第8話 伝説の財務コンサルタントの末路

文字数 987文字

(8)伝説の財務コンサルタントの末路

 セレナ銀行とロサリオ銀行の救済を議論してから6カ月が経過した。

 民間銀行はセレナ銀行とロサリオ銀行を救済できないから、結局はジャービス政府が優先株式を2行に出資して救済することになった。
 セレナ銀行とロサリオ銀行の経営陣は責任をとって辞任し、新しい役員は大手銀行の役員経験者が就任した。銀行が保有していた不良債権は、内務省がサービサー法を制定し国営サービサーを設立、そこで買取ることで処理した。

 不良債権の処理が片付いた後、ジャービス政府は政策金利の引下げを発表した。
 金利引き下げによって多くの銀行が抱えていたジャービス国債と米国債の含み損は一掃され、銀行の経営危機は遠のいた。
 経営危機を回避したことによってセレナ銀行とロサリオ銀行の株価が上昇した。ジャービス政府が出資した優先株式は普通株式に転換後に市場で売却して回収する予定だ。

 ちなみに、ダブリン証券の飛ばしスキームを内務省が調べたところ、セレナ銀行とロサリオ銀行以外に採用していた銀行は、ハリソン銀行とボスコ銀行の2行だけだった。この2行については、不良債権を処分しても債務超過にならなかったため、ジャービス政府は公的資金を注入せずに済んだ。
 ハリソン銀行とボスコ銀行についても金利低下によって保有していたジャービス国債と米国債の含み損は解消されたため、今は経営を持ち直している。

 ジャービス王国の金融システムが安定するまでしばらく掛かるだろうが、銀行の救済は今のところ成功している。

 今回の件は内部調査部の案件と言えるかどうかは分からないが、金融システムの崩壊を食い止めたから勝ちとしておこう。


***

 俺が内部調査部に入ったらミゲルが「部長、見て下さい」と言って、タブレットを差し出した。ニュース記事が表示されている。

“伝説の財務コンサルタント ジョーダンを逮捕!”

 エンロンの元幹部でリーマン・ショックの時に金融商品を作って金融機関の損失を回避していた有名な財務コンサルタント。
 都市伝説だと思っていたが、本当に実在したようだ。

―― こんな小さな国に来なくてもいいのに・・・

 ミゲルは嬉しそうに話を続ける。

「有名になり過ぎて、仕事がなくなったみたいですよ」

「へー」

「それで、流れ流れて、ジャービス王国・・・」

「売れない演歌歌手みたいだな・・・」

<第8回活動報告:終わり>
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登場人物紹介

ダニエル:ジャービス王国の第4王子。総務大臣。

ルイーズ:総務省 内部調査部 課長代理

ジェームス:ジャービス王国第1王子。軍本部 総司令

チャールズ:ジャービス王国の第2王子。内務大臣。

アンドリュー:ジャービス王国の第3王子。外務大臣。

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