第9話 デューデリジェンス(その3)

文字数 1,522文字

(9)デューデリジェンス <続き>

 私たちがジャービット・エクスチェンジでの面談を終えて内部調査部に戻ると、会議スペースでダニエルが誰かと話していた。

 総務省の他の会議室でやればいいのに・・・

 この貧乏くさい内部調査部に部外者を入れるなんて信じられない。
 私だったら嫌だ。

 そもそも、内部調査部の会議スペースと呼んでいる場所に置いているのは、小さなテーブルとパイプ椅子2脚だけだ。
 テーブルは安定感がなさすぎて重いものを置けない。書類の束を置いたらバランスを崩して倒れるくらい不安定なテーブルだ。
 そんな場所で打合せをする気が知れない。

 ダニエルはジャービット・エクスチェンジから戻ってきた私を見た。
 会議スペースに来るようにダニエルは私を呼んだから、私は仕方なくパイプ椅子を一つ持って会議スペースに移動する。

「ルイーズ、紹介するよ。こちらは、デトロイト監査法人のパートナーのトーマス。
 トーマスには総務省の別の業務で何度か調査を依頼したことがあるんだ。キッチリと仕事をしてくれるから、ジャービット・エクスチェンジのデューデリをお願いしようと思ってる」とダニエルは言った。

 そういえば、ダニエルがジャービット・エクスチェンジのデューデリ(デューデリジェンス(Due Diligence)の略称。資産査定のこと)を手配すると言っていた。
 デューデリを明日から開始すると弁護士のビルに言ったから、トーマスに作業スケジュールを確認しないといけない。
 私は自己紹介がてらデューデリの打合せをすることにした。

「はじめまして、ルイーズです。今回のジャービット・エクスチェンジの件は、私が担当しています。デューデリについて少し打合せをしても大丈夫ですか?」と私はトーマスに聞いた。

「もちろん、大丈夫です」とトーマスは答えた。

 ロイとポールも参加した方がいいだろうと思って、私は2人を会議スペースに呼んだ。
 ロイとポールがパイプ椅子を持って会議スペースにきたら、狭い会議スペースに5人がぎゅうぎゅうに座ることになった。
 内部調査部の4人でトーマスを取り囲んでいる。圧迫感がすごい。

 トーマスはビックリしていないだろうか?

 私が「狭くてすいません」とトーマスに言うと、トーマスは「いえ、大丈夫です」と言った。
 特に気にしていないようだ。

 ― 他の会議室でやればいいのに・・・

 私は気を取り直して話を続ける。

「つい先ほどまで、ジャービット・エクスチェンジの代理人弁護士と会って、状況を聞いてきました。経営陣はジャービット・エクスチェンジ単体ではなくK諸島籍の親会社ジャービットも合わせて支援してくれるスポンサーを探しているようです」

「2社のスポンサーなのですね?」

「ええ。当方は、初めから親会社のジャービットを買収対象として検討する予定でした。だから、スポンサー候補として2社を支援対象として検討します」

「デューデリの対象会社は暗号資産交換業者のジャービット・エクスチェンジと親会社のジャービットの2社ですね。この2社について、デューデリのスコープ(範囲)はどうしますか?」とトーマスが私に質問した。

 私は、トーマスに会社の財務情報を見せた方が早いと思ったから、書類を渡しながら言った。

「まず、2社の財務情報を見てもらった方が早いと思います。ジャービット・エクスチェンジと親会社ジャービットの過去5年分の決算書と前月末時点の月次試算表がこちらです。」

 トーマスが資料をざっと見たのを確認して、話を続けた。

「見てもらえれば分かると思いますが、2社とも非常にシンプルな決算書です」

「単純なB/S(貸借対照表)とP/L(損益計算書)ですね」とトーマスは言った。


 <続く>
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

ダニエル:ジャービス王国の第4王子。総務大臣。

ルイーズ:総務省 内部調査部 課長代理

ジェームス:ジャービス王国第1王子。軍本部 総司令

チャールズ:ジャービス王国の第2王子。内務大臣。

アンドリュー:ジャービス王国の第3王子。外務大臣。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み