第4話 家族会議(その3)

文字数 1,464文字

(4)家族会議 <続き>

 俺が国王に為替相場の影響を説明した後、チャールズが続けて国王に言った。

「ダニエルが説明したように、ジャービス・ドルが安くなったら悪いということはありません。ただ、ヘッジファンドがジャービス・ドルを空売りして下げようとしていて、ジャービス王国としてどう対応するかを予め決めておいた方がいいと思います。為替介入するにしても、周辺国に説明が必要になりますから」

「そうだな・・・」国王はそう言って考え始めた。

 国王はしばらくしてから言った。

「どうしよう?」

 特に考えていなかったようだ。

 俺は国王に助け船を出すために発言した。

「ジャービス王国内でもそれぞれの会社や個人によって、ジャービス・ドルを安い方がいいか、高い方がいいかが違います。まずは、それぞれの立場の意見を国民から聞いてみてはいかがでしょうか?」

「世論調査か?」と国王は言った。

「そこまで大げさなものでなくてもいいと思います。経済団体の会議で意見を集めてもいいですし、国民に対するアンケートでも構いません」と俺は言った。

「意見を聞いた後、どうするつもりだ?」

「例えば、ジャービス・ドル安を支持する方が多ければ、ジャービス王国内の輸出産業を強化するための政策を打ち出せばいいと思います。海外に輸出できる製品を作る企業に補助金を出すなどです」

「ジャービス・ドル高の支持が多い場合は?」と国王は聞いた。

「為替介入も一つの方法です。他には、海外企業をジャービス王国に誘致して設備投資をしてもらうのはどうでしょう? 外国企業がジャービス王国に投資するためには、ジャービス・ドルを買わないといけません。そうすればジャービス・ドル高を誘導できます」と俺は言った。

「そうか」と国王は言った。

「そうだな。そうすれば為替介入しなくてもいいかもな」とチャールズも続いた。

 これで国内の状況を確認してから、対応策を検討することに落ち着きそうだ。

「まずは調査からスタートして、その結果をもとに対応策を検討する。そういうことでいいかな?」国王は言った。

「そうですね」とチャールズは言った。

 他の参加者も頷いているから異論はないようだ。

「それで・・・、誰がやるのだ?」と国王は言った。

 すると、チャールズは間髪入れずに発言した。

「ダニエルが適任です!」

 チャールズが一人で為替問題を抱え込んでいたから、協力してあげたのに・・・。

「いやいや。これは内務省の問題でしょう。総務省が為替対応するとか、おかしいですよ」と俺は反論した。

「だって、総務省には内部調査部があるじゃない?ジャービス王国“内部”の為替問題の“調査”。ほら、“内部”と“調査”が入っている」とチャールズは言った。

「お前、アホか? 内部調査部は不正調査の部署だろ!」と俺は家族会議で珍しく暴言を吐いた。

 チャールズが俺のことを睨んでいる。
 そして、第1王子ジェームスと第3王子アンドリューは巻き込まれないように下を見ている。

 俺とチャールズの口論はしばらく続いた。しばらくすると俺たちの口論を見かねた国王が言った。

「内部告発ホットラインを使った調査ならいいんじゃないか? それなら総務省の負担は少ないはずだ。その後で、為替対応をどこが担当するかを話し合おう」

「分かりました」とチャールズは言った。

 俺も「分かりました。まずは内部告発ホットラインで調査します」と国王に言った。

 内部告発ホットラインの調査なら手間が掛からないし、まあいいか・・・

 そう俺は思ったのだが、その考えが間違いだったことを直ぐに知ることになる。
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登場人物紹介

ダニエル:ジャービス王国の第4王子。総務大臣。

ルイーズ:総務省 内部調査部 課長代理

ジェームス:ジャービス王国第1王子。軍本部 総司令

チャールズ:ジャービス王国の第2王子。内務大臣。

アンドリュー:ジャービス王国の第3王子。外務大臣。

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