第5話 暗号資産交換業者(その1)
文字数 1,912文字
(5) 暗号資産交換業者
俺たちは、ジャービット・コインの調査を進めるために、同業者(暗号資産交換業者)から暗号資産業界の情報を集めるとともに、ジャービット・エクスチェンジの評判を聞いてまわった。
暗号資産の発行会社はジャービス王国内にはない。
ジャービス王国内にあるのは全て暗号資産交換業者だ。暗号資産交換業者は他社が発行した暗号資産を取引所として取り扱う。
内部調査部のメンバーが会った暗号資産交換業者の経営者は大きく2タイプに分かれていた。
大企業が暗号資産交換業を始めるために親会社から出向してきた経営者(雇われ社長)と、流行りで始めたビジネスマンらしくない経営者だ。
ベンチャー企業とはそういうものだろう。
話を聞いていると、大企業で暗号資産交換業に参入してきたのはFX(外為証拠金取引)業者が多そうだ。FXと暗号資産はビジネスモデルが似ているのだろう。
暗号資産の市場には『暗号資産が儲かりそうだ!』と思った投資家が参加してくる。
暗号資産交換業はネット上の遊び場を提供するプラットフォームだ。投資家は暗号資産取引で儲かったり損したりしながら売買を楽しむ。そして、遊び疲れた投資家は退出していく。
話を聞いた限り、暗号資産交換業者は対面での業務はほとんど行っておらず、主な集客方法はインターネット広告だった。
このビジネスのポイントは、暗号資産を発行しても投資家が売買しないとその暗号資産に何の価値もないことだ。市場の流動性が重要であることは、上場株式取引や外国通貨取引と同じだ。
暗号資産交換業者は暗号資産を取引する投資家を集めるために、有名人を広告塔にしたり、投資サロンで暗号資産投資を勧めてもらったり、様々な方法を駆使している。
暗号資産交換業者の中には自社で暗号資産を発行している場合もある。ただし、全体の割合としては少ない。
理由は暗号資産を発行しても、維持コストが高いから儲からないからだ。詐欺の資金集めに暗号資産を使うならともかく、真面目にビジネスとして暗号資産を発行するのは効率性が悪いらしい。それに、既に有名な暗号資産が市場に溢れている。投資家はわざわざ新しく出てきた知らない暗号資産に投資しようとは思わないだろう。暗号資産を発行するメリットはあまりなさそうだ。
暗号資産交換業者から話を聞いていると、ますますジャービット・エクスチェンジがよく分からなくなってきた。
何のためにジャービット・コインを発行しているのか?
どういう奴らが関わっているのか?
考えても仕方ないので、直接会って確かめてみようと俺は考えた。
***
暗号資産交換業の経営者にヒアリングしても、ジャービット・エクスチェンジのことはよく分からなかった。調査の方向性が見えないが、動いてみないと分からないこともある。
だから、俺、スミス、ガブリエルの3人はジャービット・エクスチェンジに訪問した。
よく分からないから『会って聞いてみよう作戦』だ。
やけくそに近い・・・。
ジャービット・エクスチェンジには、『政府で暗号資産を研究していて、暗号資産交換業者から情報を集めている』という理由で訪問している。
嘘は言っていない。
嘘ではないが、物は言いようだ。
会議室に入ると3名の年配の男性が出てきた。
見た感じでは、全員70歳は超えているだろう。
今まで面談した暗号資産交換業者と比べると、ジャービット・エクスチェンジの年齢層は高そうだ。
「はじめまして。総務省のダニエルです。ジャービス政府は、暗号資産の研究をしていて情報を集めています。その一環で御社に伺いました。隣に座っているのはスミスとガブリエルです」
俺の自己紹介を聞いて社長のホセが自己紹介をした。
まず、俺はジャービット・エクスチェンジの3人に会社を始めた経緯を質問した。
「まず、ジャービット・エクスチェンジの設立の経緯を教えて下さい」
「私たちは、以前はカルタゴ証券という小規模な証券会社に勤務していました。カルタゴ証券は上場株式と未公開株式の取り扱いがメインの業務でした。ご存じかどうか分かりませんが『実態のない会社の未公開株式を販売している!』と何度か問題になったことがあります」と社長のホセは言った。
「そういえば、数年前に未公開株の販売が問題になった証券会社がありましたね。名前は憶えていませんが、それがカルタゴ証券でしたか・・・」
「そうです。その時にレピュテーション(評判)が悪くなって、カルタゴ証券は結局倒産しました。当時は、上からの指示で未公開株式を売れと言われ、電話リストの上から順番に電話していたのを覚えています」とホセは懐かしそうに言った。
<続く>
俺たちは、ジャービット・コインの調査を進めるために、同業者(暗号資産交換業者)から暗号資産業界の情報を集めるとともに、ジャービット・エクスチェンジの評判を聞いてまわった。
暗号資産の発行会社はジャービス王国内にはない。
ジャービス王国内にあるのは全て暗号資産交換業者だ。暗号資産交換業者は他社が発行した暗号資産を取引所として取り扱う。
内部調査部のメンバーが会った暗号資産交換業者の経営者は大きく2タイプに分かれていた。
大企業が暗号資産交換業を始めるために親会社から出向してきた経営者(雇われ社長)と、流行りで始めたビジネスマンらしくない経営者だ。
ベンチャー企業とはそういうものだろう。
話を聞いていると、大企業で暗号資産交換業に参入してきたのはFX(外為証拠金取引)業者が多そうだ。FXと暗号資産はビジネスモデルが似ているのだろう。
暗号資産の市場には『暗号資産が儲かりそうだ!』と思った投資家が参加してくる。
暗号資産交換業はネット上の遊び場を提供するプラットフォームだ。投資家は暗号資産取引で儲かったり損したりしながら売買を楽しむ。そして、遊び疲れた投資家は退出していく。
話を聞いた限り、暗号資産交換業者は対面での業務はほとんど行っておらず、主な集客方法はインターネット広告だった。
このビジネスのポイントは、暗号資産を発行しても投資家が売買しないとその暗号資産に何の価値もないことだ。市場の流動性が重要であることは、上場株式取引や外国通貨取引と同じだ。
暗号資産交換業者は暗号資産を取引する投資家を集めるために、有名人を広告塔にしたり、投資サロンで暗号資産投資を勧めてもらったり、様々な方法を駆使している。
暗号資産交換業者の中には自社で暗号資産を発行している場合もある。ただし、全体の割合としては少ない。
理由は暗号資産を発行しても、維持コストが高いから儲からないからだ。詐欺の資金集めに暗号資産を使うならともかく、真面目にビジネスとして暗号資産を発行するのは効率性が悪いらしい。それに、既に有名な暗号資産が市場に溢れている。投資家はわざわざ新しく出てきた知らない暗号資産に投資しようとは思わないだろう。暗号資産を発行するメリットはあまりなさそうだ。
暗号資産交換業者から話を聞いていると、ますますジャービット・エクスチェンジがよく分からなくなってきた。
何のためにジャービット・コインを発行しているのか?
どういう奴らが関わっているのか?
考えても仕方ないので、直接会って確かめてみようと俺は考えた。
***
暗号資産交換業の経営者にヒアリングしても、ジャービット・エクスチェンジのことはよく分からなかった。調査の方向性が見えないが、動いてみないと分からないこともある。
だから、俺、スミス、ガブリエルの3人はジャービット・エクスチェンジに訪問した。
よく分からないから『会って聞いてみよう作戦』だ。
やけくそに近い・・・。
ジャービット・エクスチェンジには、『政府で暗号資産を研究していて、暗号資産交換業者から情報を集めている』という理由で訪問している。
嘘は言っていない。
嘘ではないが、物は言いようだ。
会議室に入ると3名の年配の男性が出てきた。
見た感じでは、全員70歳は超えているだろう。
今まで面談した暗号資産交換業者と比べると、ジャービット・エクスチェンジの年齢層は高そうだ。
「はじめまして。総務省のダニエルです。ジャービス政府は、暗号資産の研究をしていて情報を集めています。その一環で御社に伺いました。隣に座っているのはスミスとガブリエルです」
俺の自己紹介を聞いて社長のホセが自己紹介をした。
まず、俺はジャービット・エクスチェンジの3人に会社を始めた経緯を質問した。
「まず、ジャービット・エクスチェンジの設立の経緯を教えて下さい」
「私たちは、以前はカルタゴ証券という小規模な証券会社に勤務していました。カルタゴ証券は上場株式と未公開株式の取り扱いがメインの業務でした。ご存じかどうか分かりませんが『実態のない会社の未公開株式を販売している!』と何度か問題になったことがあります」と社長のホセは言った。
「そういえば、数年前に未公開株の販売が問題になった証券会社がありましたね。名前は憶えていませんが、それがカルタゴ証券でしたか・・・」
「そうです。その時にレピュテーション(評判)が悪くなって、カルタゴ証券は結局倒産しました。当時は、上からの指示で未公開株式を売れと言われ、電話リストの上から順番に電話していたのを覚えています」とホセは懐かしそうに言った。
<続く>