第5話 借地権制度の問題点を解決しろ(その4)

文字数 2,122文字

(5)借地権制度の問題点を解決しろ <続き>

 ガブリエルは、内部調査部で作った会社(i4)で、不動産の競売物件を継続的に取得している。だから、俺たちが底地を買取るという発想も自然に出てきたのだろう。
 底地の買取りでテンションが高くなっているガブリエルに、俺は確認する。

「うちで買取るの?」俺はガブリエルに聞いた。

「相続で揉めそうな底地を買取ってしまえば、底地権者と借地権者が揉める原因を少しは減らせると思います。それに、MJの社債の発行要項を見たときに思ったのですが、ジャービス王国の底地の利回りがあそこまで高いとは思っていませんでした。だから、うまく底地を購入できればそれなりに利益が出ると思います」

「確かに、俺もそれは思った。地代って安いと思っていたけど、あの物件は利回りが高くてびっくりした。ロバートがMJに売却した底地は、地代が年間6,000万JD、固定資産税等が年間2,000万JDだから物件純収益(NOI:Net Operating Income)が4,000万JDだ。
底地の譲渡価格が3億JDだったから、キャップレート(年間利回り)に換算したら13.3%(=4,000万JD÷3億JD)。ロバートの父親は更地を10億JDで取得したから、キャップレートは年率4%(=4,000万JD÷10億JD)だったけど、底地で取得したら一気に利回りが跳ねあがった」

※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円と考えて下さい。

「そうなんです。全ての底地が高利回りではないと思いますが、MJの取得した物件は、底地とはいえ土地で10%を超えるキャップレートです。凄いと思いませんか?」とガブリエルは言った。

「凄い! 凄いと思う」

「それに、さっき部長が計算したNOIはあくまで民間企業や個人が底地を取得した場合の利回りです。僕たちはジャービス政府なんですから、支払う固定資産税等もジャービス王国に入る収入ですよね。だから、僕たちのNOIは地代と同じ年間6,000万JD、キャップレートは20%(=6,000万JD÷3億JD)です」

「土地なのにキャップレートが20%か・・・。人助けもできるし、俺たちも儲かるし、良いこと尽くしだな」

「そうなんです。でも、取得する物件は絞っていかないといけません」

「そうだな。路線価と実勢価格は違うからな」

 俺とガブリエルの心が完全に底地買取りに傾いているところ、ロイが「ちょっといいですか?」と入ってきた。

「どうしたの?」

「MJが取得した底地は、相続税対策でロバートの父親が買った更地ですよね。実勢価格と路線価が違うと何か問題があるんですか?」

「問題あるね。まず、実勢価格は普通に売買されている不動産価格だけど、路線価は相続税や固定資産税を計算する価格。だから、実勢価格と路線価は一致しない。これは分かる?」

※本話では路線価を分けずに書いていますが、日本において『路線価』と言った場合、正しくは『相続税路線価』と『固定資産税路線価』の2種類があります。相続税路線価は公示価格の80%、固定資産税路線価は公示価格の70%とされています。ちなみに、公示価格とは地価公示の価格です。

「それは分かります」

「実勢価格と路線価を比較した場合、一般的に都会では実勢価格が路線価よりも高い。逆に地方では実勢価格が路線価と同じか低い水準にある。具体的にはこんな感じかな」

 俺はそう言ってホワイトボードに図(図表10-16)を書いた。


【図表10-16:都会と地方の更地価格と底地価格】

 


※上記は借地権割合を50%として底地価格を計算しています。


「まず、都会の更地の実勢価格(売買価格)が路線価の2倍、地方の更地の実勢価格が路線価と同じとする。この図だと、都会の更地は200の価値があるけど、路線価(相続税評価額)は100だ。つまり、この土地(更地)を購入すれば相続税評価額を100(=200-100)下げることができる」

「そうですね」

「一方、地方の更地は100の価値で、路線価(相続税評価額)は100だ。つまり、この土地(更地)を購入しても相続税評価額を変わらない。節税効果がないんだ」

「たしか・・・、ロバートの父親がラヴァル不動産から買った更地は、実勢価格と路線価が同じでしたよね?」ロイが俺に質問した。

「そうだね。節税効果がない土地だから、底地にして相続税評価額を下げようとしたんだ。でも、実勢価格も下がるから意味がないよね」

「意味がないですね。じゃあ、節税効果がない土地を、なぜラヴァル不動産は売ったんですか?」

「なんて言うかな・・・。素人だったら『相続税対策です!』って言ったら買ってくれるよね。だからかな」

「詐欺みたいな話ですね」

「まあそうだけど、実際多いと思うよ」

 ロイが理解したようだから、俺は話を続ける。

「話を続けると、俺たちが購入対象にすべき底地は、主に都会の底地ではなくて地方の底地だ。都会の底地は実勢価格が高いから利回りが悪くなるからね」

「じゃあ、買取対象になりそうな底地を探してきましょうか?」とガブリエルは言った。

「そうだね。よろしく!」

 こうして俺たちは、底地を買取る準備を開始した。
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登場人物紹介

ダニエル:ジャービス王国の第4王子。総務大臣。

ルイーズ:総務省 内部調査部 課長代理

ジェームス:ジャービス王国第1王子。軍本部 総司令

チャールズ:ジャービス王国の第2王子。内務大臣。

アンドリュー:ジャービス王国の第3王子。外務大臣。

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