第6話 証券会社に聞いてみよう(その2)

文字数 1,933文字

(6) 証券会社に聞いてみよう <続き>

「経緯は、人員不足だったのですね」

「そうです。劣後社債の販売でもIFAは活躍しています。IFAには劣後社債の販売手数料が入りますし、当社の手数料は他社よりも高いので、当社のIFAとして登録したい人は多いんです」

「人気なんですね。でも、IFAになりたいと言っても、誰でもIFAになれるわけではないですよね?」と俺はオウルに質問した。

「もちろんです。IFAは営業に必要な専門知識を有している必要があります。実際に当社のIFAに応募してくる人は、主に金融機関での勤務経験者、いわゆるOBの人たちです。元々、基本的な金融知識はあって、さらに専門知識とコンプライアンス順守の観点から、IFAとして登録する際に研修を実施しています。IFAの登録後は2年ごとに研修を実施しています」

「そうすると、IFAは社債に関して、専門的な知識を有していると考えているわけですね」

「社債の販売に関して、知識やコンプライアンスに関しては問題ありません。社債だけでなく、投資信託や株式に関しても専門的な知識を有しているIFAも多いため、当社や他の証券会社の営業とも遜色ないでしょう」

「そうですか。レベルが高いのですね」

「私自身も不思議だったのですが、やる気が凄いのです。当社のIFAになる人は金融機関を退職して何十年か経っています。金融知識はほとんど忘れているはずなのに、一度経験した分野や興味のある分野については知識習得が早いのかもしれません。それに、当社とは関係なくIFAの間で個別に勉強会も開催しているようなので、非常に勉強熱心な人が多いのでしょう」

「みなさん熱心なのですね」

 オウルの話を鵜吞みにしてはいけないが、話しぶりから推測するとIFAのレベルは悪くなさそうだ。次に、俺は買取請求権のことを質問することにした。

「ところで、販売した劣後社債をIFAが買取る場合があると伺ったのですが、どういう仕組みなのでしょうか?」

「買取請求権のことですね。トルネアセットマネジメントと当社の間の契約では、弊社が保有する劣後社債を発行会社に額面の70%で売却できる買取請求権が設定されています。これは、当社が引受けした社債を売却しないといけない場合のために、設定した契約条項です」

「御社では、どういう場合に買取請求権を利用するのですか?」

「当社で利用するのは自己資本規制比率の関連でしょうか。証券会社は自己資本規制比率を毎日計算して、一定の比率を下回ったら当局への報告など対応が必要になります。自己資本規制比率の計算上、劣後社債はインパクトが大きいので長期間保有することができません」

 ※自己資本規制比率とは金融商品取引業者の経営の健全性を測る指標です。『固定化されていない自己資本の額÷リスク相当額』で計算します。

「そうすると、損切しても自己資本規制比率を改善させたい場合に利用する、ということですか?」

「まさに、そういうことです。例えば、自己資本規制比率が140%を下回りそうな時に、劣後社債を買取ってもらう可能性はあるでしょう」

「それで、今回のケースではIFAも買取請求権を行使していると聞きましたが?」

「買取請求権は、弊社が販売を再委託するIFAにも適用されることになっているため、IFAはこの条項を利用して保有する劣後社債を発行会社に売却しているのです」とオウルは答えた。

「へー、そういう契約なんですね」

 オウルの話から、買取請求権は元々は証券会社の簿残(ぼざん:売れ残りのこと)を売却するもののようだ。
 そうすると、それをIFAが悪用しているのだろうか?

 俺は、社債買取時のディスカウントについてオウルに質問した。

「それで、社債保有者が資金化したいと思った時は、社債保有者はIFAに額面の60%で売却して、IFAが発行会社に額面の70%で売却していると聞きました(図表3-1-2参照)。この額面の60%も何か根拠があるのでしょうか?」

 【図表3-1-2:劣後社債の買取りの流れ(再掲)】



「額面の60%というのは、私は知りません」

「そうなんですか?」

「初耳です。想像ですが、IFAが損しないために、独自に設定しているのではないでしょうか。IFAがそれぞれ違ったディスカウント率で買い取ると、問題になる可能性があるので、IFAの間でディスカウント率を統一したのではないでしょうか?」

「あり得る話ですね」

「それと、劣後社債は譲渡制限がないため、誰に売っても構いません。もしIFAよりも劣後社債を高く買ってくれる人がいれば、社債保有者はその人に売ればいいのです」

 俺はますます分からなくなった。
 だったら、高齢者はなぜIFAに社債を売るんだろう?

 <続く>
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登場人物紹介

ダニエル:ジャービス王国の第4王子。総務大臣。

ルイーズ:総務省 内部調査部 課長代理

ジェームス:ジャービス王国第1王子。軍本部 総司令

チャールズ:ジャービス王国の第2王子。内務大臣。

アンドリュー:ジャービス王国の第3王子。外務大臣。

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