第5話 カルテルを疑え(その2)
文字数 1,731文字
(5)カルテルを疑え <続き>
俺が黙っていたら、他のメンバーも気まずいのだろう、黙ってしまった。
少しすると「あの、少しいいですか?」とスミスが遠慮がちに言った。
「もちろん。何かいいアイデアを思い付いた?」と俺はスミスに聞く。
「いいアイデアかどうかは分かりませんが。ルースが言っていた中で、個人的に気になっていたことがあります。具体的には、供給量を直ぐに増やせないと言っていた点です」
「どういうこと?」と俺はスミスに聞いた。
「ルースが言うには、商社は産出国と長期契約で銅を購入しているため、急に輸入量を増やせないと言うのです。でも、銅を外国から仕入れる方法はあるはずです」
「つまり、商社はわざと輸入量を増やさないのではないか、と疑っている?」
「そうです。需給バランスが崩れたのは、銅の需要が増えたのが直接の原因だったとしても、供給量を増やせば元に戻ります」とスミスは答えた。
「そうだね」
「現時点の国際的な銅価格は800JD/kgです。一方、ジャービス王国の銅価格は1,500JD/kgで取引されています。現状では、商社がジャービス王国内の銅価格よりも安い価格(800JD/kg)で輸入しているので、700JD/kgの利益が出ます。利益率は87.5%(700÷800)です。異常なくらい儲かっていると言えます」
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円と考えて下さい。
「利益率80%を超えるのはすごいな」
「これだけ価格が乖離していると、銅の輸入量を増やす方法はいくらでもあると思うんです」
「具体的に、銅の輸入量を増やす方法はあるの?」と俺はスミスに聞いた。
「産出国から銅を直接購入できなくても、他国の商社から間接的に購入すればいいだけです。他国の商社は800JD/kgよりも低い価格で仕入れているので、その価格よりも高く、例えば850JD/kgで買うと言えば、売ってくれるのではないでしょうか?」とスミスは言った。
「それはそうだ。海外の商社も自国で銅を800JD/kgで売るよりも、ジャービス王国に850JD/kgで売った方が儲かる」と俺はスミスの言うことに納得した。
「そうすると、本来はジャービス王国内の商社が、銅を海外商社から仕入れてこないとおかしいのです」
「国内商社は800JD/kgで仕入れて、ジャービス王国で1,500JD/kgで販売しているから、利益率は87.5%(700÷800)。ものすごく儲かっている。つまり、国内商社は輸入量を増やして、銅価格を下げたくない」
「その通りです」
「競争原理が働いていれば、需要と供給が一致して銅価格は国際的な価格で均衡するはずだけど、そうなっていないとすると・・・」と俺は途中で言うのを止めた。
結論をじらして言うと、格好いいからだ。
すると、沈黙を破ってルイーズが「分かった。カルテル!」と言った。俺が導いた答えを横取りして。
※カルテルとは、複数の企業が自由競争をさけ、市場を独占して価格を維持し、利益の増進をはかることを言います。
コイツは、いつもいいところを持っていく。きっと俺への嫌がらせなのだろう。
でも、ここで俺がルイーズに怒っても仕方がない。他のメンバーに小さい人間だと思われるだけだ。
それに、歴代の名探偵は何か言われても決して怒らない。コロンボなんて、いつもヘラヘラしている。
「そうだね。銅を輸入できる状況なのに誰も輸入していないとすると、カルテルが行われている可能性がある」と俺は不本意ながら大人なところを見せた。
俺が話を続けようとすると、前に座っていたミゲルが発言した。
「すいません。正直に言うと、部長とスミスの話にあまり付いていけていません。競争原理が働いている場合と、競争原理が働いていない場合、需要と供給はどう違うのでしょうか?」
ミゲルが勇気を振り絞って俺に質問したようだ。そうだ、おじさんだって、知らないことは恥ずかしいことじゃない。
知らないまま業務に入ってしまうと、何のためにその業務をやっているのか分からなくなってしまう。ひょっとすると、他のメンバーの中にも知らないのがいるかもしれないから、念のために説明しておこうと俺は考えた。
<続く>
俺が黙っていたら、他のメンバーも気まずいのだろう、黙ってしまった。
少しすると「あの、少しいいですか?」とスミスが遠慮がちに言った。
「もちろん。何かいいアイデアを思い付いた?」と俺はスミスに聞く。
「いいアイデアかどうかは分かりませんが。ルースが言っていた中で、個人的に気になっていたことがあります。具体的には、供給量を直ぐに増やせないと言っていた点です」
「どういうこと?」と俺はスミスに聞いた。
「ルースが言うには、商社は産出国と長期契約で銅を購入しているため、急に輸入量を増やせないと言うのです。でも、銅を外国から仕入れる方法はあるはずです」
「つまり、商社はわざと輸入量を増やさないのではないか、と疑っている?」
「そうです。需給バランスが崩れたのは、銅の需要が増えたのが直接の原因だったとしても、供給量を増やせば元に戻ります」とスミスは答えた。
「そうだね」
「現時点の国際的な銅価格は800JD/kgです。一方、ジャービス王国の銅価格は1,500JD/kgで取引されています。現状では、商社がジャービス王国内の銅価格よりも安い価格(800JD/kg)で輸入しているので、700JD/kgの利益が出ます。利益率は87.5%(700÷800)です。異常なくらい儲かっていると言えます」
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円と考えて下さい。
「利益率80%を超えるのはすごいな」
「これだけ価格が乖離していると、銅の輸入量を増やす方法はいくらでもあると思うんです」
「具体的に、銅の輸入量を増やす方法はあるの?」と俺はスミスに聞いた。
「産出国から銅を直接購入できなくても、他国の商社から間接的に購入すればいいだけです。他国の商社は800JD/kgよりも低い価格で仕入れているので、その価格よりも高く、例えば850JD/kgで買うと言えば、売ってくれるのではないでしょうか?」とスミスは言った。
「それはそうだ。海外の商社も自国で銅を800JD/kgで売るよりも、ジャービス王国に850JD/kgで売った方が儲かる」と俺はスミスの言うことに納得した。
「そうすると、本来はジャービス王国内の商社が、銅を海外商社から仕入れてこないとおかしいのです」
「国内商社は800JD/kgで仕入れて、ジャービス王国で1,500JD/kgで販売しているから、利益率は87.5%(700÷800)。ものすごく儲かっている。つまり、国内商社は輸入量を増やして、銅価格を下げたくない」
「その通りです」
「競争原理が働いていれば、需要と供給が一致して銅価格は国際的な価格で均衡するはずだけど、そうなっていないとすると・・・」と俺は途中で言うのを止めた。
結論をじらして言うと、格好いいからだ。
すると、沈黙を破ってルイーズが「分かった。カルテル!」と言った。俺が導いた答えを横取りして。
※カルテルとは、複数の企業が自由競争をさけ、市場を独占して価格を維持し、利益の増進をはかることを言います。
コイツは、いつもいいところを持っていく。きっと俺への嫌がらせなのだろう。
でも、ここで俺がルイーズに怒っても仕方がない。他のメンバーに小さい人間だと思われるだけだ。
それに、歴代の名探偵は何か言われても決して怒らない。コロンボなんて、いつもヘラヘラしている。
「そうだね。銅を輸入できる状況なのに誰も輸入していないとすると、カルテルが行われている可能性がある」と俺は不本意ながら大人なところを見せた。
俺が話を続けようとすると、前に座っていたミゲルが発言した。
「すいません。正直に言うと、部長とスミスの話にあまり付いていけていません。競争原理が働いている場合と、競争原理が働いていない場合、需要と供給はどう違うのでしょうか?」
ミゲルが勇気を振り絞って俺に質問したようだ。そうだ、おじさんだって、知らないことは恥ずかしいことじゃない。
知らないまま業務に入ってしまうと、何のためにその業務をやっているのか分からなくなってしまう。ひょっとすると、他のメンバーの中にも知らないのがいるかもしれないから、念のために説明しておこうと俺は考えた。
<続く>