールがクラールに礼を言うと、クラールは「そっちもね、係長」と返した。
ポールは内部調査部に戻るため、ホラント証券を後にした。