第11話 投資計画を説明しよう(その3)
文字数 1,676文字
(11)投資計画を説明しよう <続き>
私はチャールズに渡した資料をもとに、ジャービット・エクスチェンジのスポンサー案件の説明を始めた。
気のせいかもしれないが、チャールズからねっとりとした視線を感じるような気がする。
なるべく目は合わせたくないな・・・
私はさっさと説明してしまうことにした。
「まず、ジャービット・エクスチェンジの経営陣は、顧客からのジャービット・コインの買取価格を2万JDにしたいようです」
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円と考えて下さい。
「2万JD? 何か理由はあるの?」
「理由は、顧客のジャービット・コインの平均取得単価が約2万JDだからです。ジャービット・コインの買取価格を2万JDにすれば顧客から不満が出ないだろうと考えているようです」
「へー。そんなこと気にしなくてもいいのにな・・・」
「そう思います。私も何度か2万JDよりも低い価格で買取りするように促しました。ですが、『顧客に迷惑を掛けるのは避けたい』と言って、現経営陣は2万JDでの買取りを強く主張しています。我々がスポンサーとして支援する条件を2万JDよりも低い買取価格とすると、現経営陣は反対するでしょう」
「『顧客に迷惑を掛けたくない』か。それで、ジャービット・コインを2万JDで買取った場合に必要な金額は?」とチャールズは私に質問した。
「顧客が保有しているジャービット・コインは10万個です。1ジャービット・コインを2万JDで買取ると総額で20億JD必要です。それに対して、現在会社が保有している資金は15億JDです」
「じゃあ、全てのジャービット・コインを顧客から買取ると最大で5億JD不足するのか」
「そうです。だから、我々がスポンサーとしてジャービットに出資する金額は5億JDです」
「スポンサーとしての出資額は5億JD・・・。暗号資産の発行会社と交換業者を買収するのに5億JDであれば、そんなに高くないね」
チャールズはこのスポンサー案件に興味を持ったようだ。
チャールズが興味を持ったようなので、私は説明を続ける。
「会社への提案はこの2つにしました。2案を提示して、どちらがいいかを現経営陣に選んでもらおうと思っています」
私はそう言って、チャールズに渡した書類の該当箇所を指し示した。
少し前屈みになったのだが、チャールズの視線が私の胸元を見ているような気がする。
私は気にせずに説明を続ける。
==============
提案1:ジャービットの株式を既存株主からi5が1JDで買取る。その後、i5はジャービットに5億JDを出資する。
提案2:ジャービットの株式を既存株主から1億JDで買取る。その後、ジャービットは投資有価証券を既存株主(現経営陣)に1億JDで売却する。i5はジャービットに4億JDを出資する。
==============
「2つの提案の違いは、ジャービットが保有している投資有価証券を継続保有するか、経営陣に引き取ってもらうかです」と私は説明した。
「投資有価証券がそんなに価値があるものなのか?」とチャールズが言った。
「価値があると言えばあります。ジャービットは過去5年間に約100社、10億JDのベンチャー企業への投資を行なっています」
「100社も出資してるのか。まるでベンチャーキャピタルだな・・・」
「ジャービットは100社のベンチャー投資から既に20億JDを回収しています。そういう意味では、非上場株式の投資は成功していると言えるでしょう。ジャービットは投資した約100社のうちまだ60社を保有しています。過去の投資実績からすれば、更に投資回収できるかもしれません」
「ところで、提案2の書きぶりからすると、内部調査部では投資有価証券を1億JDで評価しているのか?」
「そうです。我々は今回の投資を、民事再生法の適用を前提としています。投資有価証券の評価については、投資先の簿価純資産額で計算した株式価値をもとに1億JDとしています」
「簿価純資産額法で1億JDか・・・」とチャールズは言った。
<続く>
私はチャールズに渡した資料をもとに、ジャービット・エクスチェンジのスポンサー案件の説明を始めた。
気のせいかもしれないが、チャールズからねっとりとした視線を感じるような気がする。
なるべく目は合わせたくないな・・・
私はさっさと説明してしまうことにした。
「まず、ジャービット・エクスチェンジの経営陣は、顧客からのジャービット・コインの買取価格を2万JDにしたいようです」
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円と考えて下さい。
「2万JD? 何か理由はあるの?」
「理由は、顧客のジャービット・コインの平均取得単価が約2万JDだからです。ジャービット・コインの買取価格を2万JDにすれば顧客から不満が出ないだろうと考えているようです」
「へー。そんなこと気にしなくてもいいのにな・・・」
「そう思います。私も何度か2万JDよりも低い価格で買取りするように促しました。ですが、『顧客に迷惑を掛けるのは避けたい』と言って、現経営陣は2万JDでの買取りを強く主張しています。我々がスポンサーとして支援する条件を2万JDよりも低い買取価格とすると、現経営陣は反対するでしょう」
「『顧客に迷惑を掛けたくない』か。それで、ジャービット・コインを2万JDで買取った場合に必要な金額は?」とチャールズは私に質問した。
「顧客が保有しているジャービット・コインは10万個です。1ジャービット・コインを2万JDで買取ると総額で20億JD必要です。それに対して、現在会社が保有している資金は15億JDです」
「じゃあ、全てのジャービット・コインを顧客から買取ると最大で5億JD不足するのか」
「そうです。だから、我々がスポンサーとしてジャービットに出資する金額は5億JDです」
「スポンサーとしての出資額は5億JD・・・。暗号資産の発行会社と交換業者を買収するのに5億JDであれば、そんなに高くないね」
チャールズはこのスポンサー案件に興味を持ったようだ。
チャールズが興味を持ったようなので、私は説明を続ける。
「会社への提案はこの2つにしました。2案を提示して、どちらがいいかを現経営陣に選んでもらおうと思っています」
私はそう言って、チャールズに渡した書類の該当箇所を指し示した。
少し前屈みになったのだが、チャールズの視線が私の胸元を見ているような気がする。
私は気にせずに説明を続ける。
==============
提案1:ジャービットの株式を既存株主からi5が1JDで買取る。その後、i5はジャービットに5億JDを出資する。
提案2:ジャービットの株式を既存株主から1億JDで買取る。その後、ジャービットは投資有価証券を既存株主(現経営陣)に1億JDで売却する。i5はジャービットに4億JDを出資する。
==============
「2つの提案の違いは、ジャービットが保有している投資有価証券を継続保有するか、経営陣に引き取ってもらうかです」と私は説明した。
「投資有価証券がそんなに価値があるものなのか?」とチャールズが言った。
「価値があると言えばあります。ジャービットは過去5年間に約100社、10億JDのベンチャー企業への投資を行なっています」
「100社も出資してるのか。まるでベンチャーキャピタルだな・・・」
「ジャービットは100社のベンチャー投資から既に20億JDを回収しています。そういう意味では、非上場株式の投資は成功していると言えるでしょう。ジャービットは投資した約100社のうちまだ60社を保有しています。過去の投資実績からすれば、更に投資回収できるかもしれません」
「ところで、提案2の書きぶりからすると、内部調査部では投資有価証券を1億JDで評価しているのか?」
「そうです。我々は今回の投資を、民事再生法の適用を前提としています。投資有価証券の評価については、投資先の簿価純資産額で計算した株式価値をもとに1億JDとしています」
「簿価純資産額法で1億JDか・・・」とチャールズは言った。
<続く>