第12話 会社に提案しにいこう(その2)

文字数 1,380文字

(12)会社に提案しにいこう <続き>

 私たちが会議室に入ると、ホセたち役員3人と弁護士のビルが先に来ていた。
 ダニエルがはじめに会議室に入ったが、4人は「こんにちは」と言っただけで特に驚いた様子はない。
 続いて、私、ロイとポールが部屋に入った。

 ジャービット・エクスチェンジへの提案を始めるにあたって、先に用意した資料を配布した。ロイとポールが4人に資料を渡している間、私はホセたちの表情を覗っていた。
 しかし、4人は特に何事もない、いたって普通の反応しかしない。
 ひょっとして、ダニエルが来ることを知っていたのだろうか?

 私は我慢できなくなって、ジャービット・エクスチェンジの4人に聞いてみた。

「今日はダニエルと一緒に訪問しましたが、みなさんは特に驚かないのですね?」

「ええ特には・・・。事前に当社に送付いただいた御社の登記簿謄本を見ていますから。会社の本店所在地(住所)が総務省と同じでしたから『そういうことかな?』と思っていました」とホセは答えた。

「えっ?」と思わず私は声を上げた。

「俺も知ってたよ。CA(守秘義務契約書)の内容をチェックしてくれって、ルイーズが持ってきた時、i5の住所が総務省だったもの。だから『バレてるだろうな~』と思ってた」とダニエルも言った。

「なんでその時に教えてくれなかったの?」

「だって、登記簿謄本の本店所在地(住所)を変更しても、変更履歴は表示されるでしょ。もしルイーズに教えたら、i6を作ると言い出しそうだしね・・・」とダニエルは言った。

「ごめん。私も気づいてた。だって、名刺の住所、電話番号、メールアドレスが全部総務省のだもの」とロイが言う。

「僕もです。すいません!」ポール、お前もか。

 私は記憶を遡る。
 確かi5を設立したのは、ジャービット・エクスチェンジの民事再生の適用申請よりもずっと前だ。
 i2~i4の住所は総務省と同じだったので、i5の住所も総務省と同じにしたことは覚えている。
 自宅をi5の住所にすると登記簿謄本で公表されてしまう。だから、自宅をi5の住所にするのは絶対に避けたい。
 他にi5の住所を借りると費用が掛かるから総務省にしたはずだ。
 それに、他の人がi5の住所を見ても、そこが総務省だと分からないと思っていた。

 ダニエル、ロイ、ポールがi5の住所が総務省だと分かるのは、そこで働いているから当然だ。
 一方、ホセたちは総務省で働いていない。総務省の住所を知らないはずだ。

 なぜi5の住所が総務省と同じだと分かったのだろう?

 私は自分の名刺に書いてある住所を見た。

 “ジャービス市インペリアル・プレイス1丁目1番地”

 やはり『1丁目1番地』は目立つのか?
 それとも、Google Mapに住所を打ち込んで検索したのか?

 分からない・・・

 私は、なぜホセたちが分かったか聞いてみたい衝動にかられた。
 しかし、今そこを詮索しても仕方ない。

 なぜなら、私はスポンサーとしてジャービット・エクスチェンジに提案するために、ここに来ているからだ!

 私は謎を突き止めるのを諦めて、ジャービット・エクスチェンジへの提案を始めることにした。

「これ以上この話をしても仕方ないので、会議を始めましょう」と私は参加者全員に言った。

 全員黙ったまま頷いた。
 きっと私に気を使っているのだろう。

 みんないい人だ・・・

 <続く>
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登場人物紹介

ダニエル:ジャービス王国の第4王子。総務大臣。

ルイーズ:総務省 内部調査部 課長代理

ジェームス:ジャービス王国第1王子。軍本部 総司令

チャールズ:ジャービス王国の第2王子。内務大臣。

アンドリュー:ジャービス王国の第3王子。外務大臣。

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