第1話 ジョーダンの逃亡(その2)

文字数 1,942文字

(1)ジョーダンの逃亡 <続き>


 俺はジョーダンのSDGs詐欺について、ルイーズから詳しく内容を聞くことにした。
 SDGsは範囲が広い。だから、ジョーダンが何をターゲットにして詐欺をしているのかを把握しておく必要がある。
 現時点では内部調査部の調査案件になるかは微妙なのだが。

 最近は事件の規模が大きすぎた。本来、内部調査部はジャービス王国の危機を対応する部署ではない。だから、俺個人としては規模の大きくない事件を内部調査部でしてみたい。

「SDGsは持続可能な開発目標だよね。『より良い世界を目指しましょう!』みたいな目標だから、企業活動に直接関係が有るものと無いものがあると思うんだ。それがどう詐欺になるの?」

※SDGsの目標は17個あります。17個の目標は、貧困、飢餓、保健、教育、ジェンダー、衛生、エネルギー、成長・雇用、イノベーション、不平等、都市、生産・消費、気候変動、海洋資源、陸上資源、平和、実施手段であり、企業活動に直接関係のあるものとないものがあります。

「正確に言えば、ESGね。気候変動や人権問題などに対応することは企業が長期成長するために必要でしょ。だから、ESGの配慮ができていない企業は投資家の投資対象になりにくい」

※ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取って作られた言葉です。

「ESG投資家への対策という意味?」と俺はルイーズに聞いた。

「そう。ジョーダンが上場企業にESG投資の対象になるように、いろんな提案をしているらしいの」

「その提案内容が詐欺まがいということかな?」

「そういうこと」

 俺とルイーズが話しているのを横で聞いていたミゲルが「ESG投資家対策って、どういうことですか?」と俺に質問してきた。

 ミゲルはベンチャー企業投資を行うホセイドン(ジャービット・エクスチェンジの投資チーム)のメンバーとして動いているから、こういう話に食いついてくる。

 俺はこの件が内部調査部の次の調査案件になるかもしれないから、内部調査部のメンバーを集めた。俺はメンバーが最低限知っておくべきESGに関する説明を始めた。

「まず、『ESG投資』とはESGに配慮した企業に投資することだ。ESGが重視されるようになったきっかけに国連の責任投資原則(PRI:Principles for Responsible Investment)があるんだけど、PRIができてから投資家の中でESG投資が一気に広まった」

「ESGに配慮していない企業はどうなるんですか?」とミゲルが俺に質問した。

「ESGに配慮していない企業は、ESG投資家の投資対象にならないね。だから、株価にはマイナスのインパクトを与える」

「イメージが湧かないのですが・・・どういうことですか?」

「例えば、これを見てくれるかな」

 俺はそう言ってホワイトボードに図(図表9-1)を書いた。

【図表9-1:ESG投資による株価変動】




「この図は【ESG投資の開始前】と【ESG投資の開始後】を分けている。まず、【ESG投資の開始前】の方を見てほしい」

 俺がそう言うと、ミゲルたちは図を見た。

「XファンドとYファンドが、上場会社A社とB社に対してそれぞれ50ずつ投資している。A社への投資額はXファンド50とYファンド50を足した100だよね?」と俺はミゲルに聞いた。

「そうですね。A社もB社も投資されている金額は100です」

「この状態で、Yファンドの投資方針はそのまま変わらず、XファンドがESG投資に変更したとしよう。A社はESG評価(スコア)が高いからXファンドの投資対象になるけど、B社はESG評価が低いからXファンドの投資対象にならない」

「【ESG投資の開始後】のXファンドからB社への矢印が消えていますね」

「そう。YファンドはB社に50の投資を継続するけど、Xファンドの投資はゼロになる。この場合、B社の株価はどうなると思う?」

「XファンドがB社株式を売却するから・・・株価は下がりますね」

「ミゲル君、正解だ! XファンドがB社への投資資金を引き上げることをダインベストメント(Divestment)とも言うね。じゃあ、A社の株価は?」

「A社にはXファンドが100、Yファンドが50投資していますね。投資額が100から150に増えるから、A社株式が買われて株価は上がります」

「ミゲル君、正解! ESG評価が高いA社の株価は上がるけど、ESG評価が低いB社の株価は下がる。だから、上場会社はESG評価を高くしたいんだ」

「へー、そういう理由ですか」

 ミゲルは俺が説明した趣旨を理解したようだ。
 ということは、他のメンバーも理解したはずだ。

<続く>
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登場人物紹介

ダニエル:ジャービス王国の第4王子。総務大臣。

ルイーズ:総務省 内部調査部 課長代理

ジェームス:ジャービス王国第1王子。軍本部 総司令

チャールズ:ジャービス王国の第2王子。内務大臣。

アンドリュー:ジャービス王国の第3王子。外務大臣。

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