第8話 IFAに聞いてみよう(その1)
文字数 2,068文字
(8) IFAに聞いてみよう
内部調査部に戻った俺は、フォーレンダム証券とトルネアセットマネジメントから聞いた内容をメンバーに伝えた。
オウルとシモから話を聞いた限り、フォーレンダム証券とトルネアセットマネジメントからの話に不整合はなさそうだ。口裏を合わせている可能性もあるが、2社とも劣後社債の利払遅延で被害を受けているようだから、嘘を言う必要はないだろう。
俺はフォーレンダム証券とトルネアセットマネジメントのどちらかが怪しいと思っていたが、話を聞く限りどちらも劣後社債の利払遅延で得するとは思えない。
また、ルイーズの2社が結託している、という推理も外れのようだ。
俺の推理が外れていたことは、わざわざメンバーに言う必要がないので伏せておく。
浮かび上がった容疑者は『IFA』または『IFAの裏にいる誰か』だ。
IFAが今回の騒ぎ(劣後社債の利払遅延)を主導していることは間違いないから、容疑者として有力だ。IFAが劣後社債を40%ディスカウントで買うために、買取請求権を行使して利払いを遅延させているのかもしれない。
ただ、シモの話では、IFAは普通のおばさんのようだ。
でも、普通のおばさんにしか見えなくても、本当はお金持ちかもしれない。
お金持ちだからと言って、ブランドの服やバッグを持っているわけではない。
数十年前ならともかく、今のお金持ちはユニクロやGUを着る。グッチやシャネルのバッグは持たない。スパッツ(レギンス)にTシャツのままジムに行く。
普通のおばさんにしか見えないIFAに、10億JDを超える社債を買えるだけの財力があるのだろうか?
それに、そもそも普通のおばさんにしか見えないIFAに会ったところで、お金持ちかどうか俺に分かるだろうか?
実に悩ましい問題だ・・・。
もう一つの可能性として、普通のおばさんがお金持ちでなくて『IFAの裏にいる誰か』がいるかもしれない。
IFAの裏にいる誰かが、IFAを使って劣後社債の買取請求権を行使させているのだ。IFAの裏にいる誰かは劣後社債を40%ディスカウントで買えるから儲かるし、IFAはその誰かからお小遣いを貰える。
その誰かが今回の騒ぎ(劣後社債の利払遅延)を主導しているのか?
『IFAの裏にいる誰か』は直ぐに分からないから、とりあえず、IFAの3人に事情を聞く必要がありそうだ。
***
説明を終えた俺は、内部調査部のメンバーと今後の調査方針を打ち合わせすることにした。
調査の前提として、フォーレンダム証券とトルネアセットマネジメントが容疑者から外れたからだ。
「それにしても、犯人がIFAだったなんて驚きですね。てっきり、トルネアセットマネジメントが犯人だと思ってました」とミゲルが言った。
「私はフォーレンダム証券が怪しいと思っていました。劣後社債が売れるほど儲かりますから」とスミス。
「私はフォーレンダム証券とトルネアセットマネジメントの両方がグルだと思ってた」とルイーズ。
「部長は、誰が犯人だと思っていました?」とロイが俺に聞いてきた。
「うーん。どちらかは分からなかったけど、フォーレンダム証券とトルネアセットマネジメントのどっちかだと思ってた」と俺は答えた。
全員の推理が不正解だったのだから、俺の推理も間違っていてもいいだろう。
現時点ではIFAが犯人と決まったわけではない。先入観を持たずに調査を進めないと、同じ過ちを犯してしまうだろう。
「まだ犯人がIFAと決まったわけじゃないから、先入観を持たずに調査しないといけない。IFAが犯人だと決めつけるのは、危険だ。実際、フォーレンダム証券とトルネアセットマネジメントは犯人ではなかったからね」と俺はメンバーに注意を促した。
メンバーは俺の懸念を理解してくれたようだ。
「先入観を持たずに調査するのはいいけど、結局、犯人が見つからなかったら、どうするの?」とルイーズは言った。
「嫌なことを言ってくれるね。本当にどうしようかね?」と曖昧に答える俺。
「いつまでも調査するわけにもいかないでしょ。騒ぎを起こしたIFAを犯人として捕まえて、事件を解決すれば良くないかな?」とルイーズは言った。
ルイーズはこの事件に飽きてきたのだろう。
面倒くさいから『IFAを犯人にしてしまえ』と言っている。
法治国家ではあるまじき行為だ。
「見せしめとして捕まえるのは間違っているよ」と俺は言った。
「さすがに可哀そうですよ」とスミスもフォローする。
「それに、劣後社債の利払遅延のきっかけがIFAだったとしても、IFAは劣後社債の契約に従って買取請求を行っただけだ。違法性はないよね?」と俺はルイーズに説明する。
「それだと、事件は解決しない。マスコミに漏れて騒がれてもいいの?」
「いいわけないでしょ。嫌なこと言わないでよ。まあ、ここで議論しても事件は解決しないんだから、まずはIFAに話を聞いてみようよ」と俺はルイーズを諭した。
この会議では、とりあえずIFAに話を聞いてから、その先は決めようという結論になった。
<続く>
内部調査部に戻った俺は、フォーレンダム証券とトルネアセットマネジメントから聞いた内容をメンバーに伝えた。
オウルとシモから話を聞いた限り、フォーレンダム証券とトルネアセットマネジメントからの話に不整合はなさそうだ。口裏を合わせている可能性もあるが、2社とも劣後社債の利払遅延で被害を受けているようだから、嘘を言う必要はないだろう。
俺はフォーレンダム証券とトルネアセットマネジメントのどちらかが怪しいと思っていたが、話を聞く限りどちらも劣後社債の利払遅延で得するとは思えない。
また、ルイーズの2社が結託している、という推理も外れのようだ。
俺の推理が外れていたことは、わざわざメンバーに言う必要がないので伏せておく。
浮かび上がった容疑者は『IFA』または『IFAの裏にいる誰か』だ。
IFAが今回の騒ぎ(劣後社債の利払遅延)を主導していることは間違いないから、容疑者として有力だ。IFAが劣後社債を40%ディスカウントで買うために、買取請求権を行使して利払いを遅延させているのかもしれない。
ただ、シモの話では、IFAは普通のおばさんのようだ。
でも、普通のおばさんにしか見えなくても、本当はお金持ちかもしれない。
お金持ちだからと言って、ブランドの服やバッグを持っているわけではない。
数十年前ならともかく、今のお金持ちはユニクロやGUを着る。グッチやシャネルのバッグは持たない。スパッツ(レギンス)にTシャツのままジムに行く。
普通のおばさんにしか見えないIFAに、10億JDを超える社債を買えるだけの財力があるのだろうか?
それに、そもそも普通のおばさんにしか見えないIFAに会ったところで、お金持ちかどうか俺に分かるだろうか?
実に悩ましい問題だ・・・。
もう一つの可能性として、普通のおばさんがお金持ちでなくて『IFAの裏にいる誰か』がいるかもしれない。
IFAの裏にいる誰かが、IFAを使って劣後社債の買取請求権を行使させているのだ。IFAの裏にいる誰かは劣後社債を40%ディスカウントで買えるから儲かるし、IFAはその誰かからお小遣いを貰える。
その誰かが今回の騒ぎ(劣後社債の利払遅延)を主導しているのか?
『IFAの裏にいる誰か』は直ぐに分からないから、とりあえず、IFAの3人に事情を聞く必要がありそうだ。
***
説明を終えた俺は、内部調査部のメンバーと今後の調査方針を打ち合わせすることにした。
調査の前提として、フォーレンダム証券とトルネアセットマネジメントが容疑者から外れたからだ。
「それにしても、犯人がIFAだったなんて驚きですね。てっきり、トルネアセットマネジメントが犯人だと思ってました」とミゲルが言った。
「私はフォーレンダム証券が怪しいと思っていました。劣後社債が売れるほど儲かりますから」とスミス。
「私はフォーレンダム証券とトルネアセットマネジメントの両方がグルだと思ってた」とルイーズ。
「部長は、誰が犯人だと思っていました?」とロイが俺に聞いてきた。
「うーん。どちらかは分からなかったけど、フォーレンダム証券とトルネアセットマネジメントのどっちかだと思ってた」と俺は答えた。
全員の推理が不正解だったのだから、俺の推理も間違っていてもいいだろう。
現時点ではIFAが犯人と決まったわけではない。先入観を持たずに調査を進めないと、同じ過ちを犯してしまうだろう。
「まだ犯人がIFAと決まったわけじゃないから、先入観を持たずに調査しないといけない。IFAが犯人だと決めつけるのは、危険だ。実際、フォーレンダム証券とトルネアセットマネジメントは犯人ではなかったからね」と俺はメンバーに注意を促した。
メンバーは俺の懸念を理解してくれたようだ。
「先入観を持たずに調査するのはいいけど、結局、犯人が見つからなかったら、どうするの?」とルイーズは言った。
「嫌なことを言ってくれるね。本当にどうしようかね?」と曖昧に答える俺。
「いつまでも調査するわけにもいかないでしょ。騒ぎを起こしたIFAを犯人として捕まえて、事件を解決すれば良くないかな?」とルイーズは言った。
ルイーズはこの事件に飽きてきたのだろう。
面倒くさいから『IFAを犯人にしてしまえ』と言っている。
法治国家ではあるまじき行為だ。
「見せしめとして捕まえるのは間違っているよ」と俺は言った。
「さすがに可哀そうですよ」とスミスもフォローする。
「それに、劣後社債の利払遅延のきっかけがIFAだったとしても、IFAは劣後社債の契約に従って買取請求を行っただけだ。違法性はないよね?」と俺はルイーズに説明する。
「それだと、事件は解決しない。マスコミに漏れて騒がれてもいいの?」
「いいわけないでしょ。嫌なこと言わないでよ。まあ、ここで議論しても事件は解決しないんだから、まずはIFAに話を聞いてみようよ」と俺はルイーズを諭した。
この会議では、とりあえずIFAに話を聞いてから、その先は決めようという結論になった。
<続く>