第4話 家族会議(その2)

文字数 1,738文字

(4)家族会議 <続き>

 ジャービス国王はチャールズから通貨危機のことを聞かされて、心配になってきたようだ。
 俺は、国王がジャービス・ドル安に過敏になり過ぎるのもどうかと思ったから、チャールズの説明を補足することにした。

「国王。チャールズ兄さんが言ったように、ジャービス・ドルが安くなるとデメリットはありますけど、逆にメリットもありますよ」と俺は言った。

「メリット? どういうことだ?」と国王は俺に言った。

「例えば、ジャービス国内の農家をイメージして下さい」

「国内農家ね。作った農作物を国内販売しているけど、外国にも輸出しているな」

「その輸出です。ジャービス・ドルが安くなって1米ドル=100JDから1米ドル=150JDになったとします。国内の農家が1億JDで生産していた農作物は、ジャービス・ドルが安くなっても1億JDで生産できます。国内の農作物の生産費用はジャービス・ドルだけで完結するので、為替レートが変動しても関係ありません」

※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円と考えて下さい。

「もちろんだ。農家は従業員に米ドルで給料を払ったりしないからな」

「そうです。次に、1億JDで生産した農作物をジャービス・ドル建てで米国に輸出した場合をイメージして下さい。1米ドル=100JDの時、米国企業は100万米ドル(1億JD÷100JD/米ドル)で購入します。1米ドル=150JDの時は、米国企業は約67万米ドル(1億JD÷150JD/米ドル)で購入します」

「米国企業からすると割安感があるなー」と国王は言った。

「そうです。ジャービス・ドルでは同じ販売価値でも、米国ではジャービス王国の農作物や製品が安く買えるようになるので、よく売れるようになります」

「輸出量が増えるな」

「そうです。輸入量が増えたらジャービス王国の農家は儲かります」

「そうだな。儲かるな」

「もし、農作物の取引が米ドル建てだった場合、米ドルの販売価格を下げる必要はありません。ジャービス・ドルが安くなっても、米国企業はジャービス王国の農作物を100万米ドルで買うでしょう。そうすると、1億JD(100万米ドル×100JD/米ドル)だった売上が1億5,000万JD(100万米ドル×150JD/米ドル)に増えます」

「ジャービス・ドル安になっただけで、ジャービス国内の農家は50%も儲かるのか・・・」

「そうです。だから、輸出産業にとって、ジャービス・ドルはこの上ない追い風なんです」と俺は言った。

「輸出が儲かるのは分かった。ジャービス・ドルが安くなって損する場合もあるのだろう?」

「もちろんです。外国から商品を輸入している業種は仕入価格が上がります。消費者への販売価格に転嫁できなかったら、損失が発生します」

「メリットもデメリットもあるということか・・・」

「そうですね。業態によって違います。例えば、業種ごとに為替相場の影響を比較したらこんな感じです」

 俺はそう言って、業種ごとの為替相場の影響(図表7-3)を書いた。

【図表7-3:業種による為替相場の影響(例示)】



※上記はJDで説明をしていますが、日本円でも同じことがいえます。

「ジャービス・ドルが安くなって得する業種は、#2:製造業(現地型:海外製造・海外販売)と#3:製造業(輸出型:国内製造・海外販売)です。海外で販売する企業は外貨建ての売上や利益が計上されるので、ジャービス・ドルに換算した時に売上や利益が増加します。ちなみに、ジャービス王国の農作物輸出もこのタイプです」

「そうだな」

「ジャービス・ドルが高くなって損する業種は、#1:小売業、#4:製造業(輸入型:海外製造・国内販売)です。海外から商品や部品を輸入している企業は、ジャービス・ドル建ての売上原価が増加するので利益が減少します」

「ジャービス・ドルが安くなって、喜んでいる人と怒っている人がいる。これは判断が難しいな・・・」
 国王は俺が書いた比較表を見ながら言った。

「通貨危機まで行くと危険でしょうけど、ジャービス・ドルが安くなることは別に悪いことではないんです」と俺は国王に言った。

 これで国王がジャービス・ドル安に対して過敏になり過ぎることはないはずだ。

<続く>
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登場人物紹介

ダニエル:ジャービス王国の第4王子。総務大臣。

ルイーズ:総務省 内部調査部 課長代理

ジェームス:ジャービス王国第1王子。軍本部 総司令

チャールズ:ジャービス王国の第2王子。内務大臣。

アンドリュー:ジャービス王国の第3王子。外務大臣。

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