第5話 世論調査(その2)

文字数 1,509文字

(5)世論調査 <続き>

※ここでは説明の都合上、ジャービス・ドル(JD)と比較する外国通貨は米ドルとし、為替レートは「1米ドルを何JDで交換できるか(例えば、130JD/米ドル)」という表示方法で説明します。


 俺は内部調査部のメンバーを集めて、国民と企業へのアンケート結果を説明した。
 アンケート結果は俺が想定した通りの結果だったが、この結果をもとに対応策を考えないといけない。

 内部調査部でのミーティングが始まると、ミゲルが挙手した。

「どうしたの?」と俺はミゲルに言った。

「部長。私の不勉強で申し訳ないのですが・・・今回のジャービス・ドル安は先進諸国が利上げしたのが主な理由、ということでいいんですか?」

「そうだね。1年前の米ドル金利は1%だったんだけど、今の米ドル金利は4%だ。一方、ジャービス・ドル金利は3%のまま。ジャービス・ドルよりも米ドルの方が金利は高いから、預金している人はジャービス・ドルを売って、米ドルを買う。つまり、売られたジャービス・ドルは安くなる(JD安)」

 俺はホワイトボードに図(図表7-1)を書いてミゲルに説明した。

【図表7-1:通貨安の理由(再掲)】
 


※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円としています。


「ジャービス・ドルが安くなる。ということは、今まで1米ドル=100JDで買えたのが、1米ドル=150JDでないと買えなくなる。為替レートは上がるのですよね?」とミゲルは図を見ながら言った。

「そうだよ。為替レートは上がっているのに、通貨としては安くなっている。逆だから慣れるまで混乱するかもね」

「そうなんですよー。逆なので混乱します」ミゲルは言った。

「まあ、そこは慣れるしかないね。話を続けると、為替相場は基本的に人気投票と同じだ」

「人気投票ですか?」

「人気が高い(高い金利がもらえる)通貨の価値が上がり、人気が低い(低い金利しかもらえない)通貨の価値は下がる。そういうこと」

「金利の影響ですか・・・。ここ1年間で、実際には1米ドル=105JDから1米ドル=140JDになりました。為替レートは30%以上も上昇しています」

「そうだね」

「今回の場合、金利が高い通貨(米ドル)が買われ、金利が低い通貨(ジャービス・ドル)が売られたから、為替レートが上がるのは何となく理解できます。でも、なぜ為替レートの変動率は10~20%ではなく、40%だったんですか?」とミゲルは俺に質問した。

「おー、鋭いところを突いてくるなー。幾つか理由はあるんだけど・・・何が説明しやすいかな?」

 俺はそう言って、ミゲルが理解しやすい説明を考えた。

「ミゲルはフォワードレートを知ってる?」と俺は聞いた。

「フォワードレートですか?」

 ミゲルは知らなさそうだ。他のメンバーも知らないかもしれないから、俺は説明することにした。

「為替レートは2種類ある。スポットレートとフォワードレートだ」

「スポットレートとフォワードレート?」

「簡単に言うと、スポットレートは今(現時点)の為替レートだ。フォワードレートは将来時点の為替レートだね」

 俺はスポットレートとフォワードレートの比較表(図表7-5)をホワイトボードに書いた。


【図表7-5:スポットレートとフォワードレートの比較】



 ミゲルたちがホワイトボードを見ているから俺は説明を続ける。

「ちなみに、さっきの金利によって為替レートが変動する説明(図表7-1)は、スポットレートについての話だ。フォワードレートは、将来の為替レートだから、一定期間その通貨を保有する時間的価値を加味する必要がある」

「時間的価値ですか?」とミゲルは言った。

 <続く>
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登場人物紹介

ダニエル:ジャービス王国の第4王子。総務大臣。

ルイーズ:総務省 内部調査部 課長代理

ジェームス:ジャービス王国第1王子。軍本部 総司令

チャールズ:ジャービス王国の第2王子。内務大臣。

アンドリュー:ジャービス王国の第3王子。外務大臣。

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