第9話 戦いの行方(その2)
文字数 1,758文字
(9)戦いの行方 <続き>
契約上と実際の銅の商流を比較すると、こんな感じだ(図表2-10)。
【図表2-10:契約上と実際の銅の商流】
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円と考えて下さい。
まず、国内商社がジャービス国内市場でジャービス鋼業の代わりに1,500JD/kgで販売する。
次に、国内商社はサンマーティン国の外国鉱山会社に810JD/kgで銅を売ったことになっているから、差額790JD/kg(1,500JD/kg-810JD/kg)をi2に送金する。
国内商社から790JD/kgを受け取ったi2は、サンマーティン国の外国鉱山会社に利益相当額の40JD/kgを送金する。
また、i2は外務省のダミー会社・国軍・ジャービス鋼業に手数料相当額の50JD/kgを送金する。
すなわち、国内商社以外は誰も何もしなくていい、素晴らしいスキームが構築された。
サンマーティン国や外務省は、銅を売らなくてもi2からお金が送金されてくる。
軍本部は、船で銅を運ばなくてもi2からお金が送金されてくる。
ジャービス鋼業が商品市場で銅を売らなくても、国内商社が代わりに売ってくれる。
国内商社も利益の減少額を最低限にしつつ、過剰在庫を持たなくて済む。
ウィンウィン(win-win)だ!
※ウィンウィン(win-win)とは、取引をする双方どちらにも利益がある状況を指す経営用語です。
完全にカルテル潰し作成は形骸化したが、誰も文句は言わない。
理由は、何もしなくも儲かるからだ。
このスキームを最初に思い付いたのは、外務省のアンドリューだ。
『北風と太陽作戦』を開始するにあたって、i2の銅の輸入量を月300tに増やそうとした時に、サンマーティン国の在庫が足りず、過剰在庫を抱える国内商社に話しを持ちかけた。
国内商社にはアンドリューが太陽と映ったようだ。
アンドリューの話にのってしまったが最後、公安から脅迫されて銅の取引をさせられるとは考えていなかったのだろう。
やはり、イソップ寓話は正しかった。
太陽はオッサンのコートを脱がせる。
でも、『コートを脱いだオッサンは無防備だ』ということをイソップ寓話は説明するべきだったのだろう。
『太陽』が必ずしも、『いい太陽』とは限らない。世の中には『悪い太陽』がいる。
その結果、銅の国内価格はここ1年間1,500JD/kgに維持されている。
我々の作った会社(i2)は、サンマーティン国から毎月850JD/kgで仕入れた銅400tを、1,500JD/kgで国内販売し、月2.6億JD((1,500-850)JD/kg×400t)の利益を確保している。
年間ベースで売上高72億JD、利益31.2億JDだ。
何もしていないが儲かっている。
利益31.2億JDから外務省、軍本部、内務省にそれぞれ6.24億JD(31.2億JD×20%)を支払い、内部調査部の取り分は12.48億JDだ。
悪くない。
ルイーズが予想したように、『北風と太陽作戦』では決着が付きそうにない。
どれだけ俺たちが北風を拭かせても、国内商社が取引を止めることを、悪い太陽が許さないからだ。
事件はまだ解決できていないが、続けば続くほど儲かるので、誰も早期決着を望んでいない。悩ましいところだ。
***
そういえば先ほどルイーズがニヤニヤしながら、やってきた。
「内部告発ホットラインに届いたのだけど」と言って紙を差し出した。
***********
政府系企業が、銅の国内市場を荒らしており、国内商社の利益が圧迫されています。
調査のうえ、ご対応をお願いします。
************
送り主のニックネームは「Ruth」と書いてある。きっとスミス達が商社であったルースだろう。
「また来たのか。見なかったことにしよう」と俺は言って、その紙をゴミ箱に投げ入れた。
しつこい奴だ。アンドリューに直接『止めてくれ』と言えばいいのに・・・。
今回の捜査は、悪さをする国内商社に嫌がらせをし、政府としても儲けることができた。
銅価格が下がらなかったのが心残りだ。
『限りなく勝ちに近い、引き分け』とも言えるだろう。
戦歴は1勝0敗1分。
次は完勝できるように頑張ろう・・・。
契約上と実際の銅の商流を比較すると、こんな感じだ(図表2-10)。
【図表2-10:契約上と実際の銅の商流】
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円と考えて下さい。
まず、国内商社がジャービス国内市場でジャービス鋼業の代わりに1,500JD/kgで販売する。
次に、国内商社はサンマーティン国の外国鉱山会社に810JD/kgで銅を売ったことになっているから、差額790JD/kg(1,500JD/kg-810JD/kg)をi2に送金する。
国内商社から790JD/kgを受け取ったi2は、サンマーティン国の外国鉱山会社に利益相当額の40JD/kgを送金する。
また、i2は外務省のダミー会社・国軍・ジャービス鋼業に手数料相当額の50JD/kgを送金する。
すなわち、国内商社以外は誰も何もしなくていい、素晴らしいスキームが構築された。
サンマーティン国や外務省は、銅を売らなくてもi2からお金が送金されてくる。
軍本部は、船で銅を運ばなくてもi2からお金が送金されてくる。
ジャービス鋼業が商品市場で銅を売らなくても、国内商社が代わりに売ってくれる。
国内商社も利益の減少額を最低限にしつつ、過剰在庫を持たなくて済む。
ウィンウィン(win-win)だ!
※ウィンウィン(win-win)とは、取引をする双方どちらにも利益がある状況を指す経営用語です。
完全にカルテル潰し作成は形骸化したが、誰も文句は言わない。
理由は、何もしなくも儲かるからだ。
このスキームを最初に思い付いたのは、外務省のアンドリューだ。
『北風と太陽作戦』を開始するにあたって、i2の銅の輸入量を月300tに増やそうとした時に、サンマーティン国の在庫が足りず、過剰在庫を抱える国内商社に話しを持ちかけた。
国内商社にはアンドリューが太陽と映ったようだ。
アンドリューの話にのってしまったが最後、公安から脅迫されて銅の取引をさせられるとは考えていなかったのだろう。
やはり、イソップ寓話は正しかった。
太陽はオッサンのコートを脱がせる。
でも、『コートを脱いだオッサンは無防備だ』ということをイソップ寓話は説明するべきだったのだろう。
『太陽』が必ずしも、『いい太陽』とは限らない。世の中には『悪い太陽』がいる。
その結果、銅の国内価格はここ1年間1,500JD/kgに維持されている。
我々の作った会社(i2)は、サンマーティン国から毎月850JD/kgで仕入れた銅400tを、1,500JD/kgで国内販売し、月2.6億JD((1,500-850)JD/kg×400t)の利益を確保している。
年間ベースで売上高72億JD、利益31.2億JDだ。
何もしていないが儲かっている。
利益31.2億JDから外務省、軍本部、内務省にそれぞれ6.24億JD(31.2億JD×20%)を支払い、内部調査部の取り分は12.48億JDだ。
悪くない。
ルイーズが予想したように、『北風と太陽作戦』では決着が付きそうにない。
どれだけ俺たちが北風を拭かせても、国内商社が取引を止めることを、悪い太陽が許さないからだ。
事件はまだ解決できていないが、続けば続くほど儲かるので、誰も早期決着を望んでいない。悩ましいところだ。
***
そういえば先ほどルイーズがニヤニヤしながら、やってきた。
「内部告発ホットラインに届いたのだけど」と言って紙を差し出した。
***********
政府系企業が、銅の国内市場を荒らしており、国内商社の利益が圧迫されています。
調査のうえ、ご対応をお願いします。
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送り主のニックネームは「Ruth」と書いてある。きっとスミス達が商社であったルースだろう。
「また来たのか。見なかったことにしよう」と俺は言って、その紙をゴミ箱に投げ入れた。
しつこい奴だ。アンドリューに直接『止めてくれ』と言えばいいのに・・・。
今回の捜査は、悪さをする国内商社に嫌がらせをし、政府としても儲けることができた。
銅価格が下がらなかったのが心残りだ。
『限りなく勝ちに近い、引き分け』とも言えるだろう。
戦歴は1勝0敗1分。
次は完勝できるように頑張ろう・・・。